秘密保持義務違反された場合の現実的な対応

秘密保持契約(NDA)を締結したり、委託契約等で秘密保持条項を設けていたとしても、残念ながら情報漏えいが起きるときは起きる。 筆者も、以前勤めていた企業で秘密情報を取引先に勝手に論文に掲載されてしまったことがあり、そのときの技術部長の怒り具合は大変なものであった。 相手方から漏えいされてしまった場合だか、法的には損害賠償請求が可能であるものの、実務上は金銭的解決が機能しにくい場面が殆どではないかと思う。 「なら相手に何を要求出来るんだ」という話になると思うので、秘密保持違反が発生した場合に企業として取り得る現実的な対応を考えてみたい。 なぜ損害賠償請求は難しいのか 秘密保持違反に対しては、契約違反として損害賠償請求を行うことが可能である。 しかし実務上は以下の点が障害となる。 秘密情報の漏えいによる損害額の立証が困難 逸失利益や超過利益の算定が現実的でない 情報が市場に流通した後は、損害範囲が不明確になりやすい 取引関係の維持を考慮すると訴訟に踏み切りにくい 結果として、「法的には可能だが実行しにくい」手段になりがちである。 仮にNDAに損害賠償の範囲や算定方法を規定しても、結局は損契約違反と損害発生との間の因果関係や、損害の額の立証が難しい。 また「違反があった場合には●●万円を賠償する」という具体的な違約金の設定をすることも考えられるが、事前の違約金の算定も難しい上、あまりにも高額な違約金の場合は契約相手も難色を示すだろうし、また民法上の公序良俗違反とされ無効な条項となるリスクもあることから、違約金を設定しているNDAは殆ど無いものと思われる。 筆者の経験上も、具体的な違約金を定めたNDAは見たことがない。 因みに、労基法16条の関係で、従業員の間の就業規則において秘密保持義務違反時の違約金を定めることはできない。 そのため、実務上は金銭的回収よりも、被害拡大の防止と関係修復を優先した対応が中心となる。 原状回復の要請 まず最優先となるのは、これ以上の秘密情報の拡散を止めることである。 第三者への拡散の遮断 もし、相手方が秘密情報を開示してしまった第三者が特定できる場合には、 第三者との間で新たにNDAを締結させる 情報の使用・再開示の禁止を明確化させる といった措置を求める。 完全な回収は不可能であっても、利用範囲を契約上拘束することで被害拡大を抑制できる。 資料・データの回収および削除 更に、可能な範囲で、データの削除、資料の返還、社内共有データからの除去を求める。 証跡として削除報告書の提出を求めることも想定される。 特許出願がされていた場合の後始末 漏洩した秘密情報が技術情報の場合、それが特許出願に利用されてしまうケースもあり得る。 その場合は、出願公開制度との関係で、対応は時間軸によって異なる。 出願公開前の場合 特許出願が公開される前であれば、 出願の取下げ 明細書内容の補正(秘密情報の削除) を要請することが現実的な対応となる。 公開されてしまうと情報は原則として不可逆的に公知化するため、迅速な対応が必要となる。 出願公開後の場合 既に公開されている場合、情報の非公開化は不可能である。 そのため、完全な穴埋めというわけには行かないが、 特許を受ける権利の全部または一部の譲渡 共同出願への変更 といった形で権利関係の是正を図ることになる。 再発防止対応 原状回復に対応してもらった後も、違反の発生原因を曖昧にしたままでは再発リスクが残る。 そこで実務上は原状回復の要請とともに以下のような再発防止対策を求めることが多い。 漏えいに至った経緯の報告書提出 管理体制の見直し 再発防止策の提示 関係者への教育実施 ここで重要なのは責任追及そのものではなく、管理体制の改善を文書として残させる点にある。 これにより、将来同様の問題が起きた場合の抑止力にもなる。 相手側に今後も良い付き合いを続けていく気があれば、真摯に対応してくれるはず…である。 まとめ 秘密保持違反への対応は、以下の通り「損害の回収」よりも「被害の拡大防止」と「将来リスクの管理」に重点を置くのが現実的である。 損害賠償請求は理論上可能だが実務的ハードルが高い 現実的な対応 原状回復措置により拡散を止めることが最優先 再発防止策を文書化させることが重要 秘密情報は、一度拡散すると完全な回復が難しい。 したがって、違反発生後の対応だけでなく、今後の管理体制を含めた予防設計こそが最も重要な対応となる。 自分たちが漏洩させてしまった側となった場合も、再発防止策含めてできるだけ真摯に対応することで、取引先との関係性を悪化させないよう努めておきたい。 もちろん、こんなケースを検討せずに済むのが一番ではあるのだが。

February 22, 2026

英文契約書ドラフト時の基本的な用語・表現

英文契約書には日常の英語とは異なる独特の表現方法が多く、慣れないと読みづらいのだが、外国事業者との契約においては英文契約書を取り扱わざるを得ない。 本記事では、英文契約書のドラフトやレビュー時に実務上押さえておくべき最低限のポイントを備忘録として整理しておく。 筆者も実務を通じて知識をアップデートしているところなので、定期的に内容はブラッシュアップしていきたい。 用語の使い方 条文構造を示す用語 article, section:条 paragraph:項 item:号 用語の定義 1文字目を大文字にする(例:”Agreement”, “Party”, “Confidential Information”) “the same shall apply hereinafter:以下同じ 義務・権利を示す助動詞 義務を表す表現 shallが一般的。willも義務を表すが、shallと混在する場合は義務の程度が弱くなる(法的拘束力が怪しくなる)。原則、shallで統一すること。 禁止を表すなら、shall not。must notは使わないこと。 mustは使わない。mustが使われるのは「~でなければならない」というように、資格要件を表す場合。 権利を表す表現 mayが一般的。be entitled toと表すことも。 努力義務を表す表現 endeavor:~するよう努める shall endeavor:努力義務を負う best endeavors / best efforts:最大限の努力 reasonable efforts:合理的な努力 commercially reasonable endeavors / efforts:商業的に合理的な努力(経済的合理性を超える負担までは要求しない) 条件・場合を示す表現 in the event (that):~の場合 subject to:~に従って、~を条件として notwithstanding:~にもかかわらず(優先関係を示す) 優先関係を示す表現 shall prevail, supersede, override:(条項、他の契約などが)他に優先する 「~に定める」の表現方法 set forth in, provided in, specified in, set out in, described in, prescribed in, stipulated in, stated in 契約文言としては set forth in や provided in が最も一般的 written inはNG (書かれている、という意味になってしまう) 目的の限定 solely for the purpose, only for the purpose 現状有姿(保証を伴わない現状有姿で製品等を提供する際に用いる) as is Hereで始まる契約特有表現 hereof:本契約の hereto:本契約に対して hereby:本契約により hereunder:本契約に基づき hereon:本契約上に herewith 本契約と共に hereinafter 本契約以降(例:hereinafter called “Agreement”) 包括表現(例示に限定されないことを明確にする) including but not limited to 遵守義務の表現 ...

February 15, 2026

ブランド戦略の基本整理

言わずもがな、消費者にとってブランドイメージは商品・サービス選択の判断基準のひとつとなる。 他社と比べて突出して優れた商品であれば最初は市場を席捲できるだろうが、中長期的にみると他社製品の機能が追い付いてくる可能性もあるわけで、結局は先を見据えたブランド戦略の検討が必要になってくる。 知財部は商標等を侵害しないよう確認する役割を果たすが、ブランド戦略についても多少は理解しておいたほうが良いと思ったところである。 そこで、ブランドが何をしてくれるのか、そしてブランドを育てていく上でどんな戦略があるのかについて個人的な考えも含めてまとめてみた。 ブランドのもたらす便益 一口にブランドと言っても、どんな嬉しさがあるのだろうか? David Aakerの『ブランド論』では、そんなブランドの便益を以下の4つに分類している(「社会的便益」は、その他3分類を提唱してから20年後に追加された)。 便益 概要 便益の例 機能的便益 機能・品質など、客観的に説明可能な価値 軽い、壊れにくい、精度が高い、燃費が良い、安全性が高い、健康に良い(低糖質/低カロリー等)、サポート体制が充実している 情緒的便益 使用時の感情的満足や心理的価値 ワクワクする、安心する、優雅な気分になる、癒される、誇らしい気持ちになる、ノスタルジーを感じる、特別扱いされていると感じる 自己表現便益 ブランドを通じて自分を表現できる価値(例:クリエイティブ、成功者、家族思い) クリエイティブ、成功している、環境意識が高い、技術志向、健康志向、家族思い、アウトドア志向 社会的便益 ブランドを通じて他者との関係性や所属感を得る価値(例:社交的、コーヒー好き) スポーツ好きの集団の仲間、コーヒー好きの集団の仲間、環境に配慮する消費者たちの仲間、ヒップホップ文化愛好家の仲間 真っ先に思いつくのは「機能的便益」だが、実際には各社の機能的便益にはそれ程差は無く、むしろ顧客は**「情緒的便益」「自己表現便益」「社会的便益」といった感情的な要因**でブランドを選択することも多い。 自社では、これらのどの便益を意識して顧客に選んでもらえるブランドを育てていくのか、あるいはバランス良く育てていくのかを考えていく必要がある。 例えば、トヨタ自動車が展開している高級車のブランド「レクサス(LEXUS)」を題材にして、これら4つの便益を考えてみる(筆者の主観で作成したものなので、人によって異なるかと思う)。 機能的便益 情緒的便益 静粛性が高い、高燃費、耐久性が高い、安全性が高い(運転支援システムが入っている)、販売店のサービスが充実 優雅な気分になる、余裕を感じる、所有することへの満足感、特別扱いされていると感じる 自己表現便益 社会的便益 派手さより本質を重視する、落ち着いた成功者、長期視点で物を選ぶ 品質志向のオーナー層の仲間、経済的・精神的に余裕のあるオーナー層の仲間 このように、トヨタブランドに共通する「機能的便益」を持ちつつも、例えば「販売店のサービスが充実」といった価値も有している。 そして、これらの機能的便益を軸としながらも、LEXUSというプレミアムブランドならではの「情緒的便益」「自己表現便益」「社会的便益」を併せ持っている。 更に、 「販売店のサービスが充実」→「特別扱いされていると感じる」 「優雅な気分になる」→「落ち着いた成功者」→「経済的・精神的に余裕のあるオーナー層の仲間」 のように、各便益がそれぞれ結びついており、全体的に優れたブランドイメージが形成されていることが良く分かる。 ブランド戦略 ブランド戦略には主に以下の3つの戦略があると言われており、ブランド構築時には、事前にその方針を策定することとなる。 企業名等の下にブランドを展開する「マスター・ブランド戦略」 複数のブランド展開により市場シェアを獲得していく「マルチ・ブランド戦略」 これらを組み合わせる「サブブランド戦略」 マスターブランド戦略 マスターブランド戦略とは、企業名やコーポレートブランドを前面に出し、製品ライン・サービス全体を一貫したブランド連想で束ねる戦略である。 例えば、BMWでは車種を表すときに「BMW」というマスターブランドの下に英数字を付けているし、楽天の例では、「楽天」の冠を使って「楽天市場」「楽天モバイル」「楽天カード」などにのサービス名を展開している。 ブランドを1つに集中することでブランドイメージを構築しやすい一方、1つのブランドイメージが悪化したときのリスクも大きくなり、また異業種参入時にはそれが障害となる。 例えば、庶民向けのイメージが強いブランドを高級志向の製品にそのまま使っても、顧客は食い付かないだろう。 メリット デメリット ・集中したブランド管理による高い投資効率 ・ブランドイメージを蓄積しやすい ・事業拡大/異業種参入時に既存ブランドが邪魔になる ・ブランドイメージ悪化の影響が商品全体に及ぶ マルチブランド戦略 マルチブランド戦略とは、独立した複数のブランドを並立させる戦略であり、各ブランドが独自のポジショニングを持ち、異なる市場や顧客層を狙うこととなる。 上述の通り、例えばトヨタでは「TOYOTA」のほかプレミアムブランドである「LEXUS」を持つ。 P&Gでは洗濯用洗剤と化粧品とで別ブランドを展開し、更に洗濯用洗剤1つとっても「アリエール」「ボールド」「レノア」などの複数ブランドを持つ。 (化粧品メーカーは、他業種と比べてもブランドが多岐に亘っている印象を受ける) メリット、デメリットは、マスターブランド戦略と逆転する。 メリット デメリット ・ブランド毎に明確なポジショニングが可能 ・異業種/新市場参入の自由度が高い ・ブランドイメージが他事業の制約にならない ・ブランド管理・広告投資が非効率になりやすい ・自社ブランド同士でシェアの奪い合いが起きる可能性 サブブランド戦略 こちらは、マスターブランドと個別ブランドを組み合わせる戦略である。 「保証付きブランド戦略」とも呼ばれ、マスターブランドが品質や信頼を保証する役割を果たす。 その一方、個別ブランドがそれぞれ異なる市場向けのポジショニングを持つ。 例えば、ソニーであればSONYをマスターブランドとした「SONY PlayStation」「SONY WALKMAN」、任天堂であれば「Nintendo」をマスターブランドとして「Nintendo Wii」「Nintendo 3DS」を展開している。 もっとも、強力なマスターブランドを有することが前提条件となる。 メリット デメリット ・強いマスターブランド連想を活かし市場参入リスクを低減 ・消費者にとって品質保証として機能する ・サブブランドが増えすぎるとブランド連想が希薄化 ブランドの役割による分類 また、ブランドが担う役割によって、どんなブランドを誰に認知してもらうかが異なってくる。 このパートでは、その役割をざっくり説明したい。 パッケージ型ブランド 主に消費財で用いられるブランドである。 消費財では製品性能の差別化が小さい傾向があるため、市場ブランド自体が「選ばれる理由」になる必要がある。 この場合は**「機能的便益」は期待できず、消費者心理に訴える「情緒的便益」が鍵となり**、一般消費者だけでなく、流通・小売業者への訴求も重要となる。 例えば、シャンプーはその機能に大きな差はないかもしれないが、「特別なケアをしている満足感」「自然・ナチュラルなものを選んでいる満足」といった感情がポイントとなるので、各社広告にも力を入れている。 成分型ブランド 主にBtoB企業で必要とされるブランド形態であり、パッケージ型ブランドとは異なり、「機能的便益」の重要度も高くなる。 「情緒的便益」も大事な役割を果たすが、パッケージ型ブランドのような顧客の感情に訴えるというよりは、 製品の信頼を補強する役割となることが多い。 つまり、**「安心して採用させるためのブランド」**というわけである。 この場合は、製品サービスの機能はもちろんのこと、製品開発思想や生産理念を取引先企業に理解してもらう役割も果たす。 また、場合によってはエンドユーザーへの認知が、取引先への影響力となることもある。 例えば、インテルであれば「Intel 入ってる」というフレーズを使って一般ユーザーへの認知を高めることで、PCメーカーに対する影響力を保持しようとしている。 顧客接点型ブランド ホテル、旅行会社などのサービス業を中心に、人的な顧客接点を伴う事業で重要となる。 顧客へのブランド浸透だけでなく、従業員への理念浸透が不可欠である。 なぜなら、「パッケージ型ブランド」や「成分型型ブランド」とは異なり、各便益は接客体験から得られることが多い、すなわち従業員の行動そのものがブランドを体現するからである。 そのため、そのため、従業員への教育、マニュアル作成などががブランド管理で重要となってくる。 おわりに ブランド戦略に唯一の正解はない。 自社の事業内容、顧客との関係性、将来の成長シナリオを踏まえ、どの便益を軸に、どのブランド構造で価値を届けるのかを意識的に選び続けることが重要である。 ブランドは短期的に作れるものではないからこそ、拡張や変更は慎重に行い、中長期視点で育てていきたい。 もちろん途中で戦略変更することを否定するわけではないが、市場導入済のネーミングやロゴを変更するとなると時間もコストも大幅にかかる上、蓄積したブランドイメージがリセットされるデメリットもあるわけで、やはり初期に広報・知財・事業部が連携して後戻りなき戦略を立案することが望ましいと思う。 実際問題、そこまで社内連携を密にする余裕が無い場合もあるのだが…

ライセンス契約で独占禁止法違反とならないように

特許ライセンスを付与する際、できるだけ自社に有利な条件を付けたくなるところではあるが、あまりやり過ぎると独占禁止法上の「不公正な取引方法」に引っかかる場合がある。 では、具体的にどこまで要求を強めると問題となるだろうか? ライセンスと独占禁止法の関係 独占禁止法第21条によれば、独占禁止法上の規定は知財権の権利行使には及ばないとされている。 それなら大丈夫なようにも見えるが、公正取引委員会の「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成19年9月28日制定)によれば、 「技術に権利を有する者が,他の者にその技術を利用させないようにする行為及び利用できる範囲を限定する行為は、外形上、権利の行使とみられるが、これらの行為についても、実質的に権利の行使とは評価できない場合は、同じく独占禁止法の規定が適用される。 とされており、ライセンス時において権利行使というにはやり過ぎな条件を付けると、独占禁止法が適用されることとなる。 どんな条件が「不公正な取引方法」に該当? 公正取引委員会の指針では、以下4分類を不公正な取引方法となり得る行為としている。 技術を利用させないようにする行為 技術の利用範囲を制限する行為 技術の利用に制限を課す行為 その他の制限を課す行為 ライセンス上、特に問題となるのは3と4となる。 技術の利用に制限を課す行為 以下、公正取引委員会の指針を簡略化したに過ぎないが、リストとしてまとめたものとなる。 自社ビジネスを守りたいがために、必要以上にライセンシーの製造販売条件を縛ると問題となる場合が多い。 カテゴリ 概要 (1) 原材料・部品に係る制限 技術の性能・安全・秘密保持に必要な範囲なら許容。必要以上に購入先等を縛ると問題。 (2) 販売に係る制限 - 地域・数量制限:権利範囲内なら一定程度許容。消尽後や過度な制限は問題。 - 販売先制限:利用範囲制限とは扱われず、競争制限になりやすい。 - 商標使用義務:他商標の併用禁止でなければ通常問題なし。 (3) 販売価格・再販売価格の制限 価格拘束は競争制限が明白で、原則違法。 (4) 競争品の製造・販売又は競争者との取引の制限 競争技術の利用禁止は問題になりやすい。 ただしノウハウ保護に必要な範囲なら許容。 (5) 最善実施努力義務 努力義務に留まる限り問題なし。 (6) ノウハウの秘密保持義務 原則問題なし。 (7) 不争義務 場合によっては無効な権利の存続を助けるため問題となる。 その他の制限を課す行為 こちらの行為についても、概要をまとめてみた。 本来あるべきライセンス範囲を超えた要求をしたり、ライセンシーの研究開発に悪影響を及ぼすと問題となる。 カテゴリ 概要 (1) 一方的解約条件 他の競争制限を実効化する手段として使われるなら問題。 (2) 技術利用と無関係なライセンス料の設定 競争品の利用を妨げる場合は問題。 合理的な算定方法なら可。 (3) 権利消滅後の制限 権利消滅後も利用制限や支払いを課すのは原則問題。 (4) 一括ライセンス 不要技術を抱き合わせると問題(クロスライセンス含む)。 (5) 技術への機能追加 プラットフォーム支配を利用して競争技術を排除する場合は問題。 (6) 非係争義務 ライセンシーの権利行使を制限し競争を弱める場合は問題。 (7) 研究開発活動の制限 原則問題(将来の競争を阻害)。 ノウハウ保護のための必要最小限は可。 (8) 改良技術の譲渡義務・独占的ライセンス義務 原則問題(ライセンシーの研究意欲を阻害)。 (9) 改良技術の非独占的ライセンス義務 通常問題なし。 ただし第三者へのライセンス制限が付くと問題。 (10) 取得知識、経験の報告義 通常問題なし。 実質的にノウハウ提供義務になる場合は問題。 所感 ライセンス条件で真っ先に思いつくのはロイヤリティ料率だと思うが、価格が高額となること自体で「不公正な取引方法」となるケースは案外示されておらず(限度はあるだろうが)、それよりは寧ろライセンシーの行為を制限するような条件を付与する場合に当てはまることが多い印象である。 料率を抑える代わりに何かしらそれに代わるものを要求したり、場合によっては先方から提案されることもあるだろうが、契約を結ぶ前に、上の分類に当てはまらないかは気を付けておきたいところである。

ノベルティ配布は商標権侵害になるのか

企業が広告宣伝の一環としてノベルティグッズを配布することは一般的である。 広報が張り切ってグッズを作成するのは良いのだが、ノベルティに他人の登録商標が付されていると知財としては見逃せないリスクとなりそうに見える。 しかし結論から言えば、ノベルティの配布が「常に」商標権侵害になるわけではない。 その判断は、当該ノベルティ自身が「商品」なのか、それとも単なる「広告媒体」にすぎないのかによって左右される。 ノベルティと商標の「使用」 商標とは「商品又は役務について使用される標識」をいう(商標法2条1項)。 ここで重要なのは、ノベルティに商標が付したときに、そのノベルティ自体が「商品」に該当するのかどうか、それとも「商品の包装又は広告媒体」にすぎないのか、という点である。 この点に関しては、過去の判例が存在する。 BOSS事件(大地判昭和62年8月26日) この事件は、電子楽器を販売する企業が、購入者向けに標章「BOSS」が付されたTシャツをノベルティとして配布していたところ、商標権者が、このTシャツの配布を商標権侵害に当たると主張したものである。 裁判所の判断 裁判所は、配布されたTシャツが「商品」なのか、それとも「商品の包装又は広告媒体」にすぎないのかを判断するにあたり、Tシャツがそれ自体として交換価値を有し、独立して商取引の目的物となっているか否かを基準とすべきとした。 判断にあたっては、以下の事情を考慮している。 Tシャツが、電子楽器と比べて格段に低価格である Tシャツが、電子楽器の広告・販売促進目的で配布されたものである Tシャツは、電子楽器の購入者に限り、一定の条件下で無償配布されたものである 入手者が限定されており、将来市場で流通する蓋然性がない これらを踏まえ、裁判所はTシャツを「包装物又は広告媒体など」に該当すると判断し、商標権侵害を否定した。 「タダで配るから安全」ではない BOSS事件から導かれるポイントは、「無償配布かどうか」という点だけではなく、ノベルティそのものが商取引の目的たり得るかという点にある。 つまり、「無料で配っている」「ノベルティと呼んでいる」という事情だけで、商標権侵害が否定されるわけではない。 事案ごとに、ノベルティの性質や配布態様を踏まえた検討が不可欠となる。 日本実務における整理 日本の実務では、ノベルティに商標を付して配布する行為は商標法2条3項8号の広告的使用に該当し、「ノベルティ自体」(BOSS事件でいうTシャツ)についての使用には当たらないと解されるのが通説である。 そのため、「純粋な販促目的で」「無償配布され」「配布対象が限定され」「市場流通の可能性が低い」といった事情が揃う場合、商標権侵害のリスクは低いと評価されることが多い。 それでもリスクはゼロではない 個人的には、ノベルティ配布であればノーリスクというわけではないと思う。 具体的には、以下のような点に注意が必要ではないだろうか。 反復配布によるリスク ノベルティを反復的・継続的に配布することにより、広告・販売促進の枠を超え、ノベルティ自体が出所表示機能や識別力を有すると評価される場合には、侵害が認められる可能性がある。 現代的事情とのズレ BOSS事件は昭和60年代の裁判例であり、「将来市場で流通する蓋然性がないこと」が判断要素として挙げられている。 しかし、現在では、インターネット通販、フリマアプリ、個人による転売等が一般化しており、ノベルティが二次流通する可能性を一概に否定することは難しい。 例えば、無償配布終了後に余ったノベルティを通常販売したり、インターネット通販で販売するといった行為を行えば、その時点でノベルティは「宣伝広告媒体」ではなく「商品」と評価され、商標権侵害に該当する可能性が高まる。 このように、ノベルティが単なる宣伝広告媒体にすぎないのか、それ自体が商品として流通しているのかは、使用方法や流通経路によっても評価が変わる。 総付景品との関係にも注意 ノベルティは、景品表示法上の「総付景品」に該当する。 総付景品とは、懸賞によらず、商品・サービスの利用や来店を条件として、もれなく提供される景品類をいう。 総付景品には以下の限度額が定められている。 取引価額が1,000円未満:200円まで 取引価額が1,000円以上:取引価額の10分の2まで 商標権の問題とは別に、景品表示法上の規制にも注意が必要となる点は押さえておきたい。 まとめ ノベルティ配布が直ちに商標権侵害になるわけではない 判断の核心は「商取引の目的たり得るか」 無償配布・販促目的でも、流通実態次第で評価は変わる 現代では二次流通リスクを前提に考える必要がある 景品表示法上の総付景品規制にも留意が必要 ノベルティは手軽な販促手段である一方、商標権侵害のリスクがゼロとまではいえない。 「ノベルティだから大丈夫」と安易に判断せず、具体的な配布態様を踏まえ検討することが重要となる…とはいえ、商標権者から警告書を受けたら配布を停止すれば済むと思えば、通常の製品/サービスよりもダメージは遥かに小さい。 個人的には、外部特許事務所による調査まではせずとも、社内での簡易な他社商標調査ぐらいはしておいても良いのではないかと思う。

大学との共同研究で生じた発明の取扱い

大学との共同研究により発明が生じた場合、その特許の取扱いは共同研究契約により定められる。 実務上は、出願前に当事者間で協議し、あらかじめ契約形態を選択しておくことが一般的である。 そうしておかないと、いざ出願後に整理しようとすると利害対立が顕在化し、調整が困難になるためである。 大学によってひな型は異なるが、多くの大学との共同研究契約では、以下の3つを選択肢として設けることが多い。 大学持分の譲渡 独占実施(不実施補償あり) 非独占実施(不実施補償なし) 大学持分の譲渡 大学が自己の持分を企業に有償で譲渡する方式である。 企業が単独権利者となるため、権利行使やライセンス方針を自由に決定できる点が最大の特徴である。 一方、大学は対価(譲渡金)を一括で取得することができる。 譲渡金は結構どんぶり勘定となることも多く、1件あたり100万円程度となることもあれば、もっと吹っ掛けられることも。 大学側としては多くの譲渡金を引っ張りたいという意図があるのは理解できるが、やり過ぎると企業側との関係性にも影響しかねず、最悪研究を途中で打ち切られてしまうリスクもある。 独占実施(不実施補償あり) 大学と企業の共同出願としつつ、企業のみが独占的に実施する方式である。 大学は自ら実施しない代わりに、企業から**不実施補償(実施しないことに対する対価)**を受け取る。 例えば、持分割合が均等の場合は、一般に第三者にライセンスする場合に採用される実施料に不実施者の持分割合の1/2 を乗じた金額を不実施補償料とすることが考えられる。 出願~登録までの費用は企業が全額負担とすることが多い。 また、企業が正当な理由なく実施しない場合、大学が第三者に対し非独占的実施権を許諾可能とする条項を設けることもある。 このように、企業に一定の独占性を与えつつ、大学側にも「活用されない場合の逃げ道」を残す構造である。 共同研究の成果を確実に事業化してもらいたい大学側の意向を反映した形といえる。 非独占実施(不実施補償なし) 企業は非独占的実施権のみを有し、不実施補償は支払わない方式である。 その代わり、大学は第三者に非独占実施権を許諾可能(実施料は大学に帰属)とし、自己の持分を第三者に譲渡することも可能とする。 一方、出願~登録までの費用は、持分割合に応じて負担とする。 特許法73条との関係 特許法73条では、共有特許について第三者への持分譲渡やライセンスには他の共有者の同意が必要とされている。 もっとも、同条は任意規定であるため、共同研究契約で相手方の同意が不要である旨を別途定めれば問題ない。 注意点 大学と共同研究を行った企業は、第三者が実施する場合であっても、共同出願費用や維持費を分担することになる。 企業としては必ずしも実施するとは限らない発明もあるわけで、その場合は「実施しないのに費用だけ負担する」という払い損の構造になりやすく、企業側の納得感が問題になりやすい。 その他 実務上は、一定期間の独占実施を設けるという折衷案も用いられる。 一定期間は共同研究相手の企業が独占的に実施でき、その期間経過後は、大学が第三者へのライセンス活動を行うことを可能とするものである。 この形により、企業は他社に先駆けて製品化でき、大学は将来的な社会実装の機会を確保できる。 また、非独占実施でも不実施補償を求めるケースが見られることがあるが、この点は企業側から見ればかなり不利であり、実務上トラブルになりやすい。 不実施補償をめぐる実務上の難しさ 企業側の立場で言えば、不実施補償の支払いを避けるのであれば、非独占実施とするのが合理的であるが、その場合は大学から競合メーカーにライセンスされる可能性が生じる。 競合へのライセンスを禁止する条項を設ける例も存在するが、実務上は、「譲渡」「独占実施」のいずれかとすることでリスクを根本的に排除するケースが大半である。 また大学側としては出願費用の負担は避けたいという思いから、持分譲渡や独占実施で契約したいという意向が強いようで、経験上は非独占実施とするケースは多くない。 その他、基礎発明と改良発明を分けて考える視点もあり得る。 共同研究の成果については、基礎的な内容として論文・学会発表等で公知化しつつ、そこで得られた知見をもとに社内で製品化をする上で生まれた改良発明は企業側で単独出願するというというものである。 ただその場合は、基本特許の独占は諦める必要が生じるのが悩ましいところである。 企業側の立場としては、共同研究の開始前に自社で生み出した基礎的な発明があれば予め単独出願するのが望ましいことは間違いないので、開発部にはその旨確認して進めたいところである。

特許出願における発明者の国籍・住所・ID番号の記入

中国での2026年法改正により、中国出願時には発明者全員の国籍情報が必要となった。 また、韓国、台湾の出願についても同様である。 そして特許事務を行っていないと意外と気付きづらいが、中国の場合は「身分証明番号」に関する要件もあり、企業実務において無視できない負担となりつつある。 本記事では、発明者の国籍情報が必要な国について確認てみたい。 中国では、発明者全員の国籍確認が必須に 中国特許出願では、これまで筆頭発明者が中国人の場合については、その発明者の身分証明番号(中国身分証明書のID番号)を出すことが求められていた。 身分証明番号は社員の個人情報であって、あまり知財部でも情報として管理したくないのが本音である。 このため、複数の発明者がいた場合は、身分証明番号等を出すことを避けるために敢えて中国人以外の発明者を筆頭発明者にする、という話も聞いたことがある。 しかし、2026年1月1日から施行された中国特許審査指南の改正により、筆頭発明者に限らず、発明者全員について国籍確認が必要となった。 更に、発明者の中に中国国籍のものが含まれる場合、筆頭発明者か否かによらず、身分証明番号の提出が求められることとなったのである。 これら国籍や身分証明番号が公開されるわけではないのだが、知財部の立場からすると、これまで以上に中国人発明者の身分証明番号を取得・管理する必要に迫られることとなる。 韓国・台湾も全員分の国籍情報が必要 中国だけでなく、韓国・台湾でも発明者全員分の国籍情報が必要となっている(ID番号の提示までは必要なし)。 こちらも、国籍情報は開示されない。 因みに、韓国では居住国の開示は不要だが、住所の記載は必要とされており、こちらは開示対象となっている。 しかし、会社が出願する場合で、その従業員などが発明者である場合には、個人住所でなく法人住所等を記載することも可である。 日本でも、例えば「…株式会社内」と会社を居所として記載することができるので、韓国の住所の記載ルールは日本と同じといえる。 台湾に関しては、2004年7月1日の改正特許法の施行により、発明者の住所を台湾智慧財産局へ申告する必要が無くなっている。 発明者の住所開示のメリットは無い? 出願人の住所は、発明内容に興味を持った第三者が問い合わせたり、ライセンス契約の希望を伝える場合等に連絡を取る必要があるため公開が必要、というのはまだ分かる。 しかし、個人情報の取扱いに敏感なこの頃においては、発明者の住所に関してはわざわざ公開する必要性は低いのではないかというのが個人的な感想である。 実際に、発明者個人の住所は会社住所で賄っているケースが殆どである。 個人発明家が出現する場合は、自宅の住所を掲載せざるを得ないケースが多いだろうが、会社員であれば、私書箱(郵便局や一部の民間企業で提供している郵便物受け取りサービス)を契約するとか実家の住所を使わせてもらうといったオプションも考えられる。 各国とも、公開公報に発明書の住所を載せない運用としてほしいところである。 実務上、発明者の個人情報はあまり扱いたくない 知財部が主体となって発明者の国籍情報を得ようとすると、人事部から情報を提供してもらったり、発明者本人から聞く必要がある。 これが中々骨が折れる。 中国出願における身分証明番号についても発明者本人に直接聞くのが手間であるし、発明者から「なぜそこまでID番号まで必要なのか」という疑問を持たれるケースも想定される。 しかし、センシティブな個人情報なので、できれば知財部内でもDBとして持ちたくは無い、というジレンマがある。 個人情報を厳重に管理することを前提に知財部が管理するか、それとも手間ではあるものの出願の度に人事部や発明者に問い合わせるかは、企業によっても方針が分かれるところかもしれない。 主要国のまとめリスト 最後に、日本と各国との発明者情報の必要性についてリスト化しておく。 参考として、米国における発明者の宣誓書に記載する事項も掲載する。 こうやって見比べてみると、日本は出願時に個人情報を求められない方に分類される国なのかもしれない。 国 国籍情報 住所 ID番号 日本 不要 必要 (会社住所可) 不要 中国 必要 不要 必要 韓国 必要 必要 (会社住所可) 不要 台湾 必要 不要 不要 米国 不要 必要(会社住所可)※ 不要 ※発明者の居住地も必要(会社住所不可)。ただし都市名を記載すれば足り、〇丁目〇番地などの記載は不要。

発明者が受け取る報奨金と確定申告の話

企業に勤める開発者は、社内の規定(職務発明規定)に基づき自身の発明に関して報奨金・補償金を受け取ることが多い。 このとき、これら報奨金は「雑所得」で支払われることが多く、1月1日~12月31日までに受け取った額が20万円を超えると発明者自身で確定申告をする必要が生じる。 発明者によっては、確定申告を避けるため、本来は今年中に出願できたはずの発明を翌年に回す者もいると聞く。 特許は早い者勝ちの側面が強いので、知財部員としては早めに出願したいのは山々なのだが。。。 それはさておき、受け取った報奨金・補償金毎に所得の区分、確定申告の必要性等について整理しておきたい。 (知財部員も稀に自身が発明者として名を連ねることもあり、他人ごとではないので) 出願時報奨金 出願時報奨金は、職務発明規定で企業が原始取得するか否かで状況が異なる。 職務発明規定により使用者が原始取得する場合 多くの企業ではこちらが該当するのではないかと思う。 この場合、出願時に支払われる「出願補償金」は、発明者から会社への権利移転の対価ではないため、譲渡所得にはならない。 所得区分:雑所得 源泉徴収:不要 確定申告:年間20万円超で必要 使用者が特許を受ける権利を承継する場合 発明者が有していた特許を受ける権利を、会社に譲渡する形で出願に至る場合、この対価は譲渡所得に該当する。 所得区分:譲渡所得 源泉徴収:不要 確定申告:原則として発明者が行う もっとも、近年はこの形態は少数派となりつつある。 登録時報奨金 特許登録時に支払われる登録時報奨金も、性質は出願時報奨金(原始取得ケース)と同様である。 所得区分:雑所得 源泉徴収:不要 確定申告:年間20万円超で必要 実績補償金(社内実施・ライセンス収入連動) 特許が社内で実施された場合や、第三者に実施許諾され、その実績に応じて支払われる補償金についても、結論は登録時報奨金と同じである。 所得区分:雑所得 源泉徴収:不要 確定申告:年間20万円超で必要 支給額が高額になりやすいため、確定申告漏れが生じやすい点には注意したい。 確定申告まとめ(職務発明規定で企業が原始取得する場合) 報奨金の殆どは雑所得に該当するが、出願時報奨金だけは以下の扱いとなる点に注意である。 職務発明規定により、使用者が特許を受ける権利を原始取得する場合:雑所得 原始取得でない場合:譲渡所得 1/1~12/31までの雑所得の受領額の合計が20万円を超えると発明者自身で確定申告が必要となるところ、譲渡所得の場合は20万円の中にカウントされないという点が、発明者にとって最も重要な実務ポイントとなる。 入社時に説明を受けたきりで中々見返すことがないかもしれないが、事前に職務発明規定はしっかりと確認しておきたい。 特許に至らない発明・工夫への報奨金 最後に、特許出願に至らないケースを整理しておく。 社内提案制度などにより、業務改善、品質向上、経費削減等に寄与した工夫・考案に対して支給される報奨金については、次のように区分される。 通常の職務の範囲内 所得区分:給与所得 年末調整の対象 原則として確定申告不要 通常の職務の範囲外(一時的支給) 所得区分:一時所得 特別控除(50万円)あり 条件次第で確定申告不要となる場合あり 通常の職務の範囲外(継続的支給) 所得区分:雑所得 年間20万円超で確定申告が必要 以前勤めていた会社では社内でノウハウ登録すると特許出願と同程度の報奨金が支払われていたが、その場合は給与所得としてカウントされていたんだな、と気付かされる。 ノウハウ登録は相対的に特許出願よりハードルが低く、それを利用していい小遣い稼ぎをしている開発部員もいたような… 貰える金額の序列は? これは完全に企業によって異なるので一概に言えないが、概ね 実績補償金>登録時報奨金>出願時奨励金>ノウハウ登録報奨金 という序列とする企業が多い印象である。 実績補償金に関しては、例えば主力製品のコア技術として特許が使われていればかなりの額を貰えることもあるので、企業によっては中々夢がある制度である。 しかし、発明者自身で実施を証明する資料をかき集めなければいけないことが多く、これが中々骨が折れる。 また補償金が一定金額を超える場合は、その特許に支払う価値があるのかを判断すべく、取締役も含めた審査会で承認を得る必要があったりと、高いハードルを設けている企業もあるであろう。 一方、登録時報奨金や出願時報奨金は、発明を成せば得られる可能性がそれなりに高く、数をこなせば研究開発部員にとってはそれなりのお小遣いになる。 以前勤めていた企業では、家族用の銀行口座とは別に口座を作って報奨金の振込先に指定する強者もいたほどである。 登録時報奨金は出願時報奨金よりも高額となることが多い印象だが、複数国に出願した場合だと、1国目が登録となったら2国目以降は報奨金は出さない、という運用を取っている場合もある。 気になった方は、是非一度社内の職務発明規定を確認してみると良いだろう。

著作権によるプログラムの保護と登録の必要性

ソフトウェアのプログラムは著作権によって保護され得ることは知っていたものの、知財部員として、その実務上の位置づけについて改めて整理しておきたいと考えた。 場合によっては、特許出願せずとも著作権で十分守れるケースもあるかもしれないので。 ここでは、特許権による保護との違いや、著作権登録制度がどのような場面で意味を持つのかについて、簡単にまとめてみる。 プログラムを特許権と著作権、どちらで保護するか プログラムは特許権と著作権いずれでも保護可能だが、保護手段として著作権のみとするのか、または特許権も取得して守るのかを選択できるよう、それぞれのメリットを整理しておく。 特許での保護によるメリット 特許性のあるプログラムであれば、もちろん特許権を取得する方が権利範囲は広い。 特許ならアルゴリズムといった技術的な要素が保護対象となる一方、著作権の場合はコードそのものを保護するに過ぎず、もしアルゴリズムが同じでもコーディングの表現が異なれば保護されないためである。 一方、侵害立証の際にはアルゴリズムよりもコードが同一である点を立証するほうが容易な場合もあるし、コピーによる海賊版を取り締まるなら著作権で十分という考え方もある。 著作権での保護によるメリット 特許権の取得には決して安くない費用(日本では、特許事務所を経由すると権利化まで100万円はかかるだろうか)を要するが、著作権なら日本では基本的に登録は不要であり、費用もかからない。 日本も加盟しているベルヌ条約では、著作権は創作と同時に発生すると規定しているためである。 また、著作権はベルヌ条約加盟国で保護されるため、日本以外でも保護される点も大きい。 特許権を外国で取得しようとすると、更に工数や費用が重くのしかかる。 著作権の登録手続きを行う意味 一般の著作権は文化庁で登録することができるが、プログラムの場合は一般社団法人ソフトウェア情報センター(SOFTIC)が登録機関となる。 特許権ほどでないものの、登録には費用もかかる。 上述の通り著作権は登録せずとも発生するが、それならなぜわざわざ登録する必要があるのだろうか? 気になって調べてみると、大まかに理由が2つあるようである。 著作権を有することの証明を容易にする効果 著作権が発生するとは言っても、いつ、誰が創作したかを証明するのは意外と大変である。 もし自分が本当にオリジナルを創作したとしても、「貴方は本来の著作権者からデッドコピーをした者では?」と言われたら、どうやって証拠を出せばいいものか考えてしまうかもしれない。 このとき、著作権を登録しておくと、自分が正当な著作権者であることを容易に証明することができるというわけである。 第三者対抗要件の獲得(権利変動に関する) 著作権の権利に動きがある場合は、登録を要する。 具体的には、著作権の移転、質権設定、譲渡担保、信託といった登録により、第三者対抗要件を獲得することとなる。 この辺りは、特許権に近い運用かと思う。 委託契約で著作権帰属の記載があれば第三者対抗要件を獲得? 著作権法第17条第1項によれば、著作権は著作物を創作したものに帰属する。 一方、開発委託契約では、委託先が作成した成果物であっても委託元に著作権を帰属させる旨を記載することが多い。 著作権法第17条第1項は強行法規のため、実際は著作権はいったん委託先に著作権が原始帰属して、その直後に契約に基づいて委託元へ著作権が譲渡されるものと読み替えられる。 この場合、瞬間的に著作権の移転(譲渡)が発生することとなるが、契約書上で「著作権は委託元帰属」と書いてあれば著作権の登録は不要だろうか? 結論としては、この場合は登録が無いと第三者対抗要件は満たさないこととなる。 これを踏まえると、理想的には全ての成果物の著作権を登録すべきではあろうが、開発委託の度にそうするのは現実的ではないし、実際に登録しているといったケースも少なくとも周りでは聞いたことがない。 そのため、実務上は、委託元が希望した場合は委託先が著作権登録を行う協力義務を契約書で定めておくに留まるのではないかと思う。 契約書のひな型にも、そのような文言を忍ばせている企業は多いのではないだろうか。 外国で著作権登録が必要となるケース 米国で生じた著作権については、侵害訴訟を起こすのに登録が必要とされている。 ただし、ベルヌ条約違反とならないよう、外国で生じた著作権に関しては登録は義務付けていない。 したがって、日本で創作されたものなら、侵害訴訟の提起に登録は不要である。 その他、中国でも訴訟前に権利帰属証明として登録証が必要となる。 しかし、自分の経験ではこれまで著作権で訴訟を起こしたり起こされたケースに遭遇したことが無い。 登録するとコードも公開されてしまうのか? プログラムコードは開示されないことも多いが、著作権登録によって公開されてしまうのでは?という懸念があるかと思う。 しかし、著作権登録の場合はプログラムのコードも提出するものの、さすがにコード自体は公開の対象外である。 登録時に提出したコードは、裁判所から提出命令あったときのみ開示されるという扱いである。

商標権を侵害されたときの実務対応

第三者による商標権侵害が疑われる事案では、特許と比べてネーミングやデザインへの思い入れが強いためか、結構感情的な対応となることが多いと聞く。 しかし、当事者になった場合は法的整理と実務的判断を踏まえた冷静な対応を取りたいところである。 特に、相手方との関係性や自社ブランドへの影響を考慮すると、「どこまで権利行使を行うか」という判断は一律ではない。 警告書送付をはじめとする基本的な検討内容は以下の記事に触れている通りだが、本記事では、商標権で特に留意すべき実務的な対応の考え方を整理する。 特許権を侵害された場合の解決ルートと警告書実務 特許侵害が疑われる場面では、いきなり訴訟という選択肢だけが存在するわけではない。 (ごく稀にいきなり訴訟する相手もいるらしいが、幸い筆者は... 商標権侵害と不正競争行為 ご存じの通り、商標権侵害とは、登録された商標と同一・類似のものを、指定商品・サービス(役務)の範囲で無断使用する行為を指す。 一方、自分も実務を行う前は見逃しがちであったが、商標の使用態様によっては、商標権侵害に該当するだけでなく、不正競争防止法上の不正競争行為にも該当する場合がある。 よって、警告書を送付する際は、商標権侵害の主張に加えて、不正競争行為に該当する旨を併記するのが実務上有効である。 とにかく言えそうなことは言っておけ、ということである。 不正競争防止法2条1項1号(周知表示混同惹起行為) 商標登録の有無にかかわらず成立し得る点が特徴であり、登録範囲外の使用態様に対する補完的な主張として有効な場合がある。 成立要件 自己の商品等表示として他人の商品等表示と同一又は類似のものを使用していること 当該他人の商品等表示が周知であること 他人の商品又は営業と混同を生じさせること 不正競争防止法2条1項2号(著名表示冒用行為) 1号とは異なり混同の有無は不要であり、著名ブランドの場合には強力な権利行使手段となる。 ただ、著名であるには全国的に知られている必要があるなど、結構ハードルは高め。 成立要件 自己の商品等表示として他人の商品等表示と同一又は類似のものを使用していること 当該他人の商品等表示が著名であること 自社に及ぶリスクを踏まえた警告書の書き方 ところで、商標の場合は「商標的使用に該当するのか?」という点や、類似性が微妙なケースがある。 また、こちらが過度な主張を行うことにより、却って自社商標の有効性に疑義が生じてしまうというリスクも伴う。 特許のように無効審判を請求されるだけでなく、自身の使用状況(継続して3年以上日本国内で登録商標を使用していない、品質誤認・出所混同を生ずる恐れがある使用を故意にした、等)によっては、 不使用取消審判(商標法50条) 不正使用取消審判(商標法51条、52条の2、53条、53条の2) によって商標が取り消される可能性があるわけである。 こういった懸念が強い場合は、警告書は送付するものの、その中身はマイルドにするという選択肢もあるかと思う。 具体的には、警告書の内容を以下のようにすることが考えられる。 今後の使用を差し控えてほしい旨を記載する 相手方に回答を求めない 弁護士名義ではなく、商標権者名義で送付する 「警告書」というタイトルは高圧的にも聞こえるため、「情報提供」「検討依頼」「通告書」といった表現とする このような場合であれば、内容証明郵便を用いないのが通常である。