会社の代表者の氏名を付した製品サービスの商標登録

それほど需要は高くないだろうが、企業によっては、創業者や社長の氏名を冠した製品やサービスを提供する可能性はゼロではないと思う。 このとき、社長等の氏名を付した製品・サービス名を商標登録する必要があるのかについて考えてみたい。 なお冒頭に変な画像を載せておいて何だが、この記事では決して氏名を付した商標登録出願を止めるよう促すものではないので、そこは理解いただけるとありがたい。 商標登録の目的 商標登録をする目的としては、 第三者の使用を排除:第三者による同一・類似範囲での商標使用の排除 第三者による商標登録排除:他社に同じ商標を登録された場合に、後から自分の商標が使えなくなるリスクを回避 が挙げられるところ、「2. 第三者による商標登録排除」という観点で言えば、あえて商標登録する必要性は低い。 次のパートで理由を説明したい。 他社が商標登録できる可能性は非常に低い そもそも他人の氏名を登録するには、以下の「商標法4条1項8号」という高いハードルがある。 (商標登録を受けることができない商標) 第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。 八 他人の肖像若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)又は他人の氏名を含む商標であつて、政令で定める要件に該当しないもの この条文を整理すると、以下の図のようになる。 ここで、自社とは無関係の他社が、自社の社長の氏名について商標登録できるかというと、少なくとも以下の政令要件を満たす必要がある。 社長と他社との間に相当の関連性(例:社長と他社がライセンス契約を結んでいる)があり、かつ 商標登録が不正目的(例:他人への嫌がらせの目的、先取りして商標を買い取らせる目的)でない このように関連性等の要件が立ち塞がることから、他社が勝手に商標登録するリスクは極めて低いというわけである。 なお、自社が出願人であれば、創業者や代表者とは相当の関連性が認められることとなる。 それでも登録した方が良い? では商標登録しないと「1. 第三者の使用を排除」ができないのでは?というと、確かにその通りではある。 一方、もしその氏名が著名であれば、著名人のパブリシティ権(法律上明示的に認められた権利ではなく、人格権に由来する権利として裁判例上認められてきた権利)の侵害や、不正競争防止法違反となる可能性もある。 このため、社長の氏名がどれだけ周知かにもよるが、商標登録が無かったとしても、他社が勝手に使用する場合には一定の抑制力が働くこととなる。 また商標登録しておくと、登録の事実を公表することでブランドの信頼性をアピールできるし、ライセンス契約によって他社に有償で使用させることも可能となる。 後は、社長の自己顕示欲を満たすことができる・・・かもしれない。 商標登録には以下の通り出願・登録費用がかかるので、本当に必要だと思ったものに対して出願すべきであることは間違いない。 項目 金額 出願料 3,400円+(区分数×8,600円) 登録料 区分数×32,900円(10年毎にかかる) ※2026年3月20日時点の費用 ※中間処理含めた特許事務所の手数料は除く

AI学習用データとして使うなら、個人情報の同意取得が不要となる?

個人情報保護法では、原則として、利用目的の通知またはHP上等での公表を行っておけば、個人情報取得・利用の際の本人同意は不要である。 一方、以下の行為を行う場合は本人の同意を得る必要がある。 個人情報の目的外利用(18条1項) 要配慮個人情報(病歴や犯罪歴など)の取得(20条2項) 第三者提供(27条1項) 例えば、利用目的に自社製品開発を記載していなかったものの、取得した個人情報を自社のAIモデルの学習用データとして流用したくなった場合は、本人同意が必要となる。 また、学習用データに使うため、他企業が取得した個人情報を提供してもらう場合も、本人同意が必要となる。 しかし、既に個人情報を取得した後、各個人に同意を取りに行くのは正直現実的ではない。 ところで、個人情報保護委員会は2026年1月9日に「個人情報保護法の改正方針(案)」を公表した。 この改正が、AIモデル開発企業にとっては朗報となるかもしれない。 統計情報等の作成なら同意取得不要 上記の通り、第三者提供等の場合は本人の同意が必要である。 例外として学術研究目的の場合は本人の同意を取得しなくて良いところ、改正方針ではこれが更に緩和する動きとなる。 具体的には、第三者提供及び公開されている要配慮個人情報の取得について、統計情報等の作成にのみ利用される場合は、本人同意を不要とするとのことである。 ここで注目すべきは、統計情報等の作成には、統計情報等の作成と整理できるAI開発等も含むという点である。 これまでは、あらかじめ公表した目的にAI開発に用いる旨が記載されてなければ同意取得が必要であったし、仮に記載があっても個人情報を第三者に提供する場合は別途同意取得が必要であった。 第三者提供の場合は、同意取得を避けるためAI開発業務を委託するという形を取るスキームもあったが、契約などの検討コストが馬鹿にならない。 しかし、 統計情報等の作成のために複数の事業者が持つデータを共有し横断的に解析するニーズが高まっている 特定の個人との対応関係が排斥された統計情報等の作成や利用はこれによって個人の権利利益を侵害するおそれが少ない という背景から、統計情報等の作成等(AI開発含む)に限るなら、本人の同意がなくても利用・第三者提供を可能にしよう、というわけである。 また、AIモデルのユーザ企業としても、入力したプロンプトに個人情報が含まれたとしても、プロンプトをモデル学習に利用する規約となっている生成AIサービスを利用する際に同意取得する必要が無くなる。 ###同意不要となる条件 ただ手放しでOKではなく、「統計情報等の作成」にのみ利用される場合は、それを担保するための規律として、以下の条件を課すよう検討されている。 一定の事項の公表 氏名・名称(要配慮個人情報取得なら取得者、第三者提供なら提供元・提供先) 行おうとする「統計情報等の作成等」の内容等 第三者提供の場合は、「統計情報等の作成」のみを目的とした提供である旨の書面による提供元・提供先間の合意 取得者及び提供先による、目的外の利用及び第三者提供の禁止(要配慮個人情報取得、第三者提供) 等 Webスクレイピングにも適用 改正方針が適用されれば、AIモデルの学習用データをWeb上から収集する際に要配慮個人情報を取得する場合も同意取得が不要となり、学習用データが収集しやすくなると考えられる。 なお、Webスクレイピングで収集した場合も上に述べた条件を満たす必要があるので、どのような統計を作成するかを公表したり、複数企業の個人データを集めて統計分析を行う場合は、両社間の合意内容を公表させ第三者が検証できるようにする、といった運用が想定される。 ソフトウェア開発企業にとっては朗報 仮にこの改正方針が採用されれば、個人情報を使ったAIモデル開発の自由度が高まるため、ソフトウェア企業にとっては嬉しいニュースとなるだろう。 もちろん、情報の活用にあたってはその他知財権の侵害も避ける必要があるが、例えば学習モデルとしての利用であれば、著作権法上は問題ないとされている(著作権法第30条の4)。 個人的には、今回の改正方針が過去に取得された個人情報の取り扱いについても効力が及ぶかという点は気になるところである。 通常、取得時期ごとに取り扱いが異なると管理が非常にに煩雑になるはずなので、過去取得済みの個人情報についても適用されるものと考えられるが、改正に関する情報は引き続きウォッチしておきたい。 Webスクレイピングについては個人情報保護法以外にも考えるべき点(取得先サービスの利用規約など)が色々あるが、それはまた別の記事で検討することとしたい。

ソフトウェア発明を外国出願する際のクレーム/明細書作成の留意点

知財部に所属していると、先に出願した日本語明細書をベースに米国、欧州、中国へ外国出願を検討することは多いと思う。 ここでは備忘録として、特にソフトウェア発明について主要外国(米国、欧州、中国)向けのクレームや明細書を準備する際の留意点を整理しておきたい。 ただし、外国向け明細書に新規事項を追加することはできないため、日本語明細書作成の時点で「技術的課題」「技術的手段」「技術的効果」といった情報はしっかり記載するとともに、クレームで上位概念化した発明の実施形態となるものを複数記載しておくことが理想的である。 米国 MPF対策として、クレームで「means」表現は避け、代わりに「one or more processors configured to」と記載する。 「module」「unit」「device」も、できるだけ避ける。「processor」の部分を「processing circuitry」としてもよい。 それでも、極力112条 (f)が適用されないよう、processorが機能を実行するための構造で修飾されるようにする。 プログラムクレームは「コンピュータ読み取り可能な不揮発性記録媒体(non-transitory computer-readable medium)」クレームに変更する。 明細書では、先行技術(Prior Art)ではなく、関連技術(Related Art)という表現を用いるとともに、具体例を挙げすぎないようにする。 先行技術(Prior Art)は「自認先行技術(Admitted Prior Art)」とみなされ、審査で拒絶理由に使われるリスクがある。 ただし、あまりに記載が不足すると、解決したい課題が不明確となり、101条対応(クレームが上の司法例外を含んでいても、追加の要素が司法例外を実用的な応用に統合している、等の主張)が困難となる点は注意。 ジェプソンクレーム(~において)は、Preamble部分が本発明を限定したり、自認した先行技術として扱われる可能性があるため、避ける。 ソフトウェア関連は、101条違反となることが多い。クレームそのものへの手当ては不要だが、明細書で反論できる情報をあらかじめ入れておくこと。詳細は以下の記事の通り。 米国特許法101条(特許適格性) 米国への特許出願では、101条について悩まされている人は多いだろう。 自分もその一人だ。 ここで備忘録として、101条違反を回避するための対... EPO 原則、1カテゴリ(物、方法、使用)あたり1独立クレームとすること。 記録媒体クレームやプログラムクレームを設けてもOKだが、技術的な性質が認められることが必要。 コンピュータの内部処理を超えた技術的効果(CPU負荷低減、データ転送効率、センサ処理改善など)を明細書に記載すること(クレームに記載する必要はない)。 GUIに関する発明については、単なるレイアウトや表示方法に過ぎない場合はNGだが、ユーザー操作の技術的支援といった技術的貢献があれば特許となり得る。 マルチマルチクレームはOK。 中国 物品の一種であることを明確にするために、「プログラム」クレームを「プログラム製品」クレームに変更すること。 記載要件(サポート要件)に非常に厳格。クレームに記載した抽象的なステップに対し、明細書で十分な具体的アルゴリズムやフローチャートを提示すること。 明細書では、「技術的課題」「技術的手段」「技術的効果」の三者を一貫させること。 クレームカテゴリ 国 装置 方法 プログラム US ○ ○ ×(non-transitory computer-readable mediumなら○) EPO ○ ○ 技術的性質が認められれれば○ CN ○ ○ ×(プログラム製品クレームなら○) クレーム数/従属クレーム 国 独立クレーム数 総クレーム数 マルチクレーム マルチマルチクレーム US 3まで無料 20まで無料 ○(追加料金発生) × EPO 原則1カテゴリ1独立クレーム 15まで無料 ○ ○ CN 総クレーム数に収まれば○ 10まで無料 ○ 原則×

委託業務で知財を召し上げるときのリスク検討

委託業務において、成果物に係る特許権・著作権等の知財権を委託元が取得する場面は多い。 権利を取得すること自体は別に良いのだが、その召し上げ方や交渉過程によっては、以下の関連法令上問題となる可能性がある。 優越的地位の濫用(独禁法2条9項) 不当な経済上の利益の提供要請(取適法5条2項2号) 以下、受託者からの知財権取得に関する基本的な考え方を整理してみたい。 優越的地位の濫用 独占禁止法では、取引上「優越的地位」にある事業者が、その地位を利用して「濫用行為」をすることを禁止している。 優越的地位の要件 優越的地位とは、取引を打ち切られると相手方の事業運営に重大な支障が生じるため、こちらが相手方にとって著しく不利益な要請等を行っても受け入れざるを得ない状態を指す。 自分から見たとき、「相手が自分と取引する際の依存度」「自らの市場における地位」「相手にとっての取引先変更の容易性」「自分と取引することの必要性」等を総合考慮するとされているが、後述の通り重要なのは「濫用行為」があったかどうかである。 濫用行為の判断基準 濫用行為とは、取引の相手方に対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らし不当に不利益を与える行為のことを指す。 濫用行為に該当するかは、以下の点を考慮する。 相手方にあらかじめ計算できない不利益かどうか 直接の利益を勘案し合理的範囲を超えた負担かどうか 事前に不利益が分からないくらい雑な交渉で条件が決まっていたり、あらかじめ計算できたとしても経済的合理性を超えた負担を強いられる場合は濫用行為となる。 大事なのは、濫用行為があったかどうか 上記の通り、形式的には優越ガイドラインでは 優越的地位の有無 濫用行為の有無 が要件となっている。 だが公正取引委員会の審査実務では、「濫用行為があったのに経済合理性の無い要求を飲んでいるなら、優先的地位はあったよね?」との推認がなされている。 つまり、濫用行為が認定されれば、優越的地位もあったと推認されるということである。 濫用行為の有無を把握せず、「優越的地位が無いからセーフでしょ」と判断するのは、リスキーと言わざるを得ない。 知財に関する濫用行為 では、情報成果物の知財権に関してどんな行為が濫用行為になるのか?というと、以下のような一方的な取り扱いが該当する(公正取引委員会のHPから引用しただけだが)。 情報成果物の権利の譲渡 本来は受託者に帰属する著作権・特許権等を、委託取引で作成されたことや費用負担を理由に、一方的に譲渡させること 二次利用収益の配分を条件に譲渡させたにもかかわらず、委託者が合理的理由なく二次利用を認めないこと 情報成果物の二次利用の制限等 委託者に権利がないのに、権利があると主張して二次利用条件や収益配分を一方的に決めること 費用負担等を理由に、受託者の二次利用を一方的に制限すること 二次利用収益を前提に委託したにもかかわらず、合理的理由なく二次利用を拒否すること 受託者が情報成果物を作成する過程で発生した取引対象外の成果物等の権利の譲渡及び二次利用の制限等 開発過程で生じた取引対象外の成果物や技術についても、委託者が上記1や2と同様の行為を行うこと 不当な経済上の利益の提供要請(取適法5条2項2号) 冒頭にも紹介の通り、独占禁止法のほか、取適法上問題となる行為についても取り上げておく。 取適法は資本金基準または従業員基準を満たす事業者間の取引を対象としており、11の禁止事項を掲げている点は以下の記事で紹介している通りである。 発注前の作業依頼や取引額の減額は常に問題? 2026年1月より、下請法(下請代金支払遅延等防止法)が取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律... 知財権に関する問題行為は、この11の禁止事項の1つの「不当な経済上の利益の提供要請」に該当する場合がある。 例えば、以下のような行為は、同号に該当する可能性がある。 受託者の知財権を、作成目的たる使用の範囲を超えて、無償で譲渡又は許諾させること 二次利用の制限や収益配分割合を一方的に決定すること 発注時に合意されていなかった知財権を含む技術資料を無償で提供させること 関連法に違反しないために 独禁法、取適法に違反しないためには、契約締結前に 委託者がどの範囲の知財権を取得するのか(成果物に関する知財権だけでなく、委託業務の過程で生じるものも含まれるのか) 受託者の二次利用をどこまで制限するのか を明示したうえで価格交渉を行うこと、そして合意した権利条件(知財権の譲渡等)を前提として見積額を提示してもらい、発注することが不可欠である。 ここでは、契約書に記載のない権利の追加要求をしないようにするのは勿論のこと、委託者と受託者との間に認識の齟齬があったが故に、契約上明確に整理されていなかった権利範囲について、後から一方的に拡張的解釈を主張するといった後出しジャンケンをしないことが重要となる。 「権利取得の範囲」と「対価」とはセットで設計することとなるので、仮に全ての知財権を受託者から召し上げるのであれば、先方からの価格要請にはある程度応じる必要も出てくるかと思う。

DockerとGPLライセンスの話

この記事では、たまにソフトウェア開発者から問い合わせのある「DockerとGPLライセンスの関係」について整理してみたいが、その前置きとして「Dockerって何なの?」という点を噛み砕いて説明しておきたい。 Dockerとは Dockerとは、ソフトウェアの実行環境をDockerイメージとしてパッケージ化して配布し、そのイメージから「コンテナ」と呼ばれる実行環境を起動できる仕組みである。 通常、ソフトウェアを動かすためには OS ライブラリ 依存パッケージ アプリケーション本体 といった複数の要素を正しくインストールする必要があるが、この環境構築はかなり面倒である。 OSが違う、依存パッケージが足りない、といった場合だけでなく、ライブラリのバージョンが違うといった理由でも動かないという問題が起きやすい。 Dockerは、この問題を解決するためにアプリケーションとその実行環境を丸ごとパッケージ化するというわけである。 ここで顧客への配布形態として登場するのが、DockerfileとDockerイメージという概念である。 Dockerfileとは Dockerfileとは、コンテナを作るための手順を記載したファイルである。 いわば「コンテナのレシピ」のようなものであり、どのOSを使い、どのパッケージをインストールし、どのアプリを配置するかを記述する。 Dockerfile自体は、あくまでビルド手順を記述したテキストファイルにすぎない。 Dockerイメージとは Dockerfileを実行して作成されるのがDockerイメージである。 Dockerイメージは、OS、ライブラリ、アプリケーション など(開発環境を含めたアプリケーション一式)を含んだ完成済みのソフトウェア環境である。 これを配布すれば、受け取った側は一から開発環境を整える必要なく「コンテナ」としてソフトウェアを動かすことができる。 このようにDockerは、ソフトウェア配布を非常に便利にする技術である。 しかしその一方で、GPLソフトウェアが含まれている場合のライセンス関係が問題になることがある。 以下では、DockerとGPLの関係を整理する。 DockerとGPLライセンスとの関係 DockerfileやDockerイメージを配布する場合、パッケージな中にGPLソフトウェアが含まれているとライセンス義務が発生するのではないか、という点が問題になる。 結論から言えば、以下の整理になる。 条件 GPL義務 Dockerfileのみを配布する場合 GPL義務は基本的に発生しない Dockerイメージを配布する場 GPLソフトと自社ソフトが単なる集積(aggregation) 自社ソフトの開示義務なし GPLソフトと自社ソフトがリンクして一体のプログラム 自社ソフトにもGPL義務が及ぶ可能性あり 以下、それぞれ説明する。 Dockerfileを配布するだけの場合 Dockerfileは、コンテナイメージを作成するためのビルド手順書にすぎない。 このDockerfileにはGPLプログラムそのものは含まれておらず、単に「ビルド時に取得する」という指示が書かれているだけである。 この場合、配布しているのはあくまでビルド手順であり、GPLプログラムそのものを配布しているわけではない。 したがって、通常はGPLのソースコード提供義務は発生しない。 Dockerイメージを配布する場合 一方、Dockerイメージをそのまま配布する場合は事情が異なる。 Dockerイメージは、内部にOS、ライブラリ、アプリケーションなどを含む実体のあるソフトウェアパッケージである。 そのため、配布物にGPLプログラムが含まれていれば、そのGPL部分についてはライセンス義務が発生する。 ただし、ここで重要になるのが 「単なる集積」かどうかである。 単なる集積の場合 例えば、Dockerイメージの中にGPLライセンスのLinuxツールと自社開発のアプリケーションが入っていたとしても、両者が独立して動作するだけなら、これはGPL上の「単なる集積」に該当する可能性が高い。 この場合、GPL部分のソースコード提供義務はあるが、自社のプロプリエタリコードを公開する必要はない、という整理になる。 リンクしている場合 問題になるのは、自社プログラムがGPLプログラムとリンクしている場合である。 この場合、そのプログラムはGPLソフトウェアの派生物と評価される可能性がある。 その結果、プログラム全体がGPLの条件に従う必要が生じ、自社プログラムのソースコードに対しても開示義務が発生する、というリスクが生じる。 ポイント Dockerイメージの配布の場合は通常のソフトウェア配布の判断と相違ないが、ポイントとなるのは、いわゆるレシピに相当するDockerfileのみの配布であれば、Dockerイメージ内にGPLソフトウェアを含んでもDockerイメージ内のソフトウェアのGPL義務を免れるという点である。 もちろん、Dockerfile自身にOSSライセンスが含まれれば、それに遵守する必要はあるが、それはDockerイメージ内のソフトウェアのライセンスは別問題である。

新しいタイプの商標

従来の商標は、文字・図形・記号やそれらの結合が中心であったが、ブランド表現の多様化に伴い、日本では段階的に新しいタイプの商標が導入されている。 具体的には、平成9年4月1日より「立体」、平成27年4月1日より「動き」「ホログラム」「色彩」「音」「位置」の商標についても権利化できることとなった。 文字等と比べて権利化を狙う機会は多くないかもしれないが、本記事では、これら商標の内容と、実務上のポイントを整理してみたい。 立体商標 商品の形状や建築物の外観など、立体的な形状そのものを商標として保護する制度である。 意匠登録も製品の形状について権利化できるが、意匠権は権利期間が出願日から25年(2020年3月31日以前の出願は「設定登録日から20年」)なのに対し、立体商標は費用を払えば半永久的に権利が維持される点が異なる。 また、意匠権では新規性、創作非容易性といった登録要件があるのに対し、立体商標では**使用による識別性の獲得(商標法3条2項)**が必要となる点も大きな違いである。 立体商標では、この識別性の獲得が難しく、商品の形状、外観といったものは、通常は機能や美観に由来するものと理解されやすく、原則として識別力が否定される。 そこで、まずは形状について先に意匠登録し、25年の権利期間の間にその形状について広く消費者に周知を図ることで、立体商標の登録の可能性が高めるという作戦が考えられる。 以下は登録事例であり、いずれも識別性ありと判断されたものとなる。 KFCのカーネル・サンダース像 コメダ珈琲の店舗外観 Honda「スーパーカブ」の車体形状 ヤクルトの容器形状 動き商標 文字や図形などが、時間の経過に伴って変化する商標であり、以下のようなものが動き商標となり得る。 テレビ広告・ネット広告における映像 映画開始時のオープニングロゴ 電光掲示板の表示方法 出願書類では、動きの経過に従って変化する様子を複数の図面で提出することが必要となる。 ホログラム商標 ホログラフィーその他の方法により、見る角度や条件に応じて文字や図形が変化する商標である。 クレジットカードのホログラム、模倣品対策として商品に貼付されるホログラムシールが該当する。 動き商標と同様、見る角度、温度などの条件に応じた変化を、複数図面で表現することを要する。 色彩のみからなる商標 単色または複数色の組合せのみから構成され、図形や文字を含まない商標である。 代表例としては、企業のコーポレートカラー、包装紙や広告看板に用いられる特定の配色が挙げられる。 色彩のみの場合、原則として識別力は否定されるため、使用による識別性の獲得がほぼ必須であるが、実際のところ登録率は極めて低い。 また、出願時における色彩特定には厳格性が要求され、単なる「赤」「青」といった抽象的記載は不可であって、表色系(例:RGBの配合率)または色見本帳番号の指定が必須となる。 複数色の場合は、需要者の印象に直結するため、各色の面積比率に関する記載は必須となる。 なお、2026/3/7時点で登録されているものは、以下が全てである(商品役務の情報は省略)。 単色のみからなる商標も登録対象ではあるものの、現時点では複数の色彩の組み合わせでの登録しか確認されておらず、単色での登録は非常に困難であることが予測される。 音のみからなる商標 音楽、音声、自然音など、聴覚によって認識される商標であり、電子機器や電気自動車の起動音が一例として挙げられる。 出願にはMP3形式の音声ファイル(CD-RまたはDVD-Rで提出)と、音を特定するための詳細な記載が必要となる。 審査においては、音商標を構成する音の要素及び言語的要素を総合して、商標全体として識別力があるか否かが検討される。 したがって、言語的要素に識別性あれば登録されるし、音の要素に識別性があっても登録される。 しかし、音の要素だけでは識別力なしと判断されることが多いようである。 位置商標 文字・図形・色彩などの標章を、商品や包装の特定の位置に付すこと自体を保護する商標である。 例えば、靴の底側に付されるマークや、包丁の柄の特定位置に表示される標章がこれに該当する。 願書への記載時は、図面または写真を用いるとともに、どの部分が商標を構成する標章であるかを特定することが求められる。 例えば、商標として保護したい標章部分を実線で表示しつつ、商品全体など、それ以外の部分を破線で表示する形態となる。 出願動向 以下、JplatPatで出願年毎の各商標の出願件数を調べたリストである。 商標タイプ 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年 立体 300 258 259 269 234 260 324 278 262 260 276 動き 81 37 10 25 23 17 22 18 28 24 20 ホログラム 14 3 0 2 1 0 0 1 0 0 7 色彩のみ 448 43 23 20 12 6 8 6 12 10 3 音のみ 365 133 81 52 37 23 23 20 22 31 21 位置 260 82 56 44 44 45 52 37 37 46 30 2015年の制度開始年には話題性も相まって出願件数は多かったが、近年は立体商標以外は件数が落ち着いているようである。 ...

商標登録出願のディスクレーム制度

つい最近、米国に行った商標登録出願に関して、ディスクレーム要求の通知があった。 あまり見慣れない通知ではあったが、制度が興味深かったので、備忘録として本記事でその概要をまとめておきたい。 商標のディスクレーム制度 ディスクレーム制度とは、商標の構成中に識別力の無い文字や図形等の要素が含まれている場合、その要素については出願人が独占排他的権利を要求しないことを宣言する制度である。 例えば、「〇〇 ✕✕」という結合商標であれば、全体として識別力があっても、「✕✕」の部分に識別力が無ければ、他人が「✕✕」の部分を使っても権利行使しない、というわけである。 かつて日本にも存在した制度なのだが、昭和34年に廃止となっている。 各国の採用状況 日本では廃止となったこの制度だが、各国を見渡すとディスクレームの採用国・不採用国が混在しているのが現状である。 採用国(法律で規定) 米国、カナダ、イギリス、デンマーク、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、香港、台湾、タイ、フィリピン、マレーシア、オーストラリア、ニュージーランド、ブラジル、南アフリカ 採用国(実務で規定) 中国、アルゼンチン、インド、ベトナム 不採用国 日本、EUTM※、ドイツ、フランス、オーストリア、スイス、イタリア、韓国、シンガポール、インドネシア ※加盟国の国内法でディスクレームを採用しない国が多かったため、廃止 ディスクレームの対象 識別力のない部分にのみ認める国と、識別力の有無によらず認める国とがある。 ディスクレームの主体 審査官からのディスクレーム要求が可能な国もあれば、出願人の意思で自発的にディスクレームを宣言する事のみ可能な場合な国もある。 個人的にはディスクレーム制度が欲しい 上述の通り日本では廃止となっているが、個人的にはディスクレーム制度を復活してもらったほうが嬉しい。 例えば、結合商標「〇〇 ✕✕」を考えると、要素「✕✕」にいまいち識別力が無さそうでも、実際に「✕✕」に識別力があるかどうかが曖昧なまま結合商標「〇〇 ✕✕」登録されるという事態が生じる。 すると、「✕✕」についても分離観察によって類否判断されるリスクが生じるわけで、知財部としては「〇〇 ✕✕」だけでなく「✕✕」に関しても使用を控えるよう判断する必要が生じる。 そんなとき、商標権者による「✕✕」のディスクレームがあれば、こちらは余計な不安を持たずに「✕✕」を使用することができる。 ただ、審査段階で出願人が自発的にディスクレームすることはあまり考えづらいので、少なくとも審査官か第三者の情報提供による「✕✕」のディスクレーム要求を認める必要がありそうである。 願わくば審査官に判断してもらいたいところだが、ディスクレーム制度廃止の理由の一つが「要部の認定の審査上の困難性」であったことを踏まえると、にわかに制度復活させるのは難しいのかもしれない。 しかし、AIの発達が顕著な現在であれば、ある程度の識別力の有無の自動判定な可能かと思われるので、何とかならないものだろうか。

標準文字商標の有効性と限界

商標登録する際、登録対象が文字だけからなる場合であって、何か特別なフォントで権利要求しないときは「標準文字商標」として登録することができる。 この制度だが、標準文字として登録しておけばあらゆるフォントの同一文字に対して権利の効力が及ぶと思われることがある。 ある程度の書体変更があった同一文字に対してはその通りなのだが、あらゆるバリエーションに対して対抗できるわけではない。 標準文字商標に対する誤解 以下、特許庁の「標準文字の指定に関するQ&A」を抜粋する。 Q2-2 実際に使用をする文字書体が決まっている場合も、標準文字で出願したほうがよいですか。 A2-2 標準文字の商標の文字書体は、特許庁長官が定めた文字書体です。 使用する文字書体が決まっている場合は、標準文字でなく、その文字書体で商標登録出願することをお勧めします。 なお、標準文字で商標登録がなされた場合、その商標権の及ぶ範囲は、登録された商標(標準文字)と同一又は類似の範囲であり、通常の商標登録と比較してその範囲の広狭に差異はありません。 上記から読み取れるように、標準文字として登録しても、特別にその権利範囲が広くなるものではない。 標準文字の文字商標と、フォント変更があった文字商標とは、外観・称呼・観念のいずれも共通することから、通常は、フォント変更があった文字商標に対しても権利侵害を問うことは可能かと思われる。 一方、通常とはかけ離れたデザイン性の高いフォントが用いられていたり、図形も含めたロゴとして使用された文字商標に対しては、外観が共通しないこと等を理由に権利範囲が及ばない、すなわち他社による使用を排除できない可能性がある。 例えば、「実務者のための知財法務」という標準文字商標が登録されていたとき、以下の画像のようなロゴの使用まで権利侵害を問えるか?というと、判断が分かれてきそうである。 このロゴを使いたいかという問題はとりあえず置いておく したがって、もし自社でそのようなロゴとして使用することが決まっているのであれば、そのロゴ自体を商標登録すべきである。 更に、通常の文字としての使用も想定されるのであれば、標準文字商標としても登録しておけば万全である。 不使用取消審判による取消リスクは? 商標登録されてから3年以上日本国内で一度も使用されていない商標登録については、誰でも特許庁に対して取り消しを求めることができる。 ここで、標準文字の商標とフォントが異なる文字だけを使用していた場合は、どうなるだろうか? この場合だが、登録商標そのもののみだけでなく、登録商標と「社会通念上同一」と認められる商標を使用している場合にも,登録商標の使用と認められて取消を免れることができる(商標法38条5項、50条1項)。 「社会通念上同一」と認められる商標は、商標法38条5項に以下が例示されている。 書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標 平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標 外観において同視される図形からなる商標 書体(フォント)が異なっているだけの商標を使っているなら社会通念上同一と認められるが、普通のフォントとはだいぶ異なるデザイン性の高い文字で使用していたり、図形が追加された状態で使用している場合は、社会通念上同一とまではいえず、標準文字の商標登録が取り消される可能性はある。 その場合はロゴとして商標登録しておけば、ロゴのみの使用であっても取消は免れることができる。 ###標準文字商標その他 以下はおまけだが、特許庁に記載されている必要な手続きや、標準文字として認められない例を関連情報として挙げておく。 標準文字商標とするための手続き 願書作成にあたって、標準文字のみによって商標登録を受けようとするときは、「【商標登録を受けようとする商標】」の欄の次に「【標準文字】」の欄を設けることが必要となる。 標準文字として認められない例 以下は特許庁に記載された標準文字として認められない例示群となる。 図形のみの商標、図形と文字の結合商標 特許庁長官の指定文字以外の文字を含む商標 文字数の制限30文字を超える文字数(スペースも文字数に加える。)からなる商標 縦書きの商標、2段以上の構成からなる商標 ポイントの異なる文字を含む商標 色彩を付した商標 文字の一部が図形的に、又は異なる書体で記載されている商標 花文字など特殊文字、草書体など特殊書体で記載された商標 スペースの連続を含む商標

知財保証を受け入れるリスクと実務上の落としどころ

製品売買契約において争点となりやすい条項の一つが「知財保証」である。 知財保証は、第三者の特許権等を侵害しないことを売主が保証するものである。 もし侵害紛争が生じた場合、訴訟対応、和解金、設計変更など、多大なコストと労力を売主が負担する可能性があるため、売主としては知財保証は可能な限り回避したいだろう。 しかし、知財保証を一切行わない姿勢を貫くと、リスクを嫌う買主側が「じゃあ他を当たりますわ」となり、そもそも製品の売買が成立しない事態となることもあり得る。 特に、買主が大企業である場合や、製品が事業の中核を担う場合には、売主に一定の知財保証を求めるのが一般的である。 このため、売主が積極的に製品を売り込む局面では、知財保証を「せざるを得ない」状況が生じる。 とはいえ、売主の立場で、少しでもリスクを減らせる手当てはできないものか? 免責事項の設定 知財保証せざるを得ない場合でも、何でも保証するのは売主側の負担が過多となることから、実務上は次のような免責事項を設ける場合がある。 買主の指示した設計・仕様等に起因する場合 製品が第三者特許等を侵害した原因が、買主の指示した設計や仕様にある場合には、売主に全責任を負わせるのは不合理である。 そのため、この場合は知財保証の対象外とすることが多い。 売主の責めによらない付加・変更に起因する場合 納品後に買主側で製品に改造や追加を行い、それによって侵害が生じた場合も、それは売主の知るところではないので売主の責任としないのが通常である。 「買主の指示」か「売主の裁量」か 上記取り決めの際の問題となりやすいのが、1の「買主の指示」に該当するか否かである。 形式上は買主の指示に見えても、ある程度の技術的手段の選択を売主に委ねられていたのなら、それは買主の指示でなく、売主の裁量と判断される可能性がある。 そして、契約書上「設計・仕様は買主が決定する」と定めたとしても、すべてを明確に線引きすることは難しい。 結果として、設計・仕様の決定に対する寄与の度合いに応じて、売主と買主の責任範囲を按分する考え方が採られることもある。 もっとも、実際には、こうした責任分担はどちらが取引の継続を望んでいるのかといった企業間のパワーバランスによって左右される場面も少なくない。 更なる保証範囲の限定 知財保証の範囲として、更に以下の観点で限定することを検討しても良い。 補償の対象となる損害賠償額に上限を設ける(例:契約金額を上限とする) 故意または重過失がある場合に限定して補償責任を負う 間接損害や逸失利益を補償対象外とする これらは、知財保証そのものを否定するものではなく、リスクを「管理可能な範囲」に収めるための現実的な調整といえる。 損害軽減義務の位置づけ 知財の侵害紛争が発生した場合、買主側にも損害軽減義務が適用される、という考え方もある。 例えば、 売主と協議せずに高額な和解をしてしまう 交渉時の担当として、非常に高額な弁護士を選んでしまう 回避設計が可能であるにもかかわらず放置する といった行為まで売主が無制限に負担するのは不合理だから、ちゃんと買主も努力して、という考え方である。 これは特許法や民法に条文として規定はされていないのだが、債務不履行が生じた際の損害賠償賠責任の範囲や金額を決める上で考慮され得る。 特許侵害とは異なるが、損害軽減義務を認めた裁判例(最高裁判所平成21年1月19日判決)も存在する。 「知財保証しない」という選択肢もあり とはいえ、自社で製品を積極的に売り込む立場でなく、知財保証リスクを許容できないのであれば、利用規約で「第三者の権利を侵害しないことについて、如何なる保証を行うものではない」と言い切ってしまうのも一案である。 そして、「当社の製品を利用してもらうには利用規約への同意を前提としており、個別の契約締結については対応しかねる」というスタンスを取るわけである。 特に、多くの顧客に提供するソフトウェア等であれば、このような対応をするのが現実的ではないかと思う。 また、特許等は保証しないが、著作権については保証する(依拠性が無いと著作権侵害は認められないという考え方。それでもリスクが無いわけではないが)という考え方もある。 おわりに 知財保証は売主にとって避けたい条項である一方、ビジネスを前に進めるためには受け入れざるを得ない局面もあろうかと思う。 ただそんな状況でも、リスク軽減策として、上記の通り免責事項を設けたり保証範囲を狭めるよう交渉することが考えられる。 知財保証に限らないが、契約交渉は事業活動のブロッカーとなることがあるため、どこまで相手方と交渉するのかは事前に事業部と足並みを揃えておきたいところである。

特許権侵害訴訟で補助参加すべき?

特許権侵害訴訟では、補助参加という制度がある。 訴訟の当事者ではない第三者が、当事者の一方を補助する目的で訴訟に参加できる制度である(民事訴訟法42条以下)。 例えば、完成品メーカーがその中に用いられている部品に関する特許権侵害を訴えられた場合、部品メーカーが訴訟でバックアップするようなケースである。 完成品メーカーが大事な顧客であれば、部品メーカーは補助参加すべきとも思われるが、負担などを考慮するとどうすべきか?という点について考察したい。 想定事例(A社、B社、C社) 典型的な構図として、次のような関係を想定する。 A社:部品メーカー B社:A社から部品供給を受ける完成品メーカー C社:特許権者 問題となるC社保有の特許は、A社が供給する「部品」に関するものとする。 この場合、特許侵害品は部品にあるにもかかわらず、C社がA社ではなくB社を被告として訴えることは珍しくない。 理由は単純で、販売価格が高額となる完成品を扱うB社を訴えた方が、損害賠償額や和解金が高額となることを期待できるからである。 B社が被告となった場合のA社の立場 B社がC社から特許権侵害で訴えられた場合、A社は法律上「補助参加人」となる余地がある。 仮にB社が敗訴すると、その後A社はB社から特許侵害品の供給者として損害賠償の訴えを提起される可能性があるが、それを未然に防ぐためにA社がB社を補助するというわけである。 しかし、A社としては必ずしも補助参加に積極的ではない場合がある。 補助参加をすると、敗訴時に「利害関係人」としてB社に対する補償責任(損害賠償や和解金の負担)を事実上引き受けるリスクが顕在化するからである。 一方、顧客であるB社との関係性を悪化させたくなければ、全く対応しないわけにもいかない。 特に、問題となっている部品のことを最も理解しているのがA社である以上、実質的な防御はA社抜きでは成り立たないことが多い。 A社が補助参加人とならずにB社を補助する方法 上記のようなジレンマの中で、実務上よく採られるのが次の対応である。 A社が弁護士を選任する その弁護士について、B社が正式に委任状を出す B社自身も、別途、自社選任の弁護士を立てる こうすると、形式上の被告はあくまでB社であり、A社は補助参加人としては前面に出ない。 しかし、実質的な弁護活動はA社選任の弁護士が担うというわけである。 A社選任の弁護士は、問題の部品や技術内容を深く理解しており、非侵害論や無効論の構築において中心的な役割を果たす。 一方、B社側の弁護士は、訴訟全体の進行管理や、A社側弁護士が適切に対応しているかの「監視役」に近い立場となることが多い。 弁護士費用とその調整 上記のように、A社が実質的に補助する体制を取る場合、B社が負担した弁護士費用はA社が実質的に負担する取り決めがされることが多い。 このとき、A社は自ら選任した弁護士費用はともかく、B社が選任した弁護士の費用がどれだけ高額となるのか予測できない点が問題となる。 A社としては、単価が不明であるB社選任弁護士のタイムチャージが膨らむ事態は避けたい。 そこで、 主たる弁護活動はA社選任弁護士が行う B社選任弁護士の稼働は最小限に抑える といった運用が、事前の合意や暗黙の了解として形成されることが多い。 補助参加は「しない」判断も戦略 このように、特許権侵害訴訟において、形式上の当事者と、実質的に訴訟を動かしている主体が一致しない場面は多い。 やけに被告側に弁護士が多く並ぶことがあるのは、その背後にサプライチェーン上の力学と、補助参加を巡る微妙な判断が存在していることが多い。 もちろん、グループ会社のような深い繋がりがあれば、補助参加するケースもあるかと思う。 一方、リスク管理の観点からは、弁護士を通じて完成品メーカーの訴訟支援はしつつも、補助参加しないという選択をするのは一案ではないかと思う。