「マリカー」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。
多くの人が思い浮かべるのは、任天堂の「マリオカート」ではないだろうか。
かつて、公道を走るカートのレンタル事業を行う会社が「MariCAR」「マリカー」などの表示を使用し、さらにマリオなどを思わせるコスチュームを利用したサービスを展開していた。
これに対して任天堂が、表示やコスチュームなどの使用差止め、損害賠償などを求めて提訴した。
東京地裁ではどう判断されたのか
2018年、東京地方裁判所は、旧マリカー社による「マリカー」などの表示、コスチューム、人形などについて、不正競争行為に当たると判断した。
一方で、地裁は、外国語だけで構成されたウェブサイトやチラシについては一定の例外を認めた。
「マリカー」という表示について、「日本語を解しない者の間では周知性が認められない」と判断したのである。
さらに、損害賠償については、会社に対して1000万円が認められたものの、代表取締役個人については、悪意または重大な過失があるとは認められないとして、損害賠償責任を否定した。
知財高裁で何が変わったのか
任天堂と旧マリカー社の双方が控訴し、舞台は知的財産高等裁判所へ移った。
そして2019年の知財高裁判決では、地裁よりも広い範囲で不正競争行為が認められた。
外国語だけのウェブサイトだからという例外も認めなかったのである。
被告側は「マリカーは本件需要者である訪日外国人の間では周知ではない」と主張したが、サービスの需要者は訪日外国人に限られないし、「MARIO KART」という表示は、国外のゲームに関心を有する需要者の間でも、任天堂の人気カートレーシングゲームシリーズを表すものとして「著名な商品等表示」であることを理由としている。
さらに、代表取締役についても悪意または重過失があると認め、会社と連帯して損害賠償責任を負うと判断した。
代表取締役が会社設立当初から唯一の取締役兼代表取締役であり、商号の決定、商標権の取得、表示やドメイン名の使用など重要な事項に関与していたことなどを考慮したものである。
最終的な損害賠償額は、「地裁:会社に1000万円」から、「高裁:会社+代表取締役に連帯して5000万円」へと変わった。
「商標登録していたから大丈夫」ではなかった
この事件で興味深いのが、「マリカー」という商標が旧マリカー社によって登録されていた点である。
旧マリカー社は、この商標権があることを理由に「マリカー」という表示を使用する正当な権限があると主張した。
しかし知財高裁は、商標登録の出願時点で、「マリカー」が「マリオカート」を示すものとして日本国内の需要者の間で周知となっていたことなどを認定し、商標権を根拠とする主張を認めなかった。
その後、この「マリカー」商標については、任天堂による無効審判で無効審決とされるとともに、任天堂自身によって「マリカー」商標を登録するに至っている。
この事件から何を学ぶか
この事件は、「似た名前を使ったら問題になった」というだけではない。
実際の裁判では、
- サービス名・商号
- ウェブサイトやチラシ
- ドメイン名
- コスチューム
- 人形
- 動画・宣伝
- 商標権
- 代表取締役個人の関与
など、事業全体にわたるさまざまな事情が検討された。
知財部の実務でも、他社の有名な商品・サービスを連想させる名称を使用したいという相談はあり得る。
そのとき重要なのは、名称だけを見て判断するのではなく、「誰が、どのような商品・サービスについて、どのような表示や広告を使うのか」を事業全体で見た上で、実際にどれだけ需要者が出所を混同する可能性があるのかを評価することだろう。
そして、自社で商標権を取得しているから何でも自由に使えるとも限らない点は、念のため頭の片隅に留めておきたいところである。