「特許」と聞くと、最先端の技術や複雑な機械など、高度な発明をイメージする人が多いだろう。
しかし、実際の特許公報を見てみると、「こんなものまで特許になるのか?」と思わず驚いてしまうような発明も存在する。
アクティブタイムバトル(特許第2794230号
ファイナルファンタジーシリーズで有名な「アクティブタイムバトル(ATB)」である。
ATBは、キャラクターごとに時間が溜まり、一定量に達したキャラクターから行動できるようになるゲームシステムである。
従来のターン制バトルに比べてリアルタイム感のある戦闘を実現しているのだが、出願当初は特許庁から「これって単なるゲームルールでしょ?」と拒絶理由を受けている。
特許法上、ゲームのルールなど人為的な取り決めそのものは、自然法則を利用した「発明」には該当しない(特許法29条1項柱書)。
これに対して出願人は、タイマや計時制御手段、キャラクタ制御手段などをコンピュータのハードウェア資源と協働させて具体的に実現するものだと反論し、最終的に登録に至った。
なお、現在は権利満了となっている。
恋愛ゲーム(特許第5710187号)
こちらは、恋愛シミュレーションゲームに関する特許である。
プレイヤーの選択によってヒロインの好感度が変化し、一定以上になるとヒロインから告白される。
そして告白を受け入れればエンディング、断れば以降そのヒロイン関連のイベントが発生しなくなる。
一度振った相手とは、その後の関係がなくなるという、妙に現実的な仕組みである。
さらに「耐久パラメータ」も設定されている。
何度も告白を断るとパラメータが低下し、最終的には本来望んでいない相手からの告白を断れず、なし崩し的に受け入れてしまうという展開になるというわけである。
驚くべきことに、発明者には秋元康さんの名前があり、おそらくAKBの恋愛ゲームに採用されているシステムではないかと思われる。
ゲームのストーリーや演出も、コンピュータ上で実現する具体的な仕組みとして構成すれば、特許の対象になり得るのである。
なお、明細書はかなりしっかりと記載されているようで、図面はデータ構成やフローチャートも含めて35個も掲載されている。
体モノマネシャツ(特許第6366202号)
芸人・秋山竜次さんが発明者となっているユニークな特許である。
シャツの裏側に、モノマネ対象となる人物の顔を上下逆さまにプリントしておき、裾を持ち上げることで、その顔が演者自身の顔と重なって見えるようにする。
お面などの小道具を持たずに顔を変化させられるので、観客に意外性を与え、盛り上がる発明とされている。
しかし、実は出願前から秋山氏自身がこの芸を披露していたWeb記事が存在したため、新規性が問題となっていた。
そこで、シャツの星マークの位置を工夫し、プリントされた顔と演者の顔が適切に重なるような構成を加えることで、権利化が認められている。
「面白いアイデア」であるだけでなく、従来技術との具体的な違いを構成として示す必要があることが分かる事例である。
地球の温暖化防止方法(特許第3742868号)
ここからスケールが一気に大きくなる。
この発明は、長さ数百メートルのヒートパイプを雲より高い位置まで地表から垂直に立て、地表の熱を上空へ放出することで地球温暖化を防止するというものである。
問題となったのは、「本当にそんなものを実施できるのか」という点である。
特許庁からは、「建設費や建設場所などを考えると、実際上実施することが困難ではないか」として拒絶理由が通知された。
これに対し出願人は、「地球の破壊を防ぐためなら、どれだけ費用がかかっても、建設が難しくても、それを克服する努力が必要だ」という趣旨の反論を展開した。
まさに根性論ともいえる反論であるが、その熱い想いが審査官に通じたのか、最終的には拒絶理由が解消され、特許登録に至っている。
故人の弔い装置(特許第2655018号)
さらに壮大なのが、月を墓地にしてしまう発明である。
故人の遺品を入れたカプセルを月に打ち上げ、地球から見える月の表側に着陸させ、そのカプセルを墓標とする。
さらにカプセルには故人の写真や音声を記録しておき、あらかじめ設定した日時になると、地球上の家族へ送信する。
命日に家族が仏壇の前に集まると、月の墓から故人の声や写真が届くというわけだ。
ここでも「本当に実施できるのか」が問題となった。
明細書には、カプセルを月まで飛ばす具体的な方法が十分に記載されていなかったためである。
これに対して出願人は、百科事典を根拠に、「月にロケットを飛ばす技術自体は既に存在しているから、実現もそんなに難しいことではない」と反論した。
そして、この発明も最終的には特許登録されている。
月にカプセルを飛ばし、かつ墓標にする技術は、相当難しい気がするのだが・・・。
ゴルフシミュレーター(特許第4041197号)
「画面に風速10m/sと表示されても、実際にどんな風なのか分からない。それなら本当に風を吹かせればいいじゃない!」という発明である。
ゴルフ練習打席を取り囲むように空気ダクトを設置し、複数の吹き出し口を制御することで、ゲーム内の風向きや風速を実際の風として再現する。
画面で見るだけだった「風」を、身体で感じられるようにしたわけである。
そして、発明者には孫正義さんも名を連ねている。
孫さんは19歳のときに音声付き電子翻訳機を発明して企業に売却し、事業資金を得たという逸話もあり、発明家としての一面も持っている。
ワンクリック特許(特許第4959817号)
次は、Amazonの「ワンクリック注文」に関する特許である。
あらかじめ住所や決済情報などを登録しておけば、商品を1回クリックするだけで注文できる。
入力や確認といった面倒な操作を省略できるため、ECサイトでの購入を大幅に簡単にした。
さらに、同じユーザーが続けて行ったワンクリック注文を、サーバー側で一つの注文にまとめる仕組みも含まれている。
一見すると非常にシンプルな発明だが、消費者の利便性を大きく向上させた点に価値がある。
AppleがAmazonから特許ライセンスを受け、Apple Storeでも同様にワンクリックでの注文を可能としていた経緯からも、その価値の高さが伺える。
この特許は2018年に権利満了しており、現在では同様の仕組みを他社が採用することも可能である。
シンプルな仕組みだからこそ、特許として成立すると強い権利になり得るという好例だろう。
揚げ出し卵豆腐(特許第2051580号)
特許は、なんと料理にも存在する。
この発明は、その名のとおり「卵豆腐を油で揚げてなる揚げ出し卵豆腐」である。
明細書はわずか2ページほどで、卵豆腐を油で揚げることで、風味、香り、舌触りが良好になると説明されている。
「これで特許になるの?」と思ってしまうが、特許になるかどうかは、発明の見た目ではなく、新規性や進歩性などの要件を満たすかどうかで決まる。
もし権利が存続していれば、料理店が業として揚げ出し卵豆腐を提供する行為について、特許侵害が問題になる可能性もある。
一方、自宅で作って自分で食べるような行為は、原則として「業として」の実施には当たらない。
なおこの特許権はすでに消滅しているので、お店でも気兼ねせずに揚げ出し卵豆腐を提供することができるので、安心してほしい。
令和を表現する花火(特許第6990856号)
発明者は、発明家として有名なドクター中松さんである。
外側に数字の「0」を模した花火、その内側に円形の花火を打ち上げることで「令和」を表現するという発明である。
そのロジックは、外側の「ゼロ」=「零」、内側の円=「輪」として、「零輪」=「令和」とするもの。
まさかのダジャレである。
さらに、この花火によって新時代の到来を告げ、観客を楽しませ、集客・増収につなげるという効果まで説明されている。
花火の発光に合わせて「レイワー」という音声を流せば、さらに効果が高まるという。
「たまやー」ではなく「レイワー」というわけだ。
二次元コード付きネイルシール(特許第6232548号)
一見するとファッションや広告に関する発明に見えるが、その目的は認知症患者の安全確保である。
徘徊中の患者が保護された際に身元を確認できるよう、二次元コードを身につけてもらう。
しかし、衣服や靴では患者が脱いでしまう可能性があり、身体に直接コードを書くのも人間の尊厳という観点から問題がある。
そこで着目したのが「爪」である。
爪なら簡単には取り外せず、時間が経てば伸びて切り取られるため、身元確認用の情報を保持する手段として適しているというわけである。
一見すると奇抜なアイデアだが、その背景には患者や家族の安全を守るという、非常に真面目な課題がある。
斜めに傾く靴(米国特許第5255452号)
最後は、知っている人も多いかもしれないが、マイケル・ジャクソン氏の有名なダンスに関する米国特許である。
「Smooth Criminal」で披露された、身体を大きく前方に傾けるパフォーマンスを実現するための靴である。
靴のかかと部分に特殊な切り込みを設け、ステージから突き出したピンに引っ掛けることで、通常なら転倒してしまうような前傾姿勢を可能にする。
発明の名称は「Method and means for creating anti-gravity illusion」、つまり「反重力のイリュージョンを作り出す方法および手段」。
非常に格好いい名称である。
発明者にはマイケル・ジャクソンのほか、衣装や小物を手掛けたマイケル・ブッシュ氏、デニス・トンプキンス氏も名を連ねている。
「こんなものまで特許に?」から見えてくること
こうして紹介してみると、ゲームから料理、月面の墓、花火、ダンス用の靴まで、特許の対象となる発明が非常に幅広いことが分かる。
もちろん、「面白いアイデアなら何でも特許になる」というわけではなく、新規性や進歩性、実施可能性など、様々な要件をクリアする必要がある。
しかし逆に言えば、「こんなものは特許にならないだろう」と思うようなアイデアであっても、技術的な構成として具体化し、特許法上の要件を満たせば、価値のある特許になる可能性がある。
エンジニアが日々の開発の中で「これは他社には真似されたくない」と感じる工夫があれば、最初から特許を諦める必要はない。
何気ない工夫の中に会社にとって重要な発明が隠れているかもしれないので、そんなときはぜひ一度知財部に相談してみてほしい。