任天堂株式会社および株式会社ポケモンが、パルワールドをリリースしている株式会社ポケットペアを相手取り、特許権侵害訴訟を提起した。

2026年8月現在、本件は東京地方裁判所に係属中である。

「なぜ著作権ではなく特許で戦ったのか?」
「分割出願ってそんな使い方ができるの?」

今回は、これまでの両者の動きを知財の観点から整理してみたい。

なぜ著作権侵害を問わなかった?

巷では「パルワールドはモンスターデザインやボールでモンスターを捕獲するシステム等がポケモンと似ている」と言われており、著作権侵害で争う方が自然にも思える。

しかし、知的財産権の観点から見ると、特許権を選択したことには合理的な理由があるように思われる。

ゲームシステムは著作権の保護対象外

まず、ゲームシステムやルールは基本的に「アイデア」である。

著作権法が保護するのは「創作的な表現」であり、「捕獲アイテムを投げる」「捕獲したモンスターを仲間にする」といったゲームシステムそのものは原則として著作権の保護対象にならない。

もしアイデアまで保護してしまうと、そのアイデアからゲームを作ること自体が難しくなってしまうことから、自由な創作活動を守るべくアイデアは保護の対象外としているのである。

例えば、「ボールを投げてモンスターを捕まえる」というシーンを描いたイラストやゲーム画面であれば、著作権の保護対象となる。

作風・画風そのものは保護対象ではない

次にキャラクターデザインだが、「色使い」「タッチ」「構図」といった作風そのものも、著作権の保護対象とはならない。

もし作風そのものまで保護してしまうと、作風に触発されることで生じる新たな創作や表現を阻害するおそれがあるためである。

つまり、一見「あの作品のキャラっぽい」と感じられたとしても、単なる作風の類似に留まるのであれば著作権侵害とならない。

著作権侵害が認められるには、作風の類似に留まらず、既存キャラクターの「表現上の本質的な特徴(※)」までも類似する必要があるため、思った以上に高いハードルとなる。

※「単なる事実の記載」「ありふれた表現」「表現でないアイディア(作風・画風)」は含まれない

任天堂は著作権侵害で戦えるのか

パルワールドのモンスターは「ポケモンっぽい」と言える程度に作風は似てるのかもしれないが、登場キャラクターの大半で著作権法上の類似性が認められるかというと、個人的にはハードルがかなり高いのではないかと思う。

上述の通り、作風が似ているだけでは著作権侵害とはならない。

また、例えば「大きな顔」「短い手足」「丸みを帯びた胴体」といった表現はありふれていることから、たとえこれらの表現が類似していても、類似部分を「表現上の本質的な特徴」と主張するのは苦しい。

もちろん、一部のモンスターについては表現上の本質的な特徴までも類似しており、著作権侵害が成立するケースはあり得る。

しかし、それならそのモンスターだけを削除したり差し替えれば済む話なので、モンスターが200種類以上登場するパルワールド自体の販売差止めに繋がるとは考えづらい。

したがって、現時点で著作権で争うことは、必ずしも得策ではないと任天堂が考えた可能性がある。

特許権による戦い

著作権とは異なり、特許権はゲームシステムを具体的な技術的構成として権利化することが可能である。

例えば、

  • プレイヤーの操作方法
  • 捕獲アイテムの使用条件
  • モンスターの召喚方法
  • 捕獲モードと戦闘モードの切替方法

などの構成を出願していれば、(特許性があるかという問題はあるが)ゲームシステムそのものを保護対象にできる。

そのため、状況によっては、著作権よりも特許の方が強力な武器になる場合がある。

もちろん任天堂が著作権ではなく特許権侵害訴訟を選択した理由は公表されていないが、ゲームシステム自体を保護対象とし得る特許権の方が、ポケットペアに対する差止請求や損害賠償請求を行いやすいと判断した可能性はある。

分割出願という戦略

任天堂は、権利行使にあたって分割出願制度を活用としている。

分割出願とは、係属中の特許出願(原出願)から別の特許出願を派生させる制度である。

特許出願は**「どこまで権利として認めてほしいか」を記載した「請求項」と、その内容を詳しく説明した「明細書」**から構成される。

つまり、請求項に係る発明が権利範囲となるのであって、明細書に記載された発明の詳細な説明すべてが権利範囲となるわけではない。

しかし、明細書には出願当初の請求項に記載された発明以外にも、将来別の請求項として利用できる技術内容が記載されていることが多く、分割出願をすればその技術内容についても後から権利化できるというわけである。

そして分割出願のメリットとして挙げられるのは、分割出願の出願日は、原出願の出願の時にしたものとみなされる点である。

つまり、特許出願後に競合製品が出てきたら、競合製品の中身を調査した上で、その製品が特許権を侵害するように請求項を検討して分割出願を行う、という運用が制度上可能である。

もちろん、元の明細書に記載されている内容の範囲内でしか分割できず、新しい技術事項を書き足すことは認められない。

しかし逆に言えば、最初の明細書を十分広く記載しておけば、市場に登場した競合製品を見ながら、それに近い権利範囲へ請求項を組み替えることも制度上は可能である。

「後出しジャンケンじゃないか!」と感じる人もいるかもしれないが、この手法は日本の特許実務では珍しいものではなく、有効な知財戦略の一つとされている。

なお、任天堂は2026/8/1時点で1つの原出願から7つもの分割出願を行っており、しかも一部は特許庁に係属させることで更なる分割出願の余地も残している。

設計変更とのいたちごっこ

とはいえ、特許権も万能ではない。

特許は請求項に記載された構成が権利範囲となるため、その一部を変更すれば侵害を回避できる(但し、一部例外もある)。

例えば、

  1. ボールを投げる
  2. モンスターを召喚する
  3. モンスター同士を戦わせる

からなる特許発明があったとき、最初の「ボールを投げる」構成を「杖を振る」といった構成に変えれば、「モンスターを召喚する」「モンスター同士を戦わせる」構成が共通でも権利侵害を免れることができる。

ポケットペアも、パルワールドの仕様を以下のように変更することで、特許権の侵害を回避しようと試みている。

  • 「ボールを投げてモンスターを召喚する」機能を削除し、代わりに「プレイヤーのそばに直接召喚する」仕様へ変更
  • モンスターを呼び出して空を滑空する代わりに、アイテムのグライダーを使用して行う方式に変更

特に装置、機器、物質、医薬品とは異なり、物理的な実体を持たないソフトウェアは基本的に設計変更が容易である。

ポケットペアがバージョンアップを行った結果、変更後のソフトウェアについては、当該特許権の侵害を回避できる可能性が高くなる。

その後も、任天堂は分割出願を継続していることから、設計変更後のパルワールドも視野に入れた権利範囲の構築を試みている可能性がある。

仮に任天堂がゲームのコアとなる基本的な特許を保有していれば、ポケットペアによる設計変更による回避も難しくなり、もっと事情は変わってきていたと思われる。

だが、本来ならゲームとして一般的な「モンスター捕獲・召喚」「モンスターに騎乗して空中移動する」といった演出を、その操作方法等を具体的な技術的構成として権利化していたため、設計変更も比較的容易であったと思われる。

任天堂の反論は通らず

分割出願なら後出しジャンケンも可能だが、もちろん「競合製品をカバーしたい」という発想だけでは特許は取得できない。

例えば、既知技術を単純に組み合わせただけの発明であれば特許として認められないところ、任天堂の分割出願の1つも同様の拒絶理由が通知されていた。

ところが、この審査で少し意外な展開になる。

何と任天堂は、**特許庁が引用した動画を「ポケモンの著作権を侵害するゲーム動画」だと主張し、「審査官がわざわざ侵害品を正規品のように誤った認定をしているのは極めて不適切」**と強い表現で反論した。

これに対し、審査官は「著作権侵害の有無が進歩性判断に影響するとの定めはない」とばっさり切り捨て、拒絶査定を通知した。

拒絶査定の内容だが、「特許実務家にとって標準的な考え方」「非常識な誤解」など、審査官もかなり踏み込んだ表現を用いている。

この件は、筆者も審査官の意見に同調する。

著作権の侵害品であろうと無かろうと、ひとたびその動画が世に出回ればその発明は世の中に公開された技術になるものだから、当たり前だと思う。

この件では、「何で特許の話に著作権侵害を持ち出したのか」「なぜ特許審査で著作権侵害を主張したのか」と疑問視する声も見られている。

任天堂も「著作権侵害品を野放しにしないぞ」という姿勢を見せる意図があった可能性も考えられるが、あまり無理のある主張を展開すると、外部から厳しい評価を受けることもあるのが怖いところである。

レピュテーションも知財戦略の一部

近年はSNSの影響力が非常に大きくなっている。

法的には正当な権利行使であっても、「人気ゲームを潰そうとしている」という印象を一般ユーザーに与えてしまえば、企業イメージに影響する可能性がある。

一方で、権利行使をしなければ、「この程度なら真似しても大丈夫」というメッセージを競合へ与えてしまうおそれもある。

つまり、知財戦略とは単に勝訴を目指すことではなく、

  • 模倣の抑止
  • ブランド価値の維持
  • ユーザーからの評価
  • 企業イメージ

まで含めてうまく立ち回っていくべき経営判断だと言える。

この裁判がどう決着するかはまだ分からない。

しかし、この事件は「知財は権利を取れば終わりではない」ということをよく示している。

どの権利を取得し、いつ、どのように使うのか。

その戦略次第で、企業の競争力やブランドイメージまで左右される。

パルワールド訴訟は、そんな知財戦略の難しさを考えさせられる、非常に興味深い事例だと思う。

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