商標法第4条には「商標登録を受けることができない商標」が列挙されている。
その中でも実務上よく問題となるのが、商標法第4条第1項第11号である。
他人の登録商標と同一・類似であり、かつ指定商品・指定役務も同一・類似である場合には、商標登録を受けることができない、というものである。
この拒絶理由を受けた場合の主な対応としては、次のようなものが考えられる。
- 指定商品・指定役務を削除する
- 商標が同一・類似ではないことを意見書で主張する
もっとも、引用された他人の登録商標が更新されずに消滅した場合には、この拒絶理由は解消される。
他人の登録商標が消滅すると登録できる理由
特許の場合は、たとえ権利が消滅していても、公知技術として新規性・進歩性の判断に用いられる。
そのため、一度消滅した特許と同じ発明について新たに特許を取得することはできない。
これは、一定期間の独占権と引き換えに技術を公開し、権利期間満了後は誰でも自由に利用できるようにすることで、産業の発達を図るという特許制度の目的によるものである。
一方、商標制度の目的は、商品・サービスの出所表示機能を保護し、業務上の信用を維持することにある。
そのため、商標権者が商標を使用しなくなり、更新もしないのであれば、その商標を独占させ続ける必要性は薄くなる。
したがって、商標権が消滅した後は、他の人が同じ商標を出願し、他の拒絶理由がなければ新たな権利者となることができる。
なお、登録前の先願についても、放棄・取下げ・却下があった場合には、先願を理由とする拒絶理由は解消される(商標法第8条第3項)。
以前は消滅後も1年間登録できなかった
以前の商標法第4条第1項第13号では、商標権が消滅しても、消滅後1年間は同一・類似商標の登録を認めないという規定が存在した。
これは、商標の使用によって形成された信用は、使用を止めても一定期間は残るため、その間に第三者へ登録を認めると出所混同のおそれがあると考えられていたためである。
しかし近年では、製品ライフサイクルが短くなり、早期の権利取得に対するニーズが高まった。
その結果、「1年間登録できない」という制限は権利取得を不必要に遅らせるとして、この規定は削除されている。
消滅しそうな商標を狙って出願する場合の注意点
商標の審査では、審査中に引用商標が消滅した場合でも、その時点で拒絶理由は解消される。
そのため、「引用商標はもうすぐ更新期限だから、とりあえず出願してしまおう」と考えたくなるケースもある。
しかし、商標出願をすると、通常は出願から2、3週間程度経過後に出願内容が一般公開される。
その結果、これまで更新するつもりがなかった商標権者が公開公報を見て、「他社も欲しがっているようだ。やはり更新しておこう。」と考え、更新手続きを行う可能性もゼロではない。
もちろんケースバイケースではあるが、更新期限が近いのであれば、ギリギリまで出願を待った方が安全な場合もある。
もし、満了を迎えそうな他社商標の存在を理由に拒絶理由を打たれた場合は、意見書に以下のような文面を入れておくことも考えられる。
引用商標については、更新手続きがなされておりません。したがいまして、引用商標の存続期間の満了後6月経過後、商標原簿で存続期間の満了が確認された場合は、商標法第4条第1項第11号には該当しなくなったものとしてお取り扱い下さいますよう、お願い申し上げます。
それでも制限が発生するケースがある
もっとも、商標権が消滅したからといって、必ず登録できるわけではなく、他者の使用を排除できるとも限らない。
周知商標に該当する場合
前権利者が使用を続けた結果、その商標が周知となっている場合には、その周知商標と同一・類似であり、同一・類似の商品・役務について使用する商標は登録を受けることができない(商標法第4条第1項第10号)。
先使用権が成立する場合
また、前権利者が商標権消滅後も継続して商標を使用しており、一定の周知性を有している場合には、先使用権が認められる可能性がある(商標法第32条第1項)。
この場合、後から商標登録を受けた者は、混同防止表示を付すことを請求できる(商標法第32条第2項)。
「周知性」の基準は実は違う?
ここで疑問が生じる。
商標法第4条第1項第10号で登録自体が拒絶されるのであれば、そもそも先使用権を認める必要はないのではないか。
この点については学説上、**両者の「周知性」は同じではない(非同一説)**という考え方がある。
この見解では、
- 商標法第4条第1項第10号の周知性は比較的高い知名度が必要
- 商標法第32条第1項の周知性は、それより低い識別力・周知性でも足りる
とされる。
そのため、第4条第1項第10号に該当するほど有名ではなくても、第32条第1項による先使用権だけは認められるケースがあり得る。
中々複雑である。