NDA違反を指摘され、困っている企業

秘密保持契約(NDA)を締結したり、委託契約等で秘密保持条項を設けていたとしても、残念ながら情報漏えいが起きるときは起きる。

筆者も、以前勤めていた企業で秘密情報を取引先に勝手に論文に掲載されてしまったことがあり、そのときの技術部長の怒り具合は大変なものであった。

相手方から漏えいされてしまった場合だか、法的には損害賠償請求が可能であるものの、実務上は金銭的解決が機能しにくい場面が殆どではないかと思う。

「なら相手に何を要求出来るんだ」という話になると思うので、秘密保持違反が発生した場合に企業として取り得る現実的な対応を考えてみたい。

なぜ損害賠償請求は難しいのか

秘密保持違反に対しては、契約違反として損害賠償請求を行うことが可能である。

しかし実務上は以下の点が障害となる。

  • 秘密情報の漏えいによる損害額の立証が困難
  • 逸失利益や超過利益の算定が現実的でない
  • 情報が市場に流通した後は、損害範囲が不明確になりやすい
  • 取引関係の維持を考慮すると訴訟に踏み切りにくい

結果として、「法的には可能だが実行しにくい」手段になりがちである。

仮にNDAに損害賠償の範囲や算定方法を規定しても、結局は損契約違反と損害発生との間の因果関係や、損害の額の立証が難しい。

また「違反があった場合には●●万円を賠償する」という具体的な違約金の設定をすることも考えられるが、事前の違約金の算定も難しい上、あまりにも高額な違約金の場合は契約相手も難色を示すだろうし、また民法上の公序良俗違反とされ無効な条項となるリスクもあることから、違約金を設定しているNDAは殆ど無いものと思われる。

筆者の経験上も、具体的な違約金を定めたNDAは見たことがない。

因みに、労基法16条の関係で、従業員の間の就業規則において秘密保持義務違反時の違約金を定めることはできない。

そのため、実務上は金銭的回収よりも、被害拡大の防止と関係修復を優先した対応が中心となる。

原状回復の要請

まず最優先となるのは、これ以上の秘密情報の拡散を止めることである。

第三者への拡散の遮断

もし、相手方が秘密情報を開示してしまった第三者が特定できる場合には、

  • 第三者との間で新たにNDAを締結させる
  • 情報の使用・再開示の禁止を明確化させる

といった措置を求める。

完全な回収は不可能であっても、利用範囲を契約上拘束することで被害拡大を抑制できる。

資料・データの回収および削除

更に、可能な範囲で、データの削除、資料の返還、社内共有データからの除去を求める。

証跡として削除報告書の提出を求めることも想定される。

特許出願がされていた場合の後始末

漏洩した秘密情報が技術情報の場合、それが特許出願に利用されてしまうケースもあり得る。

その場合は、出願公開制度との関係で、対応は時間軸によって異なる。

出願公開前の場合

特許出願が公開される前であれば、

  • 出願の取下げ
  • 明細書内容の補正(秘密情報の削除)

を要請することが現実的な対応となる。

公開されてしまうと情報は原則として不可逆的に公知化するため、迅速な対応が必要となる。

出願公開後の場合

既に公開されている場合、情報の非公開化は不可能である。

そのため、完全な穴埋めというわけには行かないが、

  • 特許を受ける権利の全部または一部の譲渡
  • 共同出願への変更

といった形で権利関係の是正を図ることになる。

再発防止対応

原状回復に対応してもらった後も、違反の発生原因を曖昧にしたままでは再発リスクが残る。

そこで実務上は原状回復の要請とともに以下のような再発防止対策を求めることが多い。

  • 漏えいに至った経緯の報告書提出
  • 管理体制の見直し
  • 再発防止策の提示
  • 関係者への教育実施

ここで重要なのは責任追及そのものではなく、管理体制の改善を文書として残させる点にある。

これにより、将来同様の問題が起きた場合の抑止力にもなる。

相手側に今後も良い付き合いを続けていく気があれば、真摯に対応してくれるはず…である。

まとめ

秘密保持違反への対応は、以下の通り「損害の回収」よりも「被害の拡大防止」と「将来リスクの管理」に重点を置くのが現実的である。

  • 損害賠償請求は理論上可能だが実務的ハードルが高い
  • 現実的な対応
    • 原状回復措置により拡散を止めることが最優先
    • 再発防止策を文書化させることが重要

秘密情報は、一度拡散すると完全な回復が難しい。

したがって、違反発生後の対応だけでなく、今後の管理体制を含めた予防設計こそが最も重要な対応となる。

自分たちが漏洩させてしまった側となった場合も、再発防止策含めてできるだけ真摯に対応することで、取引先との関係性を悪化させないよう努めておきたい。

もちろん、こんなケースを検討せずに済むのが一番ではあるのだが。

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