契約において、損害賠償条項や免責条項といった条項で責任の範囲を規定する際は、必ずと言っていいほど以下の用語を目にすることかと思う。
- 故意
- 過失
- 重過失
- 責めに帰すべき理由
故意と過失の違いは直感的に理解できても、どこからが「重過失」と評価されるのか、また「責めに帰すべき理由」はどのレベルを含むのか、という点は、契約レビュー時に意識しておきたいポイントである。
責任の範囲を規定する各用語の意味
以下、それぞれの用語の概念を整理しておきたい。
故意
結果が発生することを認識しながら、意図的に何かをすること、または何もしないでいることを意味する。
したがって、主観的な要件といえる。
当たり前だが、通常、故意は過失よりも法的な責任は重くなる。
過失
結果を予見でき、かつその結果を回避できたにも関わらず、必要な注意を怠ることを意味する。
従来は、その人が十分緊張して注意したかどうかの心理的な問題だと考えられてきた(主観説)。
しかし、その人の心理的状態(注意していたのか、うっかりしていたのか)を判断するのが難しいことから、現在は、各分野(例:ソフトウェアベンダ)に属する平均的な人にとって「通常とるべき行動をしたかどうか」の問題と捉えるのが通説とされている。(客観説)。
「これは過失だ」と判断できる明確な基準を示すのは難しく、裁判では、サービスの性質などに応じて案件毎に判断がなされるのが実情である。
ソフトウェアベンダでいえば、運用や保守作業にあたっていたスタッフに人的ミスがあれば、過失と認められる可能性があると思われる。
重過失
わずかな注意をすれば、容易に結果を予見し回避できたにもかかわらず、漫然と見逃すような著しい注意欠如の状態であり、ほとんど故意に近いとされる。
この「ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態」があるという点が、過失との決定的な違いとなる。
ソフトウェアベンダの場合は、長期間既知の重大な脆弱性を放置したとか、セキュリティ標準から大きく外れた運用をしていた、という事情があれば重過失が認められ得るが、過失の認定よりもハードルが高いのは言うまでもない。
責めに帰すべき事由(帰責性)
「責めに帰すべき事由」とは、故意もしくは過失、または信義則上これらと同視すべき事由をいい、単なる「故意・過失」よりも広い概念となっている。
「信義則上故意・過失と同視すべき事由」として重要なのは、いわゆる「履行補助者の故意・過失」である。
ここで「履行補助者」とは、債務者が債務を履行するために使用する者を指す。
例えば、業務委託契約の受託者が第三者に業務を再委託する場合、この第三者が受託者の履行補助者に該当する。
もし受託者自身に故意・過失がないとしても、履行補助者に故意・過失があれば、受託者は委託者に対して損害賠償責任を負うと解される。
履行補助者の使用は、あくまで委託者が希望したものではなく受託者側の都合によるものであり、履行補助者の故意・過失は受託者自身の故意・過失と信義則上同視すべき、という理屈となる。
その他留意点
上記概念のほか、免責や損害賠償の検討に際し留意すべき点をいくつか挙げておきたい。
免責対象から故意・重過失の場合を除くこと
損害賠償責任の免責条項が、信義則や公序良俗に反し不当である場合には、無効になる場合がある。
具体的には、故意・重過失がある場合に損害賠償責任を免除・制限する条項に関しては、無効であると判断される可能性は高い。
また、利用者が消費者である場合、事業者に故意又は重過失がある場合にまで責任を限定する条項は無効と明確に定められている(消費者契約法8条1項2号)。
そのため、故意・重過失の場合については損害賠償責任の免責を定めない方が無難である。
過失相殺の減額
過失相殺とは、ベンダのみならずユーザーにも過失があった場合は両者の責任を相殺し、ベンダが支払う損害賠償額を減額することをいう(民法第722条2項)。
ユーザーに過失相殺に値する事情があれば、過失相殺の有無も個別案件で判断されることとなるが、例えばベンダの過失でユーザのデータが消失したとき、ユーザー側で簡単にバックアップすることができたにも関わらずそれを怠っていた場合には、損害賠償額が減額され得る。
したがって、利用者の立場であれば利用時の義務は守るよう努めるべきだし、ベンダ側の立場なら少しでも賠償額を減らすために過失相殺の主張をする検討余地があるかと思う。
損害賠償範囲に逸失利益を含めるか
民法第416条では、債務不履行(契約違反など)による損害賠償の範囲として、以下2点を請求可能な損害と定めている。
- 通常生ずべき損害(通常損害)
- 特別の事情によって生じた損害(予見できた場合に限る。特別損害)
ここで注意したいのは、民法に従えば項目2も含まれるところ、いわゆる逸失利益(契約違反がなければ、将来得られたはずの収入や利益)も損害賠償の対象となる可能性がある、という点である。
したがって、民法の定めとは異なり逸失利益を対象外としたい場合は、契約書で「現実に生じた直接かつ通常の損害に限る」といった限定を設ける運用が一般的である。