「立体」「動き」「ホログラム」「色彩」「音」「位置」の商標登録ができるようになったことを示す図

従来の商標は、文字・図形・記号やそれらの結合が中心であったが、ブランド表現の多様化に伴い、日本では段階的に新しいタイプの商標が導入されている。

具体的には、平成9年4月1日より「立体」、平成27年4月1日より「動き」「ホログラム」「色彩」「音」「位置」の商標についても権利化できることとなった。

文字等と比べて権利化を狙う機会は多くないかもしれないが、本記事では、これら商標の内容と、実務上のポイントを整理してみたい。

立体商標

商品の形状や建築物の外観など、立体的な形状そのものを商標として保護する制度である。

意匠登録も製品の形状について権利化できるが、意匠権は権利期間が出願日から25年(2020年3月31日以前の出願は「設定登録日から20年」)なのに対し、立体商標は費用を払えば半永久的に権利が維持される点が異なる。

また、意匠権では新規性、創作非容易性といった登録要件があるのに対し、立体商標では**使用による識別性の獲得(商標法3条2項)**が必要となる点も大きな違いである。

立体商標では、この識別性の獲得が難しく、商品の形状、外観といったものは、通常は機能や美観に由来するものと理解されやすく、原則として識別力が否定される。

そこで、まずは形状について先に意匠登録し、25年の権利期間の間にその形状について広く消費者に周知を図ることで、立体商標の登録の可能性が高めるという作戦が考えられる。

以下は登録事例であり、いずれも識別性ありと判断されたものとなる。

  • KFCのカーネル・サンダース像
  • コメダ珈琲の店舗外観
  • Honda「スーパーカブ」の車体形状
  • ヤクルトの容器形状

動き商標

文字や図形などが、時間の経過に伴って変化する商標であり、以下のようなものが動き商標となり得る。

  • テレビ広告・ネット広告における映像
  • 映画開始時のオープニングロゴ
  • 電光掲示板の表示方法

出願書類では、動きの経過に従って変化する様子を複数の図面で提出することが必要となる。

ホログラム商標

ホログラフィーその他の方法により、見る角度や条件に応じて文字や図形が変化する商標である。

クレジットカードのホログラム、模倣品対策として商品に貼付されるホログラムシールが該当する。

動き商標と同様、見る角度、温度などの条件に応じた変化を、複数図面で表現することを要する。

色彩のみからなる商標

単色または複数色の組合せのみから構成され、図形や文字を含まない商標である。

代表例としては、企業のコーポレートカラー、包装紙や広告看板に用いられる特定の配色が挙げられる。

色彩のみの場合、原則として識別力は否定されるため、使用による識別性の獲得がほぼ必須であるが、実際のところ登録率は極めて低い。

また、出願時における色彩特定には厳格性が要求され、単なる「赤」「青」といった抽象的記載は不可であって、表色系(例:RGBの配合率)または色見本帳番号の指定が必須となる。

複数色の場合は、需要者の印象に直結するため、各色の面積比率に関する記載は必須となる。

なお、2026/3/7時点で登録されているものは、以下が全てである(商品役務の情報は省略)。

色彩のみからなる商標の例

単色のみからなる商標も登録対象ではあるものの、現時点では複数の色彩の組み合わせでの登録しか確認されておらず、単色での登録は非常に困難であることが予測される。

音のみからなる商標

音楽、音声、自然音など、聴覚によって認識される商標であり、電子機器や電気自動車の起動音が一例として挙げられる。

出願にはMP3形式の音声ファイル(CD-RまたはDVD-Rで提出)と、音を特定するための詳細な記載が必要となる。

審査においては、音商標を構成する音の要素及び言語的要素を総合して、商標全体として識別力があるか否かが検討される。

したがって、言語的要素に識別性あれば登録されるし、音の要素に識別性があっても登録される。

しかし、音の要素だけでは識別力なしと判断されることが多いようである。

位置商標

文字・図形・色彩などの標章を、商品や包装の特定の位置に付すこと自体を保護する商標である。

例えば、靴の底側に付されるマークや、包丁の柄の特定位置に表示される標章がこれに該当する。

願書への記載時は、図面または写真を用いるとともに、どの部分が商標を構成する標章であるかを特定することが求められる。

例えば、商標として保護したい標章部分を実線で表示しつつ、商品全体など、それ以外の部分を破線で表示する形態となる。

出願動向

以下、JplatPatで出願年毎の各商標の出願件数を調べたリストである。

商標タイプ 2015年 2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年
立体 300 258 259 269 234 260 324 278 262 260 276
動き 81 37 10 25 23 17 22 18 28 24 20
ホログラム 14 3 0 2 1 0 0 1 0 0 7
色彩のみ 448 43 23 20 12 6 8 6 12 10 3
音のみ 365 133 81 52 37 23 23 20 22 31 21
位置 260 82 56 44 44 45 52 37 37 46 30

2015年の制度開始年には話題性も相まって出願件数は多かったが、近年は立体商標以外は件数が落ち着いているようである。

また、2026/3/7時点における各商標の出願・登録割合は、以下の通りである。

商標タイプ 全件数(出願却下を除く) 出願・権利存続件数 全体に対する出願・権利存続件数の割合
立体 7201 3094 43%
動き 310 251 81%
ホログラム 28 19 68%
色彩のみ 592 24 4%
音のみ 814 418 51%
位置 733 284 39%

「出願・権利存続件数」には、審査中のため登録となっていない件数も含まれるものの、

  • 出願件数:立体»音のみ>位置>色彩のみ>動き>ホログラム
  • 登録率:動き>ホログラム>音のみ>立体≒位置»色彩のみ

という傾向となっている。

特に、色彩のみからなる商標は、それなりに出願件数は多いが、登録率は極端に低いことが読み取れる。

制度開始時は駆け込みが多かったものの、登録に対するハードルの高さへの理解が進むにつれ、近年の出願件数はかなり減少しているようである。

一方、ホログラム商標は用途が限定されるためなのか、登録率は悪くないものの、そもそもの出願件数が圧倒的に少ない。

まとめ

新しいタイプの商標は、従来の文字・図形商標では保護しきれなかったブランド要素をカバーする強力な制度である。

例えば、従来であれば、不正競争防止法や意匠法で対応すべき模倣行為であるところ、周知性や出所の混同の有無等の立証が困難であったものについても保護を受けられる可能性がある。

一方で、識別力や特定方法に関するハードルは高く、特に色彩のみからなる商標は登録が極めて難しい。

実務においては、

  • 本当に商標として独占する必要がある要素か
  • 使用による識別性を立証できるか
  • 図面・記載により明確に特定できるか

といった点を冷静に見極めた上で、出願戦略を立てることが重要となる。

関連記事