近年、ゲーム業界では特許訴訟が続いている。
ゲームの特許というと、複雑なプログラムや高度な技術を想像するかもしれないが、身近なゲームの仕組みが特許の対象となることもある。
今回は、2014年にカプコンがコーエーテクモゲームスに対して提起し、最終的に1億4000万円もの損害賠償が認められた特許権侵害訴訟を取り上げる。
本件は、特許の有効性や技術的範囲だけでなく、間接侵害、訂正請求、進歩性、損害賠償額の算定など、知財実務上の重要な論点を含む事例である。
カプコンが特許権侵害を主張した2つの特許
本件で問題となった特許を、便宜上「特許A」「特許B」と呼ぶことにする。
特許A(権利行使対象:無双シリーズ)
特許Aは、通常のゲームを立ち上げた後、追加のプログラムが記録されたディスクを読み込ませることで、新しいキャラクターや機能、ステージなどを利用できるようにする仕組みである。
コーエーテクモゲームスの「無双」シリーズが、この特許との関係で問題となった。
特許B(権利行使対象:零シリーズ)
特許Bは、画面上には直接表示されない情報を、コントローラーの振動によってプレイヤーに伝える仕組みに関する特許である。
例えば、ゲーム内でプレイヤーのキャラクターに敵や幽霊などが近づいているものの、その存在が画面上では見えない場合を考えてみる。
対象が遠いときには振動の間隔を長くし、近づくにつれて間隔を短くすることで、プレイヤーは画面に表示されていない情報を振動から感じ取ることができる。
こちらは、ホラーゲーム「零」シリーズが問題となった。
一審は特許Bのみ権利侵害(間接侵害)を認める
一審の大阪地方裁判所は、特許Aについて、新規性欠如の無効理由があるとして、カプコンによる権利行使を認めなかった。
コーエーテクモ側からファミコンソフト「ディープダンジョン」シリーズに関する技術が示され、特許Aの新規性が争われた結果、一審では特許Aについて権利行使が認められなかったのである。
特許Bについては、コーエーテクモ側のゲームに対する特許権侵害が認められたものの、ロイヤリティ料率は売上げの0.5%と、決して高額とはいえないものであった。
結果、一審で認められた損害賠償額は517万円であった。
なお特許Bについて注目したいのが、間接侵害という論点である。
特許Bは、コントローラーの振動によってゲーム内の情報をプレイヤーに伝える仕組みに関するものだったが、ゲームソフトそのものがコントローラーを振動させる機能を備えた遊戯装置そのものというわけではない。
しかし、ゲームソフトをゲーム機に装填してその動作させることで、その遊戯装置全体が特許発明を実施することとなる。
本件では、ゲームソフトをゲーム機に装填した遊戯装置全体の生産にのみ用いる物であることを理由として、ゲームソフトについて間接侵害が認められたのである。
控訴審で特許Aの判断が覆る
一審の判断を不服としたカプコンが控訴したところ、知財高裁では、特許Aについて、一審とは異なる判断が示された。
高裁は、特許Aについて新規性欠如の無効理由があるとは認めず、コーエーテクモ側の一部のゲームが特許発明の技術的範囲に属すると判断した。
つまり、一審では権利行使が認められなかった特許Aについても、控訴審では特許権侵害が認められることになったのである。
この判断を理解するうえで重要なのが、特許の訂正と、進歩性を判断する際の「阻害要因」である。
訂正請求によって何が変わったのか
特許権侵害訴訟では、相手方から特許に無効理由があると主張されることがある。
そのような場合、特許権者が訂正請求によって特許請求の範囲などを訂正し、特許の内容を限定することで、無効理由を解消しようとすることがある。
本件では、カプコンは、追加ディスクに関する記憶媒体から「セーブデータを記憶可能な記憶媒体」を除くように特許を限定する訂正を行ったのである。
この訂正が、阻害要因の判断において重要な意味を持つことになった。
ディープダンジョンシリーズと阻害要因
特許Aの有効性を判断するうえでは、先行技術から当業者が容易に発明できたか、すなわち進歩性があるかという点も重要になる。
ここで問題となった「ディープダンジョン」シリーズは、前作のゲームのプレイ実績を後作に引き継ぐことで、後作を有利に進められるようにし、後作の購入を促すという技術思想を有していた。
つまり、前作のプレイ実績や、それを記録したセーブデータが、後作のゲーム体験に結び付いていたのである。
このような技術思想を前提とすると、前作のキャラクターやプレイ実績をセーブできない記憶媒体に変更することには、技術的な不都合があると考えられる。
高裁は、この点を踏まえ、当該変更には阻害要因があり、当業者が容易に想到できたとはいえないと判断した。
損害賠償額は517万円から約1億4400万円へ
控訴審で特許Aについても侵害が認められた結果、損害賠償額は517万円から1億4384万3710円へと、大幅に増額された。
内訳は次のとおりであり、特許Aに関する損害賠償額が全体の大部分を占めている点が目を引く。
- 特許A:1億2833万3710円
- 特許B:1551万円
特許Aの損害賠償額が高額になった理由
ゲームの売上げは、ストーリー、キャラクター、グラフィック、音楽、ゲームシステムなど、さまざまな要素によって左右される。
したがって、特許技術が使われているからといって、ゲームの売上げ全体がその特許によって生じたと考えることはできない。
本件でも、ゲーム自体の魅力が売上げに大きく貢献していることは考慮されたが、その一方で、特許Aの追加コンテンツを利用できる仕組みも売上げ向上に相応の貢献をしていると評価された。
また、帝国データバンクの調査報告書では、技術分類を「家具、ゲーム」とする特許のロイヤルティ料率の平均が2.5%とされていた。
高裁は、こうした情報も参酌しつつ、特許Aについては3.0%の料率を認定した。
さらに、対象となる「無双」シリーズのソフトが多岐にわたっていたことから、算定の基準となる売上高は約40億円と認定された。
このように、特許Aについては、比較的高い料率に加え、算定の基礎となる売上高も大きかったことが、損害賠償額が高額になった理由と考えられる。
なお、特許Bについても、特許Aほどの貢献度が認められたわけではないものの、損害賠償額は一審から増額されており、一審で認定された料率は0.5%だったのに対し、高裁では1.5%となった。
本件から学べる知財実務上のポイント
本件から、知財実務上、特に注目したいポイントを3つ挙げる。
間接侵害
特許発明を直接実施する製品そのものではなくても、その製品を生産するためにのみ用いられる物を製造・販売するなど、一定の条件を満たす行為は特許権侵害とみなされることがある。
ソフトウェア単体であっても、ゲーム機などと組み合わせることで特許発明に係る装置が成立する場合には、間接侵害が問題となり得る。
訂正請求
特許に無効理由があると主張された場合、特許権者は、特許請求の範囲などを訂正して、発明の内容を限定することがある。
ただし、訂正すれば必ず特許が維持されるわけではなく、訂正後の発明についても、先行技術との関係や進歩性などが検討される。
本件では、訂正による限定と、先行技術に対する阻害要因の評価が、控訴審の判断を理解するうえで重要となった。
進歩性と阻害要因
ある技術から別の技術を容易に想到できたかを判断する際には、単に技術的な要素を比較するだけでは足りない場合がある。
技術の目的や前提となる考え方から、その構成を変更することが難しい事情があれば、阻害要因として進歩性の判断に影響することがある。
本件では、前作のプレイ実績を後作に引き継ぐというディープダンジョンシリーズの技術思想が、阻害要因の判断に関係した。
まとめ
カプコンとコーエーテクモゲームスの特許侵害訴訟では、追加ディスクによるコンテンツ追加の仕組みと、コントローラーの振動によって情報を伝える仕組みという2つの特許が問題となった。
本件は、特許権侵害訴訟において、特許発明の技術的範囲だけでなく、無効理由、訂正請求、進歩性、間接侵害、損害賠償額の算定など、複数の論点が相互に関係することを示している。
特許権侵害の有無によって結論が変わるのはもちろん、特許が有効と判断されるか、そして特許技術が製品の売上げにどの程度貢献したと評価されるかによっても、最終的な損害賠償額は大きく変わり得る。
特に、侵害訴訟を提起された被告側は、特許の有効性について反論してくることが非常に多いので、訂正請求についてはしっかり理解しておきたい。