契約における知財の取り扱い

最近、開発委託契約やら、共同開発契約やらといった契約書のレビューを行う機会が増えている。 ここで、各種契約にて定めた業務を通じて生じた知財権(Foreground IP)の取り扱い方について、非常に粗々ではあるものの、備忘録を残しておきたい。 開発委託契約 知財権の帰属としては、 委託元帰属 委託先帰属 共有 のパターンがある。 委託元帰属 業務委託をしている以上、知財権含む成果物は委託元に独占させるという考え方。 委託先としては、業務を通じて自分達が完成させた発明までもが召し上げられてしまうため、委託料はその分高額となることが多い。 この場合、通常、委託先は委託元の同意無しでその知財権を使うのはNGとなる。 委託先も得られた知見を自分のビジネスに活用させたい場合もあるため、合理的な範囲で委託先にライセンス許諾する旨の条項を追加する場合もある。 一方、委託元も開発委託で得られた成果物を競業に使われては面白くないので、ライセンスを許諾するにしても事業範囲や地域的範囲などの制限を課すことが考えられる。 委託先帰属 委託先としては、開発委託により得られた知見を別の業務に展開したい場合もあるだろう。 その場合は、知財権を委託先帰属とすることがある。 委託元としては成果物を自由に利用できるようにしたいので、委託元が成果物を利用する場合は委託先が知財権の権利行使しない旨の条項を設けることが通常だろう。 あるいは、委託元に対しては無償の通常実施権を付与することも考えられる。 委託先の契約書のひな型がこのパターンとなっていると、テンションが下がる。 委託している開発部署が難色を示すのが目に見えており、先方との交渉が避けられないからである。 そして、所謂大企業ほどこういったひな型となっていることが多い気がする。 共有 特許法では、原則として特許の共有者は自由に特許発明を実施できる。 すなわち、共有であれば、お互いが自己実施する分には、相手方の許諾を得たりライセンス料を支払う必要はない。 しかし、経験上、開発委託契約で共有とするパターンを見ることは多くない。 そもそも、委託であれば共同で発明を完成させるケースがあまり想定されないためかと思われる。 また仮に共有とすると、互いの権利の持分を定める必要があったり、特許出願時の手続きが煩雑となる、といったデメリットがある。 共有とはせずに、お互いの事業に支障なきよう、成果物の性質により帰属先を決めておくといった対応も無くはない。 例えば、プログラムの開発であれば、プログラムの汎用部分は委託先、委託元特有の要求に基づいた部分は委託元、といった形が想定される。 この場合「どこまでが汎用部分なんじゃい!」と揉める可能性はあるので、特許出願の際は予め相手側に通知するよう定めておくのが無難か。 共同開発契約 共同開発契約の場合は、発明者主義の考えに基づくことが多い。 すなわち、お互いがそれぞれ単独で完成させた発明はいずれか一方のものであり、共同で完成させた発明に関しては、共有となる。 持分は互いの貢献分によって決めてもよいが、発明が生じる度に毎回持分の議論をするのも大変なので、双方に均等として50:50と定めるのが一般的かと思われる。 ここで、相手方に帰属することとなった知財権が自分の事業の妨げにならないかを確認するのは重要である。 例えば、自ら独自に事業を行いたいとき、相手方の保有する単独発明を利用せざるを得ない可能性がある。 また、第三者と事業を行う場合、共有の部分に関しては通常はサブライセンス権まで有している訳ではないので、事前に相手方の同意を得なければならない。 懸念があれば、少なくとも自社の想定事業範囲(サービスや製品、地理的範囲、有効期間など)では自由に実施できるよう、あらかじめ契約書の条項に盛り込んでおくのが良いと思われる。 ソフトウェアライセンス契約 ソフトウェアそのものの知財権はライセンサーのものであるが、ライセンスされたソフトウェアを利用してライセンシーが発明を行った場合はどうなるのか? 契約書上で明文化されていなければ、発明者主義に従い、ライセンシーに帰属することとなるだろう。 しかし、もしその発明がソフトウェアの改良発明であった場合はどうなるのか? ライセンサーとしては、元々は自分が開発してライセンスした発明なのだから、それを元に行った発明については自分も利用できるようにしたい、と考えることが多いと思われる。 そのような場合があり得るのであれば、改良発明の権利の帰属や実施権などの取り扱いについても契約で定めておく必要がある。 その他留意点 民法上は知財の帰属に関する強行規定は存在しないため、基本的に当事者間の合意で自由に決められる(任意規定なし)。 ただし、契約で明確にしないと、例えば委託契約であれば「成果物は作成した受託者に帰属する」という原則が適用される点は留意しておきたい。 また、独占禁止法の観点では、取引上優位な委託者が、受託者に不当に不利益な知財の譲渡等を強要する場合に、優越的地位の濫用となることがある。 例えば、十分な対価を支払っていないにもかかわらず成果物にかかる知財を委託元帰属としたり、不必要に広範な独占的利用権(ライセンス)を設定して市場競争を妨げる場合が挙げられる。

個人情報の第三者提供とクラウド例外

他社のクラウドサービスを利用する契約の話になったとき、「個人情報が相手のクラウド上に入るけど、DPA締結したほうがいいんだっけ?」という話があった。 識者から「今回のケースはクラウド例外だから大丈夫」といった見解を頂けたが、恥ずかしながら当時はクラウド例外なるものを知らなかった。 知財関係とは少し話が逸れてしまうが、契約実務の上で大事な情報だと思うので、この記事で内容を残しておきたい。 クラウド例外とは 「クラウド例外」とは、契約書やプライバシーポリシーなどで個人情報の取り扱いに関する制限を一部緩和する目的で用いられる表現である。 特に、「本人の同意無しに個人情報を第三者に提供してはならない」などの原則の中で、クラウドサービスの利用を例外として明示的に許容する場合に使われる。 ここで、第三者提供の意味を確認しておきたい。 第三者提供とは 個人情報保護法の第27条第1項柱書では、第三者提供の制限として、以下のように規定されている。 個人情報取扱事業者は、次に掲げる場合を除くほか、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない。 つまり、第三者提供とは、「個人情報取扱事業者が、第三者(他の法人・個人)に個人情報を渡す行為」を指す。 第三者提供に該当する場合の対応 この場合は、事前に本人の同意を得ることが求められる。 同意の取得にあたっては、個人情報の利用目的(例:「本サービスの実証実験のため」「本サービス利用に関する統計データ作成のため」)を具体的に特定し、本人に知ってもらう必要がある。 つまり、本人に内容を見てもらったうえで、納得して同意してもらうことが大事ということになる。 本人の同意を得る方法としては、個人情報保護法ガイドラインに記載の、以下のようなものが挙げられる。 【本人の同意を得ている事例】 事例1)本人からの同意する旨の口頭による意思表示 事例2)本人からの同意する旨の書面(電磁的記録を含む。)の受領 事例3)本人からの同意する旨のメールの受信 事例4)本人による同意する旨の確認欄へのチェック 事例5)本人による同意する旨のホームページ上のボタンのクリック 事例6)本人による同意する旨の音声入力、タッチパネルへのタッチ、ボタンやスイッチ等による入力 さすがに口頭だと証拠が残らないので、実務上は他の手段を取ることになるだろう。 第三者提供に該当しないケース 以下の場合は第三者提供に該当せず、本人の同意が不要となるが、それでもいくつかの縛りはある。 委託(個人データの取扱いに関する業務の委託に伴う提供) 「提供先において、提供元の利用目的でのみ利用しており、独自の利用目的では利用してない場合」を委託といい、この場合は以下の制限事項を遵守すれば本人同意が不要となる。 利用範囲:委託元の利用目的の範囲内に限られる 義務:委託元には委託先に対する監督義務が生じる 共同利用(特定の者との間で共同して利用される個人データを提供) 共同利用者間(例:グループ会社間)で個人情報を提供する場合は、本人の同意を得ることを不要とする制度であり、代わりに以下の制限が発生する。 利用範囲:個人情報の利用は共同利用の目的の範囲内に限られる 義務:共同利用者に適用されるルール(共同利用する個人データの項目、共同利用者の範囲、利用目的など)、をあらかじめ本人に通知し、又は本人が容易に知り得る状態に置く必要あり クラウド例外の具体的背景と意味 上述したように、個人情報の第三者提供は中々面倒な規制がある。 一方、実務上はAWS、Google Cloud、Microsoft Azureなどのクラウドサービスを通じてデータを保存・処理することが一般的になっている。 このようなクラウドサービスを利用する場合、形式的には「クラウドサービス提供事業者に個人情報を渡す」ことになるが、これを逐一「第三者提供」や「委託」として扱うと、手続きや説明義務が煩雑になる。 そこで、いわゆるクラウドサービスについて、クラウドサービス提供事業者が個人データを取り扱わないこととなっている場合には、個人データの提供(個人情報保護法27条)に該当せず、また、利用企業は委託先の監督(同法25条)も不要とする考え方(クラウド例外)が適用される。 つまり、本人の同意を取る必要も無いし、クラウドサービス事業者を監督する義務も無い。 クラウド例外が適用されるには、クラウドサービス事業者が実質的にデータにアクセスしない(アクセス制限・暗号化されている)ことが前提とされるケースが多い。 銀行で例えるなら、顧客に貸金庫を提供しているしているに過ぎず、銀行自体であっても貸金庫の中身にはアクセスしないような感じだろうか。 (少し前に、銀行員が貸金庫から金品を盗難した事件はあったが…) このように、クラウド例外は、法令違反を回避しながら利便性を確保するための契約上の工夫といえる。 もちろん、対象のクラウドサービスが適切な情報セキュリティ対策を講じていることが前提なのは、言うまでもない。

May 30, 2025

商標のコンセント制度

最近、競合ではない他社から、商標権の「併存合意」なるものを求める旨の書面が届いた。 普段特許をメインで担当しているとあまり聞き慣れないのだが、令和6年より施行された改正商標法で導入された「コンセント制度」に関するものらしい。 実務上知っておくべきだと思われるので、どんな制度なのかを書き留めておきたい。 コンセント制度とは? 平たく言うと、同一または類似する商標を、異なる権利者がそれぞれ商標登録することを認め合う合意のことをいう。 導入の背景 通常、先願にかかる他人の登録商標と同一又は類似、かつ指定商品役務も同一又は類似するなら、商標登録を受けることはできない(商標法第4条第1項第11号)。 外国では、先行登録商標と同一又は類似する商標であっても、先行登録商標権者の同意(コンセント)があれば後行の商標の併存登録を認める「コンセント制度」が導入されていた。 しかし日本では「当事者間で合意しただけでは、消費者は商品/サービスの出所を混同するのでは?」等の理由から、導入が見送られてきた。 しかし、日本でもコンセント制度の導入ニーズが高まったため、令和5年の商標法改正により導入に至っている。 なお、改正商標法の規定は令和6年4月1日から施行されているため、コンセント制度は令和6年4月1日以降にした出願にのみ適用される。 どんな要件が必要? 改正で商標法第4条第4項が新設されており、原文は以下の通りである。 第一項第十一号に該当する商標であっても、その商標登録出願人が、商標登録を受けることについて同号の他人の承諾を得ており、かつ、当該商標の使用をする商品又は役務と同号の他人の登録商標に係る商標権者、専用使用権者又は通常使用権者の業務に係る商品又は役務との間で混同を生ずるおそれがないものについては、同号の規定は、適用しない。 つまり、「他人の承諾を得ていること」「混同のおそれがないこと」の2点が必要となる。 必要な手続きは? 商標審査便覧〔42.400.02〕には、拒絶理由が通知された際に第4条第4項の主張をするために提出する承諾書等の内容を規定している。 承諾書 承諾書には、(1)引用商標権者であることを特定する記載と(2)出願人が商標登録を受けることを承諾する旨の記載を行う。 例えば、以下のような記載を要する。 私、登録第×××号の権利者である「○○」は、「△△(出願人の氏名又は名称)」が、下記の商標登録出願について、商標登録を受けることを承諾いたします。 記 1. 商標登録出願の番号 2. 指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分 「混同を生ずるおそれがない」ことを明らかにする資料 出願人は、「混同を生ずるおそれがない」ことを明らかにする資料を提出することができる。 このとき、現在だけでなく、将来も「混同を生ずるおそれがない」ことを証明する資料を出すのが重要となる。 具体的には、当事者間での商標の使用形態(例:甲は社名を付して商標を使用し、乙は特定のハウスマークを付して商標を使用する)、使用対象(例:甲乙間で同じ商品/サービスには使用しない)、等に関する合意の内容を記載する。 この記載内容が、審査で考慮されることとなる。 その他 引用登録商標と同一の商標であって、同一の指定商品/役務について使用するものは、原則として混同を生ずるおそれが高いと判断される 「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」で、コンセント制度の適用により登録された商標を検索することが可能 実務で使えそう? 実際に併存合意を求める書面を受け取っているので、少なくとも活用されてはいそうである。 しかし、コンセント制度導入以前にも、アサインバック(※)という手法を用いることで、先に登録された類似商標があっても登録を行うことは可能だった。 ※出願人を先の登録の商標権者に一旦名義変更して登録査定後、再度名義を出願人に戻すという手続き 2回の名義変更が必要になるため手間がかかるが、コンセント制度を利用しようとする際も、承諾書や混同を生ずるおそれがないことを明らかにする資料を準備する負担は大きそうである。 ただ、コンセント制度であればあらかじめ混同を生ずるおそれがないことを主張できるので、登録後に権利が不安定になることは抑制できそうな気がする。 特許庁としては、テクニカルな手続きとなるアサインバックよりも、正攻法としてのコンセント制度を使ってほしい、と言ったところか。 コンセント制度は、2025年時点では導入してから約1年が経過したばかりなので、今後活用事例が出てくるのを期待したい。

契約期間の考え方

契約において当たり前の話ではあるが、改めて契約期間について考えてみたい。 まずそもそも、契約に契約期間は常に必要だろうか? 契約期間の設定が必要か否かは、契約の性質(目的)と当事者の義務の継続性によって分類される。 契約期間を定めるべき契約 義務の履行が一定の期間に限られる契約が該当する。 一体いつからいつまで義務が発生するのか不明確になってしまうのを避けるため、契約期間は明確にする必要がある。 開発委託契約 請負型であれば、成果物の完成が目標なので、完成までの開発期間(いつまでに成果物を完成させるのか)を区切る必要がある。 また、準委任型の場合も、業務をいつまで行うかを明確化するために期間の定めは必要となる。 存続条項 上記契約では、例えば請負型なら契約不適合責任瑕疵などの存続条項を定めることが通常だが、それらはいちいち期限を設けないことが多い。 しかし、存続対象に秘密保持条項が含まれる場合は、秘密保持条項が有効期限を定めておくことが推奨される。 時間の経過とともに、契約を通じて得られた秘密情報も陳腐化するし、何よりも半永久的に秘密情報を管理する負担を強いるのは当事者にとって酷だからである。 ただ、秘密保持が片務型(当事者の一方が秘密保持義務を負う形)であり、自社が義務を負わせる立場の場合は、敢えて自分からは期限を定めないこともあるかと思う。 親切心で、わざわざ自分の提供した秘密情報が将来開示されてしまうことを許容する必要はない、ということである。 報酬支払いまで契約期間を設けるべき? 開発委託契約では、例えば契約期間の最終日に成果物を納品した場合、検収や報酬の支払いのタイミングが契約期間を超えることとなる。 それでは、報酬の支払いが完了する日までを契約終了日と定めるべきだろうか? 結論から言うと、契約期間は、原則として「業務遂行(成果物の納品など)」までを対象とし、検収や支払いといった後続処理は期間外でも有効に行えるよう契約条項で定めるのが一般的である。 契約期間は「委託業務を行う期間」を定義するもので、支払い等の事後手続きは必ずしも含める必要はない。 ただし、契約終了=全ての義務の終了と解釈されるリスクを避けるため、それらの義務に関する条項については、存続条項(契約期間満了後も有効とする旨を記載する)とするのが実務的である。 もちろん、契約期間を「報酬の支払いが完了するまで」と定めてもよく、この場合は具体的な日付まで定める必要は無い(いつまでに成果物を収めるか、とか、いつまで準委任の業務を行うか、という条件は入れる必要はある)。 秘密保持契約(NDA) 先に述べた理由により、情報の秘匿義務がいつまで続くかを明示する必要がある。 秘密保持期間は概ね2〜5年とすることが多いが、そこは開示する情報の性質に応じて相手方と調整することとなる。 ライセンス契約 契約期間を定めることで、特定期間だけ使用を許諾し、期間終了後は使用不可とすることができる。 買い切りのライセンス契約としたければ期間を定めない場合もあるとは思うが、期間を設けることの方が多いかと思う。 この契約では、急にライセンスが切れることによるリスクを避けるため、自動更新条項を含める場合も多い。 もっとも、うっかり契約更新の拒絶を忘れると、例えば1年余分にライセンス料を支払うこととなる可能性もある点は注意したい。 自動更新を拒絶できる期間は、多少余裕を持って設定したいところである。 賃貸借契約 土地・建物・物品などを一定期間貸し、その使用収益を認める代わりに賃料を受け取る契約となる。 契約期間を明示しなくてもよい契約 一回限りの義務であり、履行した時点で契約が終了する。期間よりも「完了」が重要となる。 売買契約 商品を渡し、代金を支払えば契約完了。 したがって、通常、契約期間は設定しない(引渡期限や支払期限はある)。 贈与契約 無償で物や権利を与える契約。 こちらも一度贈与したら完了なので、期間設定は不要。 まとめ 契約期間について契約種ごとにまとめると、以下の表のようになる。 期間を定めるときは、特有の留意点を考慮しつつ、自社に不利な条件とならないよう交渉するのが基本的な考え方となるだろう。 契約期間 契約種 備考 必要 開発委託契約 ・存続条項(特に秘密保持条項)に留意 ・支払い等の事後手続きも存続条項とする場合も 秘密保持契約 期間は2〜5年程度が多い ライセンス契約 自動更新条項を設ける場合あり 賃貸借契約 不要 売買契約 引渡期限や支払期限はある 贈与契約

May 24, 2025

画像をブログに載せるときのライセンス

ブログを書き始めてから、記事の中に貼り付けたい画像を探すことが多くなった。 なかなかしっくりくる画像が見つからないのは日常茶飯事であり、ようやく「いい画像を見つけた!」と思ったら、利用条件の厳しいライセンスが付与されているということもある。 ライセンスという単語を聞くと、画像使用に対するハードルが上がる印象を受けるかと思うが、ここでは「無料で商用利用が可能」となっている代表的なライセンスを紹介したい。 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(Creative Commons License、略してCCライセンス)とは、「こんな条件を守ってくれるなら、私の作品を使っていいですよ」と、あらかじめ許可しておくライセンスである。 全部がそうではないが、中には商用利用OKなものもある。 主な特徴 CCライセンスの表記には、以下の4つの種類が含まれる。 種類 使用条件 BY(Attribution) 作品のクレジットを表示すること NC(Non-Commercial) 営利目的で使わないこと ND(No Derivative Works) 元の作品を改変しないこと SA(Share Alike) 元作品と同じ組み合わせのCCライセンスで公開すること これらの条件を組み合わせてできるCCライセンスは、全部で以下の6種類となる。 種類 使用条件 CC BY クレジット表示 CC BY-SA クレジット表示 + 改変時は元作品と同じCCライセンスで公開 CC BY-ND クレジット表示 + 元作品を改変しないこと CC BY-NC クレジット表示 + 非営利目的での使用 CC BY-NC-SA クレジット表示 + 非営利目的での使用+改変時は元作品と同じCCライセンスで公開 CC BY-NC-ND クレジット表示 + 非営利目的での使用 + 元作品を改変しないこと ここで特に気を付けたいのは、太字で示した通り、NCの表記が含まれる場合は商用利用がNGとなる点である。 たとえ個人でブログを運営している場合であっても、アフィリエイトのように紹介料を得ていたり、広告収入があるサイトは商用と判断されるので、そのようなブログの場合はNCの表記の無いCCライセンスの画像を使用することが求められる。 利用時の注意点 当たり前ではあるが、著作権侵害とならないよう以下の対応を行っておく必要がある。 使用前に、どのCCライセンスか確認する 著作物に明示されているライセンスの種類をチェックし、使用条件を確認することが必要となる。 例えば、こんな感じである。 CC BY:クレジット等を書けばOK CC BY-NC:商用利用NGなので、アフィリエイト付きのブログでは使えない CC BY-ND:加工・編集は禁止(トリミングもアウトの場合あり) ブログで正しく使う 使用条件が判明したら、後はその条件に沿って使えば良い。 CCライセンスは何れも作品のクレジット等の表示が求められるので、最低限、以下の情報を書こう。 -作品の「Ⓒ 著作権者の名前 公表年」の3点セット(「クレジット」とも呼ぶ) - 作品に記載されている場合には、必ず記載すること。 作品の作者名、スポンサー、タイトル 作品に表示があれば記載すること。 元の作品の著作権表示かライセンス情報に関するページへの指定されたURL 作品に表示があれば記載すること。 記載場所は厳密に決められているわけではないが、ウェブサイトへの掲載であれば、同一のページに記載することが望ましい。 クレジット表記不要なライセンス 無料で使えるとはいえ、ぶっちゃけクレジット等の記載は面倒かと思う。 「どうしてもCCライセンスの画像を使いたい!」といった事情が無いのであれば、以下に紹介するようなクレジット表記が不要なライセンスの適用された画像を使うと良い。 CC0ライセンス CC0とは、著作権が生じている著作物について、自発的に権利を放棄して、パブリックドメインにしようという、何とも太っ腹な宣言である。 他のCCライセンスが著作権を前提として「利用の許諾を行う」のに対して、CC0は 著作権を放棄する 放棄できない権利は無条件かつ永続的な利用許諾を行う 利用許諾も無効な場合には権利行使をしないということを「確約する」 という構成になっている。 つまり、いかなる権利も放棄しますよ、ということである。 CC0の宣言がなされた画像等は、クレジットの表記も不要で、商用含め自由に利用することができる。 その他ライセンス その他、「商用利用可能/クレジット表示不要」のライセンスを適用している画像素材サイトもあり、実際はこれらにお世話になることが多いと思う。 ここでは、代表的な3つのサイトを紹介する。 Pixabay 特長 無料使用可能、クレジット表記不要(だけど付けるのは歓迎)、コンテンツの変更、改変もOK。 禁止行為 コンテンツに創作的な労力が加わらず、Pixabayに掲載されているものと実質的に同一の形態となっているものを販売または配布すること コンテンツに認識可能な商標、ロゴ、ブランドが含まれている場合、そのコンテンツを商品やサービスに関連して商業目的で使用すること 不道徳または違法な方法で使用すること 誤解を招く、または欺瞞的な方法で使用すること 商標、意匠、商号、会社名、またはサービスマークの一部として使用すること いらすとや 特長 規約の範囲内であれば、個人、法人、商用、非商用問わず無料で利用でき、自由に編集や加工をすることもOK。 会社のロゴマークやキャラクターや看板としても利用できるが、商標登録などをして独自の権利を主張することはできない。 留意点 1つの創作物につき、商用利用できる素材は20点まで(重複はまとめて1点)、超える場合は有償対応 禁止行為 公序良俗に反する目的での利用 素材のイメージを損なうような攻撃的・差別的・性的・過激な利用 反社会的勢力や違法行為に関わる利用 素材を主体としたコンテンツ・商品の再配布・販売 その他著作者が不適切と判断した場合 アル こちらのサイトでは、何と漫画のコマをブログ等に自由に投稿できるサービスを提供している。 ...

AI作品の著作権は誰のもの?

近年は、ChatGPTをはじめとするAIツールを使うことで、誰でも手軽にAI画像を生成することができる。 そのクオリティには目を見張るものがあり、改めてすごい時代になったものだと思う。 ところで、完成した画像には著作権は発生するのだろうか? また、仮に発生した場合は誰の権利となるのだろうか? AI開発者?それとも利用者? “AI画像に著作権は発生するか”>AI画像に著作権は発生するか AIが自律的に生成したものは、「思想又は感情を創作的に表現したもの」ではなく、著作物に該当しないと考えられる。 例えば、人が特に指示を与えなかったり、与えたとしても簡単な指示を与えるにとどまり、「生成」のボタンを押すだけでAIが生成したものは、著作物とはなり得ない。 一方、人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したもの(創作的寄与)と認められれば、著作物に該当し、その場合はAI利用者が著作者となると考えられる。 では、具体的にAI利用者が何をすれば創作的寄与が認められるのだろうか? この点については、AI技術の進展は目まぐるしく、また具体的な事例も多くないという事情もあって、文化庁による令和5年度のセミナー時点では目下検討中であった。 しかし、「令和6年度 著作権セミナー AIと著作権Ⅱ」にて、「創作的寄与」の有無を判断する上で考慮される要素について、考え方が整理された旨が報告されている。 まず判断に関してだが、 AI生成物の著作物性は、個々のAI生成物について、個別具体的な事情に応じて判断されます。具体的には、AI利用者の行為のうち、単なる労力にとどまらない「創作的寄与」となり得るものがどの程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されることになります。 とのことである。 さらに、いくつか具体的な判断要素も開示されており、内容は以下の通りである。 指示・入力の分量 影響しない:単に長大なだけで、創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまる指示 プラスに働く:創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示 生成の試行回数 影響しない:単に試行回数が多いこと プラスに働く:生成物を確認し指示・入力を修正しつつ試行を繰り返すこと 複数の生成物からの選択 影響しない:単なる選択行為自体 考慮が必要:通常創作性があると考えられる行為であっても、その要素として選択行為があるものもあることから、こうした行為との関係 また、人間が、AI生成物に「創作的表現といえるような加筆・修正」を加えた場合は、通常、その加筆・修正が加えられた部分については、著作物性が認められる。 このような状況を鑑みると、例えば プロンプトに、独自の思想感情を表現するための指示を含ませる プロンプトに、自分の表現を入れた画像を入れる 出力に対してプロンプトを追加し、修正を行う といった行為があれば、創作的寄与が認められる可能性も高まるのではないだろうか。 著作権は誰の権利となるか すでに上で触れてしまっているが、結論から言うとAI利用者が著作者となると考えられる。 なお参考までにOpennAIの利用規約(最終更新:2024/12/11)を見ると、以下のように記載されている。 コンテンツ情報 お客様のコンテンツ情報 お客様は、本サービスに情報を入力(以下「インプット」といいます)し、かかるインプットに基づいて本サービスから出力された結果(以下「アウトプット」といいます)を受け取ることができます。インプット及びアウトプットは総称して「本コンテンツ」といいます。お客様は、本コンテンツが適用法令又は本利用規約に違反していないことを確認することを含め、本コンテンツに対して責任を負います。お客様は、当社の本サービスに提供するインプットに必要なすべての権利、ライセンス、及び許諾を得ていることを表明し、保証します。 本コンテンツの所有権限 お客様とOpenAIの間において、適用法令で認められる範囲で、お客様は、(a)インプットの所有権限は保持し、(b)アウトプットについての権利を有するものとします。当社はアウトプットに関する権利、権原、及び利益がある場合、これらすべての権限をお客様に譲渡します。 本コンテンツの類似性 当社の本サービス及び一般的な人工知能の性質上、アウトプットは特有のものではない場合があり、他のユーザーが当社の本サービスから同様のアウトプットを受け取る場合があります。上記の当社による権限譲渡は、他のユーザーのアウトプット又は第三者アウトプットには適用されません。 これを見ると、 「アウトプット情報の権利はユーザーのものとして権限譲渡するけれども、他のユーザーが同じアウトプットを出していたら権限譲渡はしない」 とのことである。 早い話、早くアウトプットを出したもの勝ちということになろうかと思う。 なお、本記事では著作権の発生について記載しているが、他者の著作権侵害については以下の記事で触れているので、興味があれば目を通してみてほしい。 作風を似せると著作権侵害? 2025年4月16日の衆院内閣委員会(※)で、著作権における、生成AI画像について答弁があった。 内容が興味深かったので、そのやり取りを紹介...

著作権侵害要件「依拠性」について

著作権侵害が成立するためには、単に被疑侵害品と著作物とが類似しているだけではなく、「依拠性」という要件も必要である。 この「依拠性」とは、被疑侵害者が原作品を知っており、それに基づいて自己の作品を創作したことを意味する。 依拠性の概要 依拠性とは、簡単に言えば「真似した」ということである。 具体的には、被疑侵害作品の作成者が、著作物を見たり聞いたりしていて、記憶に残っていたことが必要となる。 つまり、偶然による一致(独立創作)ではなく、著作物を参考にして創作されたことが立証されなければならない。 立証方法 依拠を証明する責任は、権利を主張する著作権者にあるが、被疑侵害者が依拠したことを直接立証できる証拠を得ることは、まあ難しいかと思う。 そのため、実際は依拠性の存在を推認させる間接事実によって立証することとなる。 具体的には、例えば以下のような事情から推認が可能とされている。 著作物が広く公開されており、アクセス可能であった 依拠性が認められるほどに著作物と内容が非常に似ている(依拠が無ければ、ここまで似るとは考えられない) 特に後者は、創作性を有する部分だけでなく、誤字、誤植や電子透かしといった要素までもが類似していれば、依拠性が認められる間接事実となり得る。 実際、「依拠がなければこれほど似ないであろうというほどに類似している場合には,依拠の存在が推認される」とした裁判例は、「城の定義事件(東京地裁 平成4年(ワ)第17510号)」をはじめ、過去に幾つか存在する。 その他、入手は困難かもしれないが、以下のような情報もあれば、依拠性が推認される方向に傾くと思われる。 被疑侵害者が原作品を閲覧・視聴した機会があった 被疑侵害者と原作者との間に接点があった(職場、コンペ、SNSなど) 著作権を侵害しないために 被疑侵害者としては、「どこかで見たかもしれないが、真似はしていない。偶然似てしまっただけ」(無意識の抗弁)と反論したくなるだろう。 しかし、著作物へのアクセスが可能であったならば、このような反論は認められないというのが通説である。 無意識であっても、実際に過去に見たり聞いたりする可能性が否定できなければ、法律上免責されることは無いと考えた方が良い。 よって、自身の作品をブログやSNSなどに掲載する場合、それが「自身が独立して創作した」と考えているものであっても、その作品と酷似する既存の著作物が無いかは念のため確認しておくべきだと思われる。 たとえ著作物にアクセス可能であったとしても、依拠性が認められるほどに酷似していなければ、依拠性が認められる可能性はある程度抑えられるからである。 逆に、万が一ネット上などに物凄く類似する著作物があれば、本当に自ら独立して創作したのだとしても、間接事実から依拠性が推認されるリスクが高くなってしまう。 類似性の高さが依拠性を推認する間接事実としても機能することを踏まえると、結局行き着くところとしては、できるだけ既存の著作物と類似するものは出さないという普通の結論に落ち着くのではないかと思う。 もちろん、既存の著作物に依拠せず、独自創作した経緯(制作の時系列など)を合理的に説明できるに越したことはない。 例えば、AIでコンテンツを生成したのであれば、生成時のAIツールやプロンプトを控えておくと良いかもしれないが、それはそれで結構面倒だろう。 特に、自分の作成したプロンプトだけならまだしも、AIツール自体が対象となる著作物を学習対象に含んでいるかどうかを把握するのは非常に困難となる。 したがって、特に生成AIの場合は、学習過程が不透明であることから、依拠を推認する必要性が高いものと思われるため、「著作物との類似性」がより重要となると考えられる。

PL法と開発委託契約

自社が委託先となる開発委託契約において、誰が「製造物責任」を負うべきか検討する機会があった。 製造物責任法(PL法)を踏まえると、自社が開発した成果物については、委託元ではなく自社にその賠償責任があるのでは?と思っていたが、必ずそうとも限らないようである。 ここで、開発委託契約上の製造物の責任の所在について、整理しておきたい。 製造物責任法(PL法)とは 製造物責任法(Product Liability Law、以下「PL法」)は、製造物の欠陥によって他人の生命・身体または財産に被害が生じた場合に、その製造業者等が無過失で損害賠償責任を負うことを定めた法律である(日本では1995年に施行)。 法の趣旨 従来の民法では、被害者が製造者の過失を証明しなければならず、立証が困難であった。 PL法はこれを改め、過失の有無に関係なく、製造物に欠陥があれば製造者に責任を負わせることとしている。 責任の対象 PL法が適用される「製造物」とは、製造または加工された動産(電化製品、車、薬品、食品など)となる。 責任発生の要件 以下の3要件を満たすと、製造業者等に損害賠償責任が発生する。 製造物に「欠陥」があること(設計上・製造上・表示上の欠陥など) 欠陥により生命・身体・他人の財産に損害が生じたこと 欠陥と損害との因果関係があること このように、民法709条とは異なり、製造業者等に故意又は過失があったことまでを証明する必要はない。 開発委託契約との関係性 製品の開発・製造が他社に委託される場合(開発委託契約を結んだ場合)、PL法に基づく責任の帰属が問題となることがある。 PL法では、次のようなものが責任を負う。 実際に製造・加工した者 製造業者として表示されている者(ブランド表示者等) 輸入販売者(外国製品を日本に持ち込んで販売する者) つまり、開発・製造を他社に委託していたとしても、製品に自社ブランドを表示して販売していれば、委託元もPL法上の「製造業者等」として責任を問われる可能性がある。 PL法上の「対外的責任」は制限できない PL法は被害者保護のための強行法規的な性格を持っているため、消費者など第三者(被害者)からされた損害賠償請求に対しては、原則として賠償責任を負うこととなる。 責任の所在は? PL法により、消費者に対する「対外的な責任」は法律で定められるものの、委託元と委託先の契約関係では、PL法の強行規定が及ばない。 つまり、誰がその賠償を「最終的に負担するか」は、開発委託契約の中で当事者間の合意により自由に定めることが可能である。 例えば、「製品に欠陥があった場合、それが委託先の設計ミスや製造不良によるものであれば、委託元が消費者に賠償した金額を委託先に求償できる」との契約条項は有効となる。 もちろん、「共同責任」や、「原因に応じた按分」などの規定を設けることもできる。 責任の所在については交渉を要するだろうが、製品に欠陥があった場合の責任分担について契約で定めておくことは重要である。

May 15, 2025

作風を似せると著作権侵害?

2025年4月16日の衆院内閣委員会(※)で、著作権における、生成AI画像について答弁があった。 内容が興味深かったので、そのやり取りを紹介しつつ、自分なりの考察も交えてみたい。 ※少人数の委員で組織され、本会議の審議に先だって法律案などの議案の内容を専門的に検討する予備的審査機関 著作権上の生成AI画像の扱いに関する文科省の見解 「スタジオジブリのアニメに似せたAI生成画像が著作権侵害では?と言われている。どこまで適法?」 といった質問があり、文部科学省の戦略官が次のように見解を述べた。 個別事例については最終的には司法の判断に委ねられるが、単に作風・アイデアが類似しているのみであれば、著作権侵害に当たらない。 回答内容を要約すると、以下の通り。 著作権法は、思想または感情を創作的に表現したものを著作物として保護する 創作的な表現に至らないものは保護対象外なので、作風やアイデアが類似しているのみでなら著作権侵害には当たらない AIで生成したコンテンツに、既存の著作物との類似性及び依拠性が認められれば著作権侵害となり得る 考察 概ね、従来通りの見解ではないかと感じた。 作風というと、個々の描き方、技法をイメージするが、そのようなアイデアが全て著作権で保護されてしまうと、巷では著作権違反の創作物で溢れかえってしまい、皆が新たな創作活動を行うのを妨げることとなってしまうだろう。 これでは、著作権法の立法趣旨に反してしまう。 この辺りは、以下の文化庁のセミナー資料にも同様の記載がある。 出展:「令和6年度著作権セミナー AIと著作権Ⅱ」 (令和6年8月 文化庁著作権課) 一方、作風が具体的な外見や構図として「創作的な表現」になると、それは著作物(著作権の保護対象)となり得るということにもなる。 ここで気になるのが、じゃあどこまで行くと著作権侵害になるのか?という点である。 中々明確な判断が難しいところだが、判例を交えて考えてみたい。 判例(けろけろけろっぴ事件) 東京高裁の判例(平成12(ネ)4735)を挙げて考えてみたい。 以下、判決文の一部抜粋となる。 本件著作物は、カエルを擬人化した図柄である。本件著作物において、その「表現したもの」における、基本的な表現に注目すると、①顔の輪郭が横長の楕円形であること、②目玉が丸く顔の輪郭から飛び出していること、③胴体が短く、これに短い手足をつけていること、を挙げることができる。 カエルを擬人化するという手法が、少なくとも我が国において広く知られた事柄であることは、鳥獣戯画などを持ち出すまでもなく、当裁判所に顕著である。そして、カエルを擬人化する場合に、作品が、顔、目玉、胴体、手足によって構成されることになるのは自明である。 擬人化されたカエルの顔の輪郭を横長の楕円形という形状にすること、その胴体を短くし、これに短い手足をつけることは、擬人化する際のものとして通常予想される範囲内のありふれた表現というべきであり、目玉が丸く顔の輪郭から飛び出していることについては、我が国においてカエルの最も特徴的な部分とされていることの一つに関するものであって、これまた普通に行われる範囲内の表現であるというべきである。 そうすると、本件著作物における上記の基本的な表現自体には、著作者の思想又は感情が創作的に表れているとはいえないことになる。 …しかし、それを現実化するに当たっての細部の表現においては、擬人化したカエルの図柄に、形状、配置、配色によるバリエーション(変形、変種)を与えることによって、表現全体として作者独自の思想又は感情が表現されているということができ、ここに創作性を認めることができる。 引用:東京高裁平成13年1月23日判決 平成12(ネ)4735 要約すると、以下の点がポイントとなる。 「カエルを擬人化する」という手法自体はアイデアであり、著作物とはならない 擬人化する手法のうち、ありふれた表現(顔の輪郭、短い胴体など)については、著作権で保護されない 表現に独自の特徴があれば、その部分は著作権で保護され得る 参考までに、以下にいらすとやにあったカエルのキャラクターを掲載する。 確かに、こちらのイラストもカエルの顔の輪郭が横長の楕円形であり、短い胴体に胴体に短い手足が付いている。 これらの表現はありふれたものであることが伺える。 ※いやすとやのカエルのキャラクターに著作権が発生していない、ということを意味するわけではない いらすとやをディスっているわけではない ジブリ化したAI生成画像は著作権侵害? ジブリ化のケースで考えると、「スタジオジブリの描き方に似せたイラストを作る」という手法自体はアイデアであり、そもそも著作物とはならない。 一方、イラストをジブリ化する際に独自の表現方法があるか?を考えると、結構悩ましい。 例えば普通の人をジブリ化すると、具体的にどこが独自の特徴となるのだろうか? 淡く柔らかい色使い? 緻密な自然描写? 細かい背景とシンプルなキャラとの対比? 特徴を言語化しようとすると、何とも捉えどころがない。 いずれも独自の表現かと言われると、そこまでの特徴とまでは言い切れない気がする。 特定のキャラ(トトロなど)まで具体的だと、独自の特徴があって著作物と言えるだろうが、やはりジブリ化する行為自体は著作権侵害とは言えないのではないだろうか。 まとめ 作風を取り入れること自体が著作権侵害となる可能性は低いかと思うが、作成したコンテンツに独自の特徴が生じた場合は、それが既存の著作物と類似するときに侵害となる可能性が高くなる。 しかし、「ここが独自の表現だ!」と説明するのが難しくとも、絵柄を見るとジブリっぽさが感じられるのは結構凄いことだと思う。 そして、そんなイラストを出力できるAIは、その特徴を掴んでいるとも言え、何とも不思議な感覚になる。 ちなみに、著作権侵害が成立するには依拠性という条件も求められるが、それは以下の記事を参照いただきたい。 著作権侵害要件「依拠性」について 著作権侵害が成立するためには、単に被疑侵害品と著作物とが類似しているだけではなく、「依拠性」という要件も必要である。 この「依拠性」とは、...

欧州特許制度特有の手続き

欧州特許(EP特許)には、他国には無い独自の制度がある。 出願時から権利化後に至るまで、実務に関係する制度として、例えば以下のものが挙げられる。 これらについて、制度の概要を説明したい。 有効化手段1:バリデーション(Validation) EP特許が付与された後、特許権を特定の国で有効化するための手続きを指す。 EP特許は自動的にすべての加盟国で有効になるわけではなく、特許権者が指定した国ごとにValidationする必要がある。 手続き 各国特許庁に対して、EP特許の付与公告から3月以内に、以下の手続をする。 当該庁に対する手数料の支払い 当該国における代理人の指定 クレーム及び明細書について当該国における公用語翻訳文の提出 費用 上記の手続を各国に行うため、Validationは高額な手続という印象が強い。 しかしながら、ロンドン協定により、特にEPOの公用語を自国の公用語とする国では、クレーム及び明細書の公用語翻訳文提出が免除されており、また庁手数料の支払いや国内代理人指定の要件までもが免除されている場合もある(英、仏、独など)。 よって、現在では主要3国では相当に金銭的負担が軽減されているといえる。 有効化手段2:UP申請 EP特許を有効化するには、ValidationのほかUP(Unitary Patent)申請を行うという方法もある。 UPは、欧州特許庁(EPO)で付与された特許を、一括でEU加盟国の一部(現在17カ国)で効力を持たせる仕組みである。 手続き UPを選択する場合は、Validationとは異なり特許付与日から1月以内に申請する必要がある。 UPCA発効日から6年(+最大6年延長)の移行期間に限り、申請と同時に明細書・クレーム全文の翻訳文(*)を提出する必要がある。 この翻訳文には法的効力は無いものの機械翻訳は禁止されている。 *手続き言語が英語→他のEU公用語(ドイツ語など)への翻訳文。手続き言語が独語または仏語である場合→英語への翻訳文。 費用 EPOに対する申請手数料は無料である。 一方、年金がそれなりに高額となる。 Validation/UP申請のどちらがお薦め? UP申請は一括で17カ国(2025年時点)に適用されるため、UPでカバーされない国(英国など)を除いては、Validation手続きが不要となる。 一方、UP申請は年金が高額であり、有効化させたい国が3か国以内であれば、Validationの方が費用は安くなる。 また後述するが、UPの場合はUPCで裁判することとなるため、セントラルアタックにより一括で特許が無効となるリスクもある。 セントラルアタックを避けたい場合は、Validation+後述のオプトアウトで対応するのが良いだろう。 オプトアウト UPと連動して導入されたのが「統一特許裁判所(UPC:Unified Patent Court)」である。 この裁判所が管轄する特許は、EP特許のうちUPとして登録されたもの、またはUPとして登録しなくてもUPC管轄下にある国で有効化された特許だ。 ただし、従来通り各国の裁判所で争いたい場合は「オプトアウト」を選べる。これを行うと、そのEP特許はUPCの管轄外となり、各国ごとの裁判で争うことになる。 オプトアウトの対象となる特許 登録済のEP特許 出願中のEP特許(付与前でもオプトアウト可) 従来の国内特許には関係なし 手続き オプトアウトは「特許ごと」に行う EPOではなく、UPCの管理システムで手続き 費用はかからない オプトアウトの期限 2023年6月1日のUPC発足から7年間(移行期間中)はオプトアウト可能 一度オプトアウトすると、原則として再度UPCの管轄には戻せない(例外あり) オプトアウトするべき? UPCを利用したい場合であれば、オプトアウトは不要である。 UPC利用により、敗訴すると一括で特許が無効になるセントラルアタックがリスクとなるものの、一つの裁判でEUの多くの国の権利を守れるというメリットもある。 一方、従来の各国裁判所を利用したい場合ならオプトアウトすべきとなる。 各国で個別に裁判ができる(国によっては有利に進められる場合も)が、各国での手続きが増えるというデメリットもある。 まだUPCが発足されてから日も浅く、十分な判例が蓄積されていない。 このことから、従来の裁判の傾向をもとに争いたい場合は、オプトアウトを選択する場合も多いだろう。 License of Right(LOR) LORは、特許権者が誰にでも特許のライセンスを供与する意思があることを宣言する制度。その代わりに、特許維持費(年金)が割引される仕組み。 以下、LORの主な特徴を挙げておく。 年金の割引 LORを申請すると、年金が通常の支払い額より低くなる。 割引率は国によって異なるが、例えばイギリスでは50%の割引が適用される。 誰でもライセンスを受けられる LORが登録された特許は、希望する第三者が特許権者にライセンスを請求できる。 ただし、ライセンス条件(ロイヤルティなど)は当事者間で交渉可能。 特許権者のメリット・デメリット メリットとして、年金コストを抑えられるほか、特許が実施されやすくなることから、ロイヤルティ収入の可能性が増える。 一方、デメリットとしては、自由にライセンス契約を制限できない。 将来的に独占的なライセンスを希望する企業が現れても、LOR登録があると独占契約が難しくなるし、競合企業からのライセンス希望も断れなくなる。 LORの適用国の例 イギリス(UK IPO):年金が50%割引 ドイツ(DPMA):LOR制度あり フランス(INPI):LOR制度なし LORまとめ LORを活用すれば、特許の維持費を抑えつつライセンス収益を得る戦略が可能。 ただし、特許の独占性を維持したい場合は慎重に検討する必要がある。 まとめ 以上、欧州では国毎の移行手続きが必要な一方、EU加盟国の一部ではまとめて移行手続きを行うことができたり、統一特許裁判所の管轄下に置くか選べたり、年金割引できたり…と、手続きが煩雑であり、なかなか事務担当泣かせである。 必要な手続きを逃さないよう、チェック機能を整備したり、管理会社への移管をすることが望ましい。