米国で生成AI学習に著作物を使うと問題?

生成AIにおいて著作権が議論となる場面としては、 他人の著作物を用いた生成AIの学習 生成AIによる、他人の著作物と似た作品の生成 が挙げられる。 後者に関しては、生成AIに限らず、生成した作品が著作物の類似性等に応じて侵害の有無が判断されるかと思う。 では、前者に関してはどうだろうか? 日本においては、学習対象となっている特定の著作物を享受する目的が無ければ、著作権法第30条の4が適用され著作権侵害とは認定されない。 なおAI学習そのものの日本での取り扱いについては、以下の記事で触れている。 AIで声をパクられたら訴えることは可能? 近年、生成AIの登場により、声優や有名人と類似する合成音声を誰でも生成できてしまうことが物議を醸している。 勝手に有名キャラや有名人の声で... しかし、米国ではこの点が最近の議論になっている。 日本と同様、米国でも著作権利用における例外という考え方はあり、「フェアユース」と呼ばれている。 フェアユースとは? 米国における「フェアユース(Fair Use)」とは、著作権者の許諾を得ずに著作物を利用できる場合があるという例外的な制度で、表現の自由や文化の発展、教育・研究の促進を目的としている。 フェアユースの法的根拠 米国の著作権法(17 U.S. Code § 107)にて、以下のように規定されている。 Notwithstanding the provisions of sections 106 and 106A, the fair use of a copyrighted work, including such use by reproduction in copies or phonorecords or by any other means specified by that section, for purposes such as criticism, comment, news reporting, teaching (including multiple copies for classroom use), scholarship, or research, is not an infringement of copyright. つまり、評論とか、報道とか、教育といった一定の目的で使用するのであれば、フェアユースに当たるので著作権侵害にならないと定めている。 フェアユースの判断基準(4要素) ここで著作物の使用がフェアユースに該当するかどうかは、以下の4つの要素を総合的に考慮して判断される。 このうち、特に「利用の目的と性質」と「影響」の要素は近年の米国判例では重要視されている。 要素 内容 利用の目的と性質 教育目的・非営利目的:〇 変容的利用(例:風刺、評論、パロディ):〇 商業目的:✕ 著作物の性質 事実を伝える作品(例:報道記事、学術論文):〇 単純な機能を果たすだけの作品(例:地図):〇 創作性の高い作品(例:小説、映画):✕ 利用部分の量・重要性 利用部分少ない、著作物の核心的内容に触れていない:〇 利用部分多い、著作物の核心的内容に触れている:✕ 影響 原作の市場や著作権者の利益に悪影響を与えない:〇 悪影響を与える:✕ ※〇:フェアユースに肯定的に働く ✕:否定的に働く フェアユースに関する判例 多くの著作権者がAI企業を訴えているが、フェアユースを認めた判例と、認めなかった判例が見られ始めている。 フェアユースを認めなかった判例 2020年、大手情報サービス企業のトムソンロイター社(以下、ロイター社)が、ロスインテリジェンス社(以下、ロス社)を相手にAI著作権訴訟を起こした。 ロイター社は、自社が運営する判例データベース「Westlaw」のヘッドノート(判決文の要約)をロス社が許諾なくコピーし、AIを活用した競合の法律プラットフォームを開発しようとしたと主張していた。 そして2025年、デラウェア州連邦地方裁判所の判事は、ロイター社の著作権が侵害されていたと認定した。 フェアユースの4要素のうち重要な「利用の目的と性質」と「影響」で以下の通りフェアユースに否定的な判定を行い、著作物を用いたAI学習がフェアユースに該当しないと認定した。 ロス社によるヘッドノートの利用は「商業的」性格を有する上、「Westlaw」と直接競合するツールを作成するためにヘッドノートを利用したため、変容的利用は認められない ロス社の製品は「Westlaw」の市場代替物となることを目的としており、ロイター社の潜在的な派生市場に悪影響を与える可能性がある フェアユースを認めた判例 対話型生成AI「Claude」の開発企業であるAnthropicが著作権で保護された書籍をAIの学習に使ったことを理由に、複数の作家たちが著作権侵害を主張した。 これに対し、2025年に米連邦地裁は、学習した著作物を模倣するのではなく、AIが新たな作品を生み出すからこそ市場への影響は少ないと判断されてフェアユースに該当するとの判決を下した。 ...

登録商標の名前を自社広告の資料に使うと権利侵害?

社内での資料作成に関して、各部署から 「他社企業のロゴを自社資料に掲載していいか?(*)」という問い合わせだけでなく 「自社製品の広告資料に、性能比較として他社の登録商標を使用すると問題か?」 と社内から問い合わせを受けることがある。 ※企業ロゴ掲載については、以下の記事を参照してもらいたい 他社の企業ロゴをプレゼン資料に入れて良いか 社内外問わず、プレゼン資料として他社名を入れることはあると思う。 このとき、テキストで企業名を表示するよりも、企業ロゴを使って掲載する方が見... またブログを執筆している人の中には、「ある製品の批評記事を書くとき、その製品名が商標登録されていた場合は名前を記事に載せて大丈夫?」と気にされたこともあるかと思う。 確かに、名だたる企業がお金をかけて特許庁に商標登録していると、身構えてしまうかもしれない。 結論としては、基本的にそのような商標の使い方であれば侵害行為には当たらない。 商標は「出所表示」が問題となるので、機能・適合性・説明目的の使用であれば、いわゆる商標的使用にはあたらず、原則商標権侵害とはならない。 ただし手放しでOKというわけではなく、消費者が出所を誤認しないように配慮することが求められる。 商標権侵害とならない使い方 以下の通り、商標権侵害とならない(商標的使用とはならない)使い方を挙げてみたい。 機能・用途等の表示 商標権は強力な独占排他的権利であるが、公益的側面の下で一定の制限を受けることになっている。 そして、過誤登録に対する第三者の救済規定として、商標法第26条「商標権の効力が及ばない範囲」が規定されている。 いくつか規定はあるが、その1つである商標法第26条第1項柱書および第2号は、以下のような内容となっている。 第二十六条 商標権の効力は、次に掲げる商標(他の商標の一部となつているものを含む。)には、及ばない。 二 当該指定商品若しくはこれに類似する商品の普通名称、産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又は当該指定商品に類似する役務の普通名称、提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する商標 なお指定役務に関しては、同様の条文が第3号に設けられている。 具体的には、例えば以下のような使い方であれば、商標権の効力は及ばない。 製品の機能・用途説明(例:「iPhone対応」「Android搭載」) 互換性・適合性の表示(例:「◯◯用カバー」「△△対応バッテリー」) 原材料・素材としての表示(例:「◯◯入り」) ただし、消費者が誤認しないよう明確な表示(純正ではない旨など)が必要となる。 比較広告 商標法が保護するのは「自他商品等識別機能」に基づく使用である。 すなわち、商標が、自社の製品やサービスを、他社のものと区別して認識させる機能のことである。 例えば、消費者がある製品に付けられた商標を見ることで「これは◯◯社の製品なんだな」と認識し、他のメーカーの製品と区別することができる。 比較対象である商品を示す場合(例:「当社製品は、◯◯よりも10倍の成分を含みます」)は、そのような機能を発揮しているといえるだろうか? この場合は、宣伝内容を説明するための記述的表示であって、自他商品の識別機能を果たす態様で使用されたものではないと判断される(判例※も存在する)。 したがって、商標権の侵害とはならない。 ただし、公正な範囲での比較としないと、商標法とは別の法律で問題となりうる点は注意が必要である。 ※黒烏龍茶類似品事件(東京地裁平成20年12月26日判決) ニュース報道・評論・学術的引用 例えば、ニュース番組中で「Appleの新製品が発表されました」と紹介する場合だが、これも基本的に問題ない。 あるメーカーの製品をそのメーカーの製品として紹介しただけなのだから、視聴者からすれば他のメーカーの製品と混同するおそれが考えられないからである。 番組中で登録商標を読み上げたり、テロップとして紹介する行為は、商品やサービスに名称を付けて使用するわけではなく、商標として使用されたものとは認められない。 評論中で使用する場合や、学術的引用の場合も同様である。 ただし、自社の商品やサービスに名称を付けて使用する場合(例:番組名に用いるケース)は上記ケースには当てはまらないので、当然商標権侵害とならないように気を付ける必要がある。 転売行為など 一度適法に販売された正規品について、その後の転売や修理、リサイクルで商標を使用する行為(例:「中古◯◯」「◯◯正規品」と表記)は商標権の効力が及ばない。 最初の販売の時点で商標権としての効力が発揮されているためである。 これを商標権の消尽という。 なお消尽の原則は知的財産権全般に認められているなので、商標権に限られるものではない。 よくある商標の誤表示 実務上大きな問題となるケースは稀ではあると思うが、「商標権侵害」とならない使い方であっても、正式な登録商標と異なる表示をするのはなるべく避けたほうが良いかと思う。 とはいえ、自身が商標権者である企業の広告ですら、誤った表示となっていることもあるのだが…。 よくある誤表記としては、例えば以下のようなものが挙げられる。 ハイフン抜け(例:誤=WiFi 正=Wi-Fi) 小文字化(例:誤=iphone 正=iPhone) 大文字化(例:誤=YOUTUBE 正=YouTube)

開発委託基本契約で準委任用と請負用を分けるべきか

今後、定期的に開発の委託を発注するとのことで、開発委託基本契約のためのドラフトを作成することとなった。 委託の形態としては、準委任型のパターンもあれば、請負型のパターンもあるとのこと。 その際、基本契約を準委任用と請負用とに分けるべきか、それとも1つの契約書にまとめてしまうか、どちらにしようか考えたため、備忘録として残しておきたい。 準委任と請負との間で留意すべき相違点 基本契約書を別々にするか1つにまとめるかによらず、準委任と請負とでは適用される条項が異なる点はケアする必要がある。 例えば、以下の条項は請負の場合のみに適用されるべきかと思われる。 成果物の納品・検収 契約不適合 製造物責任 もし1つの契約にまとめるなら、これらの条項の最後に「準委任として発注された場合には適用しない」といった文言を入れておくのが良い。 また発注書のテンプレートも異なってくるかと思うので、契約書に添付するテンプレートは準委任用と請負用とでそれぞれ用意することが必要かと思う(発注書で準委任か請負かを特定する形)。 基本契約書を別々にするか、一本化するか 基本契約書を別々に作成すると、法的リスクは緩和できる一方、契約コストは高くなる傾向がある。 一方、契約を一本化すると、その逆の関係になる。 両者のメリットとデメリットをまとめると、大体以下の表のような感じかと思う。 項目 別々に作成 一本化 準委任と請負の法的性質明確化 〇 ✕ 各契約の責任範囲や義務の明確化 〇 ✕ 契約書作成コスト ✕ 〇 契約書管理・更新コスト ✕ 〇 発注時の準委任/請負明確化 〇 △※ ※発注書フォーマットで準委任か請負かを明記するようにしておけば、リスク低減可能 また、紙の契約であれば別々に契約書を作成すると印紙代が余分にかかることとなる。 しかし、電子契約であればそういったデメリットは発生しない。 ただし、電子契約の海外における有効性は国によって異なるので、海外企業との取引で電子契約を利用する際には、取引先の国の法律を事前に確認する必要がある点は注意が必要である。 このように一長一短あるが、基本契約書を一本化したときも即座に法的リスクが高まるわけではなく、条項や発注書フォーマットで不明確な記載とならないようきちんと手当てがなされていれば、個人的にはそれほど問題ではないかなと思う。 結論としては、コストを抑えたければ一本化、より法的に万全を期すのなら別々の作成となるだろうが、そんなに両者で実務上の差は無いというのが正直なところである。 仮に一本化しようとする際は、契約の相手方から「準委任と請負とで契約は分けておきたい」と要求されることもあるだろうが(特にこちら側がドラフトする場合)、そこは相手方に合わせてあげても良い。 もっと交渉すべき条件があろう中で、上記の形式的な契約書構成に関しては譲歩しても問題ない部分かと思われる。

July 3, 2025

AIで声をパクられたら訴えることは可能?

近年、生成AIの登場により、声優や有名人と類似する合成音声を誰でも生成できてしまうことが物議を醸している。 勝手に有名キャラや有名人の声で別作品を作ったり、詐欺紛いの広告を打ったりと、声をパクられた人達からしたら溜まったものではない。 声優達からも保護を求める声が挙がっているところ、自然人の「声」そのものは、法的に保護され得るのだろうか? 残念ながら、日本では「No」である。 日本での取り扱い 既に結論を言ってしまっているが、まずは著作権の観点から考えてみたい。 声そのものは著作物ではない 著作権法第2条では、著作物は以下のように定義されている。 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。 例えば歌手が歌う曲や、声優によるセリフの表現であれば、声を使って思想又は感情を創作的に表現したものとして、著作権が発生する。 実際、著作権法第10条でも、以下の著作物が例示されている。 一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物 二 音楽の著作物 しかし、あくまで声を使った創作表現が保護されるのであって、声そのものは著作権法の保護対象外である。 AI学習自体は著作権侵害にならないケースが多い しかし、セリフの表現等が著作物として認められるなら、それらをAI学習に用いる行為は問題にならないだろうか? その点、著作権法第30条の4に以下のように記載されている。 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。 つまり、学習対象である特定の著作物(曲、セリフ等)自体を生成するAIモデルではなく、学習対象の「声」そのものを生成するAIモデルのための学習であれば、学習対象となっている特定の著作物を享受する目的があるとは言えず、著作権侵害とは認定されない。 「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は著作権法第30条の4は適用されないとあるが、AI音声の場合、どんなケースであれば声を模倣された人達の利益を不当に害するといえるのかは、いまいちよく分からないし、現時点では参考になりそうな判例も見当たらない。 その他の法律でも保護されていない 日本は肖像権やパブリシティ権も存在するが、残念ながら声にこれらの権利を認めた判例等声は法的に保護されていないという見方が自然ではないかと思う。 しかし他の国では、声を保護する法律は無いのだろうか? 中国での取り扱い 実は中国では、2021年より「声の肖像権」が認められている。 声の肖像権とその保護 2021年1月1日から施行されている民法典で「声の肖像権」が保護されており、以下のように規定されている。 自然人は肖像権を享有し、自己の肖像について他人に使用を許諾する権利等を持つ 「声の識別可能性」を要件として、声の肖像権を保護 声の肖像権を侵害された場合、権利者は、侵害差止め、謝罪等を請求可(訴訟時効の規定の適用なし) ここで「声の識別可能性」とは、他人が複数回又は長期的に繰り返し聞いたとき、その音声の特徴により特定の自然人を識別できることを意味する。 そしてAIによる合成音声が、その音色、イントネーション、発音方法によって特定の自然人を連想させる場合には、識別可能性を有すると認定される。 実際、2024年にあった侵害訴訟はAIが生成した合成音声に関する訴訟であり、ソフトウェア企業に謝罪や損害賠償を命じる判決が出ている。 判決では、「AI音声と原告の声色や語調はほぼ一致しており、本人と識別できる」と認定しており、人物特定ができる前提で「声の肖像権」はAI音声にまで及ぶとの判断を示している。 肖像権の使用許諾 また中国民法典では、声の肖像権について本人の許諾を得ることを規定している。 特徴的な点の1つが、著作物の権利者であっても、肖像権者の同意を得ることなく、肖像権者の肖像を使用等することができないところである。 つまり、音声の著作権のライセンスを受けたとしても,声の肖像権者の同意も取得しなければ、声の肖像権の侵害となってしまう。 もう1つ面白い特徴として、当事者間の肖像権使用許諾契約の許諾期間に関して、以下のように肖像権者に有利に解釈される点が挙げられる。 許諾期間について約定がない場合は、肖像権者は、合理的期間を定めて事前に相手方に通知をした上で、許諾契約をいつでも解除可能 許諾期間について約定がある場合も、肖像権者は、正当な理由があるときは、合理的期間を定めて事前に相手に通知をした上で、許諾契約を解除可能 日本では、いわゆる買取り契約(1回支払えば、無期限に利用可能)が一般的だが、中国では所定期間経過後に再度許諾料を支払わないといけない可能性があることとなる。 考察 日本では未だ声の法的保護に関する制度や判例に乏しいが、中国における声の権利保護の取り組みは、(そのまま採用するかは置いておいて)日本の議論においても参考となるかと思う。 少なくとも日本では、声そのものを著作物と認定するよう変えようとすると、著作権の成り立ちそのものを見直す必要があり、かなりハードルは高い印象である。 よって、保護するのなら肖像権でカバーしようとする方向性は悪くないと思う。 しかし、日本では肖像権の明文規定は存在せず、肖像権はプライバシー権の一種とされている。 声単体だと、プライバシー権という考え方と親和性はあるだろうか? また、たまたま作った声が有名人の声と似てしまう場合(著作権でいう依拠性がない場合)もあるだろうし、色々な状況に対応するための日本の法整備には時間がかかりそうである。

契約書における記載ミスの話

契約ドラフトを相手方に提示するとき、一部表記ゆれがある点を指摘され、修正を求められることがある。 同じ意味に見えても、表記が異なることで、別の意味があるのではないか?と思わせてしまうのは宜しくないので、指摘はもっともだと思う。 そのミスも契約内容に影響するものもあれば、それほど問題にならないものもある。 しかし、相手方へ与える心象も踏まえると、できるだけ軽微なミスも事前に潰しておきたい。 一部反省の意味も込めて、これまで見かけた(やらかした)記載ミスを挙げておきたい。 今ならwordのチェックツールだけでなくAIレビューも可能だが、レビュー対象の契約書がAI学習に用いられてしまう場合もある。 よってAIサービスを使う際は、社内のセキュリティポリシー上問題ないか確認することが必要だろう。 ただ、契約書担当として本音を言うと、交渉が求められる類の修正要求(例えば、知財権の帰属に関する)とは異なり、訂正すれば済む話なことが多いので、少し安心したりもする。 契約内容への影響が軽微なミス 平仮名と漢字の混在 「または」と「又は」 「および」と「及び」 「もしくは」と「若しくは」 「ならびに」と「並びに」 「ただし」と「但し」 「ただちに」と「直ちに」 用語のゆれ 「文書」と「書面」 「使用料」と「利用料金」 「通知」と「連絡」 「効力発生日」と「契約開始日」 数字・単位のゆれ 「5日以内」と「五日以内」 「一〇〇万円」と「100万円」 「10%」と「10パーセント」 定義済みの語を別の表現で記載 「本業務」を途中で「本件業務」と呼んだり「本委託業務」と記載 「●●株式会社(以下、丙という。)」との定義後も「●●株式会社」と記載 契約内容に影響しかねないミス 用語の未定義・不統一 「秘密情報」の定義なしに使い始める いきなり「丙」が登場する(甲乙以外の当事者が出てくる場合にありがち) 条文番号のずれ 「第3条」の次が「第5条」になっている 「第10条」か正しいのに、「本契約終了後も、第9条の規定は、引き続きその効力を有するものとする。」と書かれている 指し示しのミス 「前項」と書くべきところを「前号」 「本条」とすべきところを「本項」 文法上の曖昧さ 修飾関係が不明確(例:「甲または乙の責に帰すべき事由により…」が、どちらにかかるのか不明) 並列の不整合(例:「〜し、または〜および〜する」) 範囲の不整合 「●●に限り」と書いているのに、例外規定が別に存在する 「書面による」としながら、別条ではメール可とされている

June 23, 2025

漫画のキャラクター名を製品名にして良い?

会社で、ある新製品のラインナップを区別するニックネームとして、それぞれにある漫画のキャラクター名が付けられていた。 「社内利用に留めておけば、問題無いですかね?」とのこと。 キャラクターのデザイン自体を模倣していれば、ちゃんと許諾を得ていないと著作権違反となってしまうが、名前だけ使わせてもらうのは問題になるだろうか? 著作権法の観点 キャラクター名自体に著作権が付与されることはない。 著作権法では、著作物は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されている。 キャラクターと言われるものは、それ自体が思想または感情を創作的に表現したものということができず、著作物に該当しないためである。 この点は、最高裁の判決(ポパイ事件:最高裁、平成4年(オ)第1443号、平成9年7月17日)でも、以下のように判断が示されている。 著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法二条一項一号)とされており、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。けだし、キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないからである。・・・ では製品名として使っていいか?というと、まだ以下の法的リスクがある。 商標法の観点 キャラクター名がすでに他者によって商標登録されている場合、その名称を商品名として使用すると、商標権の侵害となるおそれがある。 商標権は、登録商標と指定商品・役務のセットで登録されている。 したがって、使用する対象製品が指定商品・役務と同一または類似する際は侵害となる点には留意すべきである。 では、キャラクター名が商標登録されていなければ問題ないかというと、まだ懸念が残っている。 不正競争防止法の観点 不正競争防止法とは、事業者間の公正な競争を守り、他人の信用・努力・成果を不当に利用する行為(=不正競争)を防ぐための法律となっている。 商標法とは異なり、登録を前提としない保護制度(著作権と同一)である点が大きな特徴となっている。 製品にキャラクター名を使う場合は、例えば以下のような禁止行為に該当する可能性がある。 周知表示混同惹起行為(不正競争防止法第2条第1項1号) 他人の商品等表示として需要者の間で広く認識されているものと同一・類似の商品等表示を使用し、他人の商品または営業と混同を生じさせる行為 著名表示冒用行為(同第2条第1項2号) 自己の商品等表示として、他人の著名な商品等表示と同一・類似の表示を使用し、またはそのような表示が使用された商品を譲渡引渡等する行為 (※混同の要件は不要) 商品形態模倣行為(同第2条第1項3号) 他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡したり、貸し渡したりする行為 結論 というわけで、製品にキャラクター名を付す行為は、著作権法上では問題ないものの、商標法、不正競争防止法の観点からは法的リスクが残ることとなる。 名前が消費者に表示される予定の場合は勿論のこと、仮に社内での呼び名に留まる場合でも、対外的な資料にその名前が紛れ込むリスクも存在する。 特別な理由がない限りは、キャラクター名の使用は避け、別名に変更することが望ましいだろう。

開発を再委託する際の契約上の知財の取り扱い(汎用技術など)

この間、委託元から受託した開発を再委託することとなり、開発したものは納品物として委託元へ納めることとなった。 そして、開発行為によって生じた知財権も委託元のものとする予定である。 このとき、再委託先から 「他の開発活動にも利用できそうな汎用的な技術については、うちに知財権を帰属させてもらえませんか?」 との要望があった。 納品物の知財権は委託元なのは良いとしても、汎用技術は他の受託案件などにも転用できるように構えておきたい、というのはごもっともである。 この場合、どのように契約書に手当すべきだろうか? 再委託を前提とした契約構成 委託元を甲、委託先を乙、再委託先を丙とすると、契約書は 甲乙間の開発委託契約 乙丙間の開発委託契約(再委託) の2本立てとなる。 このとき、互いの契約書上の知財条項は、どのように書いておけば 開発に関する知財権→甲の帰属 汎用技術の知財権→乙帰属 とできるのか? 知財条項の書き方 まず方向性としては、 甲乙間の開発委託契約 開発に関する知財権→甲の帰属 汎用技術の知財権→乙の帰属 乙丙間の開発委託契約(再委託) 開発に関する知財権→乙の帰属 汎用技術の知財権→丙の帰属 とする。 さらに乙丙間の契約では、甲に確実に知財権を帰属させられるよう、丙に対しては、乙または乙の指定する第三者(すなわち甲)に権利を帰属させるために必要となる手続きを履行するよう義務付ける条項も設ける必要がある。 最後に、甲乙間の契約でも、甲が特許出願などするときに必要あれば乙が協力する旨の条項を設けることとしている。 あえてそれぞれの契約書中で権利の帰属先を直接規定していないのには、以下の理由がある。 考察 権利の帰属先をダイレクトに規定しようと 乙丙間の契約書で、開発に関する知財権→甲の帰属 甲乙間の契約書で、汎用技術の知財権→丙の帰属 と記載することも考えたのだが、すると1点問題が出てくる。 甲にとっては、丙って誰?丙にとっては、甲って誰?という情報が無いと、お互い「知財権の帰属先は、それでOKです」とはなかなか言えないかと思う。 これを解消するには、甲乙間の契約で丙の名前を、また乙丙間の契約で甲の名前を出す必要が生じる。 前者に関しては、再委託を甲に承認してもらうために丙の名前を出すという建付けであれば、それほど問題は無いかもしれない。 しかし、乙丙間の契約で、本来は特段言及する必要の無かった具体的な甲の名前を出すことに違和感があった。 実務上、甲と丙は互いの存在を認識することは多いだろうが、乙丙間の開発委託契約において、わざわざ丙に対して「甲が委託元です」と積極的に開示していいものか? もし開示するなら、甲に前もって承諾してもらう必要が生じるのでは? という余計な点まで考える必要が生じたため、上の結論のようなスキームで契約書を作成している。 留意点 契約締結時には、どこまでが汎用技術なのかを甲乙間および乙丙間で認識合わせをして置く必要がある。 実際に開発してみないと明らかにならない部分もあると思うが、とはいえあらかじめ「ネジ、ギア、ベアリングのような汎用部品に関する技術は汎用技術ってことで」と共通認識を持つことは大事である。 契約書には 汎用技術を定義する条項を設けるとともに、お互いに認識合わせしたような汎用技術の一例(これには限らないとしておく)を記載する 丙から、具体的に特定した汎用技術を乙に通知させる(乙から甲にも通知する)旨の条項を入れておく といった手当てをしておくことが望ましい。

契約書における「書面」や「文書」はEメールを含む?

契約書では、相手方に通知をしたり、承諾を得る際に「書面」や「文書」といった手段を要求することが多い。 口頭では言った言わないの水掛け論になってしまうため、きちんと証拠を残すためである。 それは良いのだが、よく開発者から「これってEメールで承諾を取り付けるのは駄目ってことですか?」と問い合わせを受けることが多い。 結論から言うと、「書面」「文書」いずれも電磁的記録(電子メールなど)を含む旨が契約書に記載されていない限り、Eメールではなく紙で承諾を得る必要があると解釈される可能性がある。 これらの用語の意味するところと留意点を整理しておきたい。 「書面」とは何か(電子メールを含むか) 一般法にあたる民法には、書面を定義する条文は見当たらないが、次のように書面と電磁的記録とを分けて記載しているものが見られる。 (定型約款の内容の表示) 第五百四十八条の三 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、定型約款準備者が既に相手方に対して定型約款を記載した書面を交付し、又はこれを記録した電磁的記録を提供していたときは、この限りでない。 さらに、民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の第二条第3号では、以下の通り定義されている。 (定義) 第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。 三 書面 書面、書類、文書、謄本、抄本、正本、副本、複本その他文字、図形等人の知覚によって認識することができる情報が記載された紙その他の有体物をいう。 四 電磁的記録 電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。 つまり、「書面」は紙その他の有体物であって、無体物は含まれない上、書面とは別に電磁的記録の定義もある。 したがって、この法律の中では電磁的記録(電子メール、PDF、チャットなど)は、「書面」とは明確に異なる定義となる。 これらを踏まえると、書面には電磁的記録(Eメール等)は含まないと思ったほうが良さそうである。 「文書」とは何か(電子メールを含むか) ネット上で検索すると、「文書」は「文字によって意味内容を伝える媒体」を指すと紹介されている記事を見かける。 この定義が当てはまるのなら、文書は紙に限らず、電磁的記録も含まれる、ということである。 確かに、一般的には電子文書なんて言い方もする。 分野ごとの特別法では、「行政文書」「公文書」などといったものの定義では、紙だけでなく電子記録も含めることが明記されている場合もある。 しかし、どうも「文書」に電磁的記録を含むと定義する法律が見つからない。 寧ろ、上で紹介した民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の定義を見ると、「文書」は「書面」のひとつ(つまり、下位概念)という位置づけとなっている。 すると、文書も書面と同様、電磁的記録は含まないと解釈される可能性があるのではないだろうか? あくまで私見ではあるが、文書であっても電磁的記録は含まないと考えておいた方が安全かと思う。 実務上の留意点・対応 締結した契約書に「通知は書面によって行う」とある場合、原則として紙での通知が求められることとなるので、横着してEメールのみの通知に留めることはしない方が良いだろう。 もし契約段階で電磁的記録もOKにしたければ、契約自由の原則(民法521条)に従い、契約書の文言を「通知は書面(電子メールその他の電磁的記録を含む。)によって行う」と明記すれば良い。 仮に書面という文言のみで契約を締結した後に「やっぱりEメールのやり取りも入れたい」となれば、面倒ではあるが契約書の修正覚書を締結するのが望ましい。 文書という用語についても、書面と同様の対応で問題ないだろう。 仮に文書という用語自体に電磁的記録を含んだとしても、電磁的記録を含むと念押しする分には全く問題ない。 逆に電磁的記録を含みたくなければ、先ほどとは反対に電磁的記録は含まない旨を括弧書きで追記すれば良い。 なお、意図的に使い分けているのでなければ、「文書」「書面」という用語が同じ契約書内で登場するような表記ゆれは好ましくない。 よくある表記ゆれに関して知りたければ、以下の記事を参考にしてみてほしい。 契約書における記載ミスの話 契約ドラフトを相手方に提示するとき、一部表記ゆれがある点を指摘され、修正を求められることがある。 同じ意味に見えても、表記が異なることで、...

June 6, 2025

他社の企業ロゴをプレゼン資料に入れて良いか

社内外問わず、プレゼン資料として他社名を入れることはあると思う。 このとき、テキストで企業名を表示するよりも、企業ロゴを使って掲載する方が見栄えがよく、視覚的に伝わりやすくなることが多い。 つい資料に企業ロゴを使ってしまうこともあるだろうが、果たして勝手に載せて良いものだろうか? これらのロゴは日常生活で頻繁に目にするためあまり権利について意識されないかもしれないが、著作権や商標権の観点から改めて考えてみたい。 著作権の観点 著作権では、そもそも企業のロゴが著作物に該当するか?という点と、自社の資料に著作物を掲載する行為が著作権侵害となるか?の2点を考えてみたい。 企業のロゴは著作物に該当するか 著作権法第2条第1項第1号では、著作物は以下のように定義されている。 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。 「思想または感情」を 著作者自身の考えや感情を表現している必要があるので、単なる事実やデータは、著作物として保護されない。 「創作的」に 著作者自身が独自に創作したものでなければならず、他人の作品を模倣したものや、ありふれたもの(誰が表現しても同じようなものになるもの)は創作性があるとはいえない。 「表現したもの」であって アイデアなど表現されていないものは、著作権から除かれる。 「文芸、学術、美術、または音楽の範囲」に属する 著作物は、これら4つのいずれかの分野に属している必要があり、「工業製品」は著作物から除かれる。 さらに、第10条第1項では以下のように著作物が例示されている(あくまで例示)。 一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物 二 音楽の著作物 三 舞踊又は無言劇の著作物 四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物 五 建築の著作物 六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物 七 映画の著作物 八 写真の著作物 九 プログラムの著作物 このように図形なども著作物に含まれており、会社やサービスのロゴも例外ではない。 したがって、創作性などが認められれば、企業のロゴも著作物となる。 なお、文字のみからなるロゴマークには著作物性が認められる可能性は低いと考えられている。 自社の資料に著作物を掲載する行為が著作権侵害となるか 著作権者は上図の行為を行うことができるが、それ以外のものが著作権者の許可を得ずに同様の行為を行った場合などは、原則として著作権侵害に該当する。 プレゼン資料に著作物を勝手に掲載する行為は、原則として、著作権者の「複製権」を侵害する違法行為である。 また、プレゼン資料をweb上にアップロードして配信すれば、「公衆送信権」の侵害にも当たる可能性がある。 なお、著作権法30条1項では「私的使用のための複製」であれば、著作権者の許諾を得ることなく行うことができると定められている。 しかし、プレゼン資料で著作物を使用することは、社外向けはもちろんのこと、社内向けの資料であっても「私的使用」には当たらないと考えられる。 商標権の観点 商標権でも、企業のロゴが商標に該当するか?という点と、自社の資料に著作物を掲載する行為が商標権侵害となるか?の2点を考えてみたい。 企業のロゴが商標に該当するか もちろん、企業のロゴは商標となり得る。 こちらは著作権とは異なり、企業等が商標登録出願をし、各種要件をクリアして初めて商標として登録されるので、商標であるかどうかは明確である。 特許庁の特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)や、WIPOの商標検索サービスから、無料で検索可能である。 なお、著作物とは登録要件が異なるので、商標登録されている=著作物でもある、というわけではない。 自社の資料に登録商標を掲載する行為が商標権侵害となるか 商標権の場合は、登録商標と指定商品・役務がセットとなって権利化される。 ここで、以下3つの要件を満たすと商標権の侵害となる。 使用したロゴが、登録商標と「同一」または「類似」であること その使用が「同一」または「類似」の商品・役務に対してであること その使用が出所表示(商標的使用)であること 今回のケースは、企業のロゴをそのまま資料に載せることを想定しているので、要件1は満たすであろう。 要件2に関しては、例えば企業ロゴの商標における指定商品・役務と、プレゼン資料で取り扱う商品・役務とが無関係であれば、侵害行為には当たらない。 一方、指定商品と、資料で紹介する商品とが同一類似の場合、例えば指定商品が「清酒」で、自社の資料が「日本酒」を宣伝するようなものであれば、要件2を満たす可能性が出てくる。 しかし、単に資料中で提携企業を紹介したり、業界における競合企業を示すために企業ロゴを表示するだけならば、要件3(商標的使用)は満たさず、商標権侵害とはならないと判断される。 登録商標を他人が無断で使用した際、商標が商品やサービスの出所を識別する目的で使用される場合に要件3が成立する。 お酒の例で言えば、自社の日本酒に関する資料であっても、単に業界図を説明するために酒造メーカーの一つとして企業ロゴを掲載するだけならば、上記の目的での使用とは異なるだろう。 資料中の企業ロゴを見たとしても、自社が作った日本酒と、商標権者が作った日本酒との混同が生じるおそれは無いからである。 もちろん、資料に企業ロゴを表示することで、自社の日本酒があたかも商標権者が作った日本酒のような誤解を生むような見せ方は駄目である。 例えばニュースで他社商標が出てきても、それが単に他社の製品等を紹介するものであって、テレビ局の製品サービスと誤解を招くことが無いことを考えると、分かりやすいのではないだろうか。 社内資料なら他社の企業ロゴを入れても良い? 社外資料ならケアすべきと分かるが、社内に留まる資料であれば、著作権、商標権は気にしなくても良いか? 答えは「No」である。 著作権法では、私的利用であれば問題ないとされているものの、それはあくまで家庭内で利用する、といったかなり狭い定義である。 企業が業務上著作物を利用する場合には、たとえ内部的に利用するだけであっても、私的利用には該当しない。 では商標はどうかというと、商標法では、以下のように商標とは「業として」生産等されている商品・役務に使用されているものである。 第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。 一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの 二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。) ※「業として」とは、一定目的の下で反復継続することを要件とするが、営利目的である必要はない つまり、業として生産等していないものに使用する場合は、そもそも商標法で規定する「商標」に該当せず、侵害もしないということになる。 一方、たとえ社内資料であっても、業として生産等されている商品・役務に使用するのであれば商標に該当し、やはり商標権侵害とならないよう気を配るべきかと思われる。 社内資料に留まるのであれば、正直発見性という意味ではリスクは低いとは思うが。 補足 なお、不正競争防止法の観点から、「周知な商品等表示の混同惹起行為」や「著名な商品等表示の冒用行為」と認められるような使い方をしていないかが問題となることもある。 また、商標的使用はしない場合であっても、企業によってはロゴ使用にあたって事前承諾を要求する旨の規約を設けている場合もある。 したがって、事前承諾を得ておくのが確実となる。 まとめ 無断で自社の資料に他社の企業ロゴを使った場合についてまとめる。 使用によるリスク 企業ロゴに著作物性があれば、著作権侵害が成立する 企業ロゴが商標登録されており、指定商品等と同一類似かつ商標的使用(他社商品等と混同しそうな使い方)をすると、商標権侵害となる 社内利用の資料でも侵害となる可能性あり 対応方法 企業ロゴは極力使わないよう企業名のテキストに変える どうしても使いたければ、企業から許諾を得たり、企業の利用規約上問題ないことを確認する あまり面白みのない結論だが、仮に侵害可能性ある資料を外に出してしまうと「この企業は杜撰な管理をしている」と思われてしまうかもしれない。 企業イメージにも影響しかねないので、しっかり疑義のないよう対応しておきたいところである。

著作物の引用の範囲

ついブログを面白く見せようと、記事に漫画のコマを貼り付けたくなるが、作者の許諾なく使うと著作権侵害となってしまう。 しかし、著作物の利用は全てダメな訳ではなく、「引用」という形であれば利用できるとされている。 では、どういった条件をクリアすれば「引用」と言えるのだろうか? 著作物の「引用」とは? 著作権法上、他人の著作物をそのまま使うと原則として著作権侵害になる。 ただし、一定の条件を満たせば、「引用」として認められ、著作権者の許可なしに利用できることがある。 これは、表現の自由や学術・批評活動を保障するため、著作権法第32条で特別に認められている例外となる。 著作物の引用が成立するための条件 文化庁が発行する「著作権テキスト」には、引用の条件を以下のとおり記載している。 【条件】 1 すでに公表されている著作物であること 2 「公正な慣行」に合致すること(例えば、引用を行う「必然性」があることや、言語の著作物についてはカギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること) 3 報道、批評、研究などの引用の目的上「正当な範囲内」であること(例えば、引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であることや、引用される分量が必要最小限度の範囲内であること、本文が引用文より高い存在価値を持つこと) 4 「出所の明示」が必要(複製以外はその慣行があるとき) ※美術作品や写真、俳句のような短い文芸作品などの場合、その全部を引用して利用することも考えられます。 ※自己の著作物に登場する必然性のない他人の著作物の利用や、美術の著作物を実質的に鑑賞するために利用する場合は引用には当たりません。 ※翻訳も可 上記をもとに引用に必要な要件を整理したのが、以下の項目である。 公表されている著作物であること 引用できるのは公表された著作物だけであって、未発表の作品は引用できない。 著作権法4条に「公表」の内容が規定されており、発行され、又は上演、演奏、上映、公衆送信、口述若しくは展示の方法で公衆に提示された場合や、送信可能化された時点(ネット上へのアップロード)で公表となる。 なお、これらの行為は、権利者や許諾を受けた者の行為である必要がある。 引用を行う「必然性」があること(「公正な慣行」に合致) 自分の表現にとって、他人の著作物を引用する必要性がなければならない。 例えば、論評・批評・研究・紹介などで、「その著作物を引用しなければ、文章や論旨の展開が成り立たない」ほどに、その引用が不可欠な場合にあたる。 すなわち、自身の考えを証明する目的で著作物をブログに使うのは良いが、文章と全く関係のない情報を引用したり、単に見栄えをよくしようとして他人の画像を使ったりすることは、引用の必然性があるとはいえない。 例えば、ある美術品を講評するのに、文章だけでは読んでいる人にどういった美術品なのか伝わらないことがあるため、美術品の画像を掲載する、といった場合は、引用と認められると思われる。 一方、例えば映画紹介記事で、その映画のワンシーンの画像を掲載する場合であったとしても、その画像に対して本文中で言及や分析が殆どなく、単に視覚的な魅せ方やアイキャッチ的に使っているというケースでは、引用とは認められない可能性が高い。 「引用部分」が明確になっていること(「公正な慣行」に合致) どこからどこまでが引用なのか、明確に区別できるようにする必要がある。 引用符(”“)やカギ括弧(「」や『』)を付けることが多いが、インデントを付けたり、枠線を付けたり、太字や斜体にしたり、背景色を変えるといった方法もある。 Webの場合、htmlのblockquoteタグを使用すると「引用である」ということが明確となる。 また、学術論文など引用方法について確立された慣行がある場合、これに従うことが望ましい。 「主従関係」が明確であること(「正当な範囲内」であること) 自分の著作物が「主」、引用部分が「従」でなければならず、これを「主従関係」という。 引用が本文より目立ったり、本文より多かったりすると、主従関係が崩れ、引用とは認められない。 「主従関係」は、分量と内容について成立することが必要となる。 言い換えると、著作物が「報道、批評、研究その他の目的」を主たる目的とし、引用部分が従として利用されなければならない。 引用の目的、両著作物の性質、分量等を総合的に考慮し、自己の著作物が主体性を保持し、引用部分は、自己の著作物を補足したり、参考資料を提供するといった位置づけである必要がある。 分量だけで判断される訳では無いが、少なくとも、引用部分が半分以上を占めている場合は「自分の文章がメインである」とは認められない可能性が高い。 「出所の明示」をすること 「どこから引用したのか」を必ず明記する必要がある(著作権法48条)。 出所の書き方は様々だが、例えば Webサイトから引用したのであれば、そのサイト名、URL、著作者名を記載する(ハイパーリンクの設定も有効)。 画像やイラストであれば、更に著作物の名称、ライセンス情報を明記すると良い。 本の内容を引用したのなら、本のタイトル、著者名、場合によってはページ数も示すのが望ましい。 引用にあたり改変しないこと 厳密には引用の成立に必要な要件ではないが、引用にあたっては、原則として「改変してはいけない」 というルールがある。 著作権法第20条では、著作物の「意に反して改変されない権利」が著作者に認められている、 つまり、引用するときに言葉を勝手に書き換えたり、意味が変わるような編集をしたり、トリミングで意図をねじまげたりすると、たとえ引用の条件を満たしていても、同一性保持権の侵害にあたる可能性がある。 一方、実務上は「最低限必要な範囲」での改変として、例えば誤字脱字を訂正する、文脈上必要最小限の省略([…]など)を行うことは許されると考えられている。 とは言え、極力改変をしないに越したことは無い。 引用の条件を満たす難易度は? 上の通り、著作物の引用時には以下の条件を満たす必要がある。 公表されている著作物であること 「引用の必然性」があること 「引用部分」が明確になっていること 「主従関係」が明確であること 「出所の明示」をすること 引用にあたり改変しないこと これらの要件を満たすのは、どれだけ難しいだろうか? 1、3、5、6は条件が明確なので、それ程ハードルは高くない。 4も、自己の著作物の質と量に気を付けていれば何とかなりそうだが、論点となりがちなのは2である。 いくつか判例はあるものの、「その著作物を引用しなければ、文章や論旨の展開が成り立たない」かどうかは、結局個別のケースで判断されることとなるであろう。 つまり、「ここまで手を尽くせば、確実に引用と言える」という線引きは、なかなか難しい。 それでも画像を使いたい! 引用と認められない場合は自己責任となってしまう、というと身も蓋もないが、そもそも最初から利用可能なライセンスの画像を使えば著作権の侵害にはならず、問題ない。 利用可能な画像に関する詳細については以下の記事で触れているので、興味があれば参考にしてもらいたい。 画像をブログに載せるときのライセンス ブログを書き始めてから、記事の中に貼り付けたい画像を探すことが多くなった。 なかなかしっくりくる画像が見つからないのは日常茶飯事であり、よ... なお引用の議論とは少し話が逸れるが、近年は生成AIで画像やテキストを生成することができるところ、生成されたものの著作権の扱いについては、生成AIの利用規約で確認した方が良いだろう。 更に生成物が既存の著作物に類似している場合は、特に注意が必要となる。 まとめ 引用であれば著作物をブログ等に掲載しても侵害とはならないものの、その判断は難しく、少しでも「この使い方は引用と言えるのだろうか?」と迷うようなら、その著作物を使うのは避けた方が無難かと思われる。 その場合は、利用しても問題ないライセンスの画像を使うようにするか、そもそも画像自体を載せないように記事を作成しよう。