契約書では、相手方に通知をしたり、承諾を得る際に「書面」や「文書」といった手段を要求することが多い。
口頭では言った言わないの水掛け論になってしまうため、きちんと証拠を残すためである。
それは良いのだが、よく開発者から「これってEメールで承諾を取り付けるのは駄目ってことですか?」と問い合わせを受けることが多い。
結論から言うと、「書面」「文書」いずれも電磁的記録(電子メールなど)を含む旨が契約書に記載されていない限り、Eメールではなく紙で承諾を得る必要があると解釈される可能性がある。
これらの用語の意味するところと留意点を整理しておきたい。
「書面」とは何か(電子メールを含むか)
一般法にあたる民法には、書面を定義する条文は見当たらないが、次のように書面と電磁的記録とを分けて記載しているものが見られる。
(定型約款の内容の表示)
第五百四十八条の三 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。
さらに、民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の第二条第3号では、以下の通り定義されている。
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三 書面 書面、書類、文書、謄本、抄本、正本、副本、複本その他文字、図形等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物をいう。
四 電磁的記録 電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。
つまり、「書面」は紙その他の有体物であって、無体物は含まれない上、書面とは別に電磁的記録の定義もある。
したがって、この法律の中では電磁的記録(電子メール、PDF、チャットなど)は、「書面」とは明確に異なる定義となる。
これらを踏まえると、書面には電磁的記録(Eメール等)は含まないと思ったほうが良さそうである。
「文書」とは何か(電子メールを含むか)
ネット上で検索すると、「文書」は「文字によって意味内容を伝える媒体」を指すと紹介されている記事を見かける。
この定義が当てはまるのなら、文書は紙に限らず、電磁的記録も含まれる、ということである。
確かに、一般的には電子文書なんて言い方もする。
分野ごとの特別法では、「行政文書」「公文書」などといったものの定義では、紙だけでなく電子記録も含めることが明記されている場合もある。
しかし、どうも「文書」に電磁的記録を含むと定義する法律が見つからない。
寧ろ、上で紹介した民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の定義を見ると、「文書」は「書面」のひとつ(つまり、下位概念)という位置づけとなっている。
すると、文書も書面と同様、電磁的記録は含まないと解釈される可能性があるのではないだろうか?
あくまで私見ではあるが、文書であっても電磁的記録は含まないと考えておいた方が安全かと思う。
実務上の留意点・対応
締結した契約書に「通知は書面によって行う」とある場合、原則として紙での通知が求められることとなるので、横着してEメールのみの通知に留めることはしない方が良いだろう。
もし契約段階で電磁的記録もOKにしたければ、契約自由の原則(民法521条)に従い、契約書の文言を「通知は書面(電子メールその他の電磁的記録を含む。)によって行う」と明記すれば良い。
仮に書面という文言のみで契約を締結した後に「やっぱりEメールのやり取りも入れたい」となれば、面倒ではあるが契約書の修正覚書を締結するのが望ましい。
文書という用語についても、書面と同様の対応で問題ないだろう。
仮に文書という用語自体に電磁的記録を含んだとしても、電磁的記録を含むと念押しする分には全く問題ない。
逆に電磁的記録を含みたくなければ、先ほどとは反対に電磁的記録は含まない旨を括弧書きで追記すれば良い。
なお、意図的に使い分けているのでなければ、「文書」「書面」という用語が同じ契約書内で登場するような表記ゆれは好ましくない。
よくある表記ゆれに関して知りたければ、以下の記事を参考にしてみてほしい。
契約ドラフトを相手方に提示するとき、一部表記ゆれがある点を指摘され、修正を求められることがある。 同じ意味に見えても、表記が異なることで、...