言わずもがな、消費者にとってブランドイメージは商品・サービス選択の判断基準のひとつとなる。
他社と比べて突出して優れた商品であれば最初は市場を席捲できるだろうが、中長期的にみると他社製品の機能が追い付いてくる可能性もあるわけで、結局は先を見据えたブランド戦略の検討が必要になってくる。
知財部は商標等を侵害しないよう確認する役割を果たすが、ブランド戦略についても多少は理解しておいたほうが良いと思ったところである。
そこで、ブランドが何をしてくれるのか、そしてブランドを育てていく上でどんな戦略があるのかについて個人的な考えも含めてまとめてみた。
ブランドのもたらす便益
一口にブランドと言っても、どんな嬉しさがあるのだろうか?
David Aakerの『ブランド論』では、そんなブランドの便益を以下の4つに分類している(「社会的便益」は、その他3分類を提唱してから20年後に追加された)。
| 便益 | 概要 | 便益の例 |
|---|---|---|
| 機能的便益 | 機能・品質など、客観的に説明可能な価値 | 軽い、壊れにくい、精度が高い、燃費が良い、安全性が高い、健康に良い(低糖質/低カロリー等)、サポート体制が充実している |
| 情緒的便益 | 使用時の感情的満足や心理的価値 | ワクワクする、安心する、優雅な気分になる、癒される、誇らしい気持ちになる、ノスタルジーを感じる、特別扱いされていると感じる |
| 自己表現便益 | ブランドを通じて自分を表現できる価値(例:クリエイティブ、成功者、家族思い) | クリエイティブ、成功している、環境意識が高い、技術志向、健康志向、家族思い、アウトドア志向 |
| 社会的便益 | ブランドを通じて他者との関係性や所属感を得る価値(例:社交的、コーヒー好き) | スポーツ好きの集団の仲間、コーヒー好きの集団の仲間、環境に配慮する消費者たちの仲間、ヒップホップ文化愛好家の仲間 |
真っ先に思いつくのは「機能的便益」だが、実際には各社の機能的便益にはそれ程差は無く、むしろ顧客は**「情緒的便益」「自己表現便益」「社会的便益」といった感情的な要因**でブランドを選択することも多い。
自社では、これらのどの便益を意識して顧客に選んでもらえるブランドを育てていくのか、あるいはバランス良く育てていくのかを考えていく必要がある。
例えば、トヨタ自動車が展開している高級車のブランド「レクサス(LEXUS)」を題材にして、これら4つの便益を考えてみる(筆者の主観で作成したものなので、人によって異なるかと思う)。
| 機能的便益 | 情緒的便益 |
|---|---|
| 静粛性が高い、高燃費、耐久性が高い、安全性が高い(運転支援システムが入っている)、販売店のサービスが充実 | 優雅な気分になる、余裕を感じる、所有することへの満足感、特別扱いされていると感じる |
| 自己表現便益 | 社会的便益 |
| 派手さより本質を重視する、落ち着いた成功者、長期視点で物を選ぶ | 品質志向のオーナー層の仲間、経済的・精神的に余裕のあるオーナー層の仲間 |
このように、トヨタブランドに共通する「機能的便益」を持ちつつも、例えば「販売店のサービスが充実」といった価値も有している。
そして、これらの機能的便益を軸としながらも、LEXUSというプレミアムブランドならではの「情緒的便益」「自己表現便益」「社会的便益」を併せ持っている。
更に、
- 「販売店のサービスが充実」→「特別扱いされていると感じる」
- 「優雅な気分になる」→「落ち着いた成功者」→「経済的・精神的に余裕のあるオーナー層の仲間」
のように、各便益がそれぞれ結びついており、全体的に優れたブランドイメージが形成されていることが良く分かる。
ブランド戦略
ブランド戦略には主に以下の3つの戦略があると言われており、ブランド構築時には、事前にその方針を策定することとなる。
- 企業名等の下にブランドを展開する「マスター・ブランド戦略」
- 複数のブランド展開により市場シェアを獲得していく「マルチ・ブランド戦略」
- これらを組み合わせる「サブブランド戦略」
マスターブランド戦略
マスターブランド戦略とは、企業名やコーポレートブランドを前面に出し、製品ライン・サービス全体を一貫したブランド連想で束ねる戦略である。
例えば、BMWでは車種を表すときに「BMW」というマスターブランドの下に英数字を付けているし、楽天の例では、「楽天」の冠を使って「楽天市場」「楽天モバイル」「楽天カード」などにのサービス名を展開している。
ブランドを1つに集中することでブランドイメージを構築しやすい一方、1つのブランドイメージが悪化したときのリスクも大きくなり、また異業種参入時にはそれが障害となる。
例えば、庶民向けのイメージが強いブランドを高級志向の製品にそのまま使っても、顧客は食い付かないだろう。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| ・集中したブランド管理による高い投資効率 ・ブランドイメージを蓄積しやすい |
・事業拡大/異業種参入時に既存ブランドが邪魔になる ・ブランドイメージ悪化の影響が商品全体に及ぶ |
マルチブランド戦略
マルチブランド戦略とは、独立した複数のブランドを並立させる戦略であり、各ブランドが独自のポジショニングを持ち、異なる市場や顧客層を狙うこととなる。
上述の通り、例えばトヨタでは「TOYOTA」のほかプレミアムブランドである「LEXUS」を持つ。
P&Gでは洗濯用洗剤と化粧品とで別ブランドを展開し、更に洗濯用洗剤1つとっても「アリエール」「ボールド」「レノア」などの複数ブランドを持つ。
(化粧品メーカーは、他業種と比べてもブランドが多岐に亘っている印象を受ける)
メリット、デメリットは、マスターブランド戦略と逆転する。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| ・ブランド毎に明確なポジショニングが可能 ・異業種/新市場参入の自由度が高い ・ブランドイメージが他事業の制約にならない |
・ブランド管理・広告投資が非効率になりやすい ・自社ブランド同士でシェアの奪い合いが起きる可能性 |
サブブランド戦略
こちらは、マスターブランドと個別ブランドを組み合わせる戦略である。
「保証付きブランド戦略」とも呼ばれ、マスターブランドが品質や信頼を保証する役割を果たす。
その一方、個別ブランドがそれぞれ異なる市場向けのポジショニングを持つ。
例えば、ソニーであればSONYをマスターブランドとした「SONY PlayStation」「SONY WALKMAN」、任天堂であれば「Nintendo」をマスターブランドとして「Nintendo Wii」「Nintendo 3DS」を展開している。
もっとも、強力なマスターブランドを有することが前提条件となる。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| ・強いマスターブランド連想を活かし市場参入リスクを低減 ・消費者にとって品質保証として機能する |
・サブブランドが増えすぎるとブランド連想が希薄化 |
ブランドの役割による分類
また、ブランドが担う役割によって、どんなブランドを誰に認知してもらうかが異なってくる。
このパートでは、その役割をざっくり説明したい。
パッケージ型ブランド
主に消費財で用いられるブランドである。
消費財では製品性能の差別化が小さい傾向があるため、市場ブランド自体が「選ばれる理由」になる必要がある。
この場合は**「機能的便益」は期待できず、消費者心理に訴える「情緒的便益」が鍵となり**、一般消費者だけでなく、流通・小売業者への訴求も重要となる。
例えば、シャンプーはその機能に大きな差はないかもしれないが、「特別なケアをしている満足感」「自然・ナチュラルなものを選んでいる満足」といった感情がポイントとなるので、各社広告にも力を入れている。
成分型ブランド
主にBtoB企業で必要とされるブランド形態であり、パッケージ型ブランドとは異なり、「機能的便益」の重要度も高くなる。
「情緒的便益」も大事な役割を果たすが、パッケージ型ブランドのような顧客の感情に訴えるというよりは、 製品の信頼を補強する役割となることが多い。
つまり、**「安心して採用させるためのブランド」**というわけである。
この場合は、製品サービスの機能はもちろんのこと、製品開発思想や生産理念を取引先企業に理解してもらう役割も果たす。
また、場合によってはエンドユーザーへの認知が、取引先への影響力となることもある。
例えば、インテルであれば「Intel 入ってる」というフレーズを使って一般ユーザーへの認知を高めることで、PCメーカーに対する影響力を保持しようとしている。
顧客接点型ブランド
ホテル、旅行会社などのサービス業を中心に、人的な顧客接点を伴う事業で重要となる。
顧客へのブランド浸透だけでなく、従業員への理念浸透が不可欠である。
なぜなら、「パッケージ型ブランド」や「成分型型ブランド」とは異なり、各便益は接客体験から得られることが多い、すなわち従業員の行動そのものがブランドを体現するからである。
そのため、そのため、従業員への教育、マニュアル作成などががブランド管理で重要となってくる。
おわりに
ブランド戦略に唯一の正解はない。
自社の事業内容、顧客との関係性、将来の成長シナリオを踏まえ、どの便益を軸に、どのブランド構造で価値を届けるのかを意識的に選び続けることが重要である。
ブランドは短期的に作れるものではないからこそ、拡張や変更は慎重に行い、中長期視点で育てていきたい。
もちろん途中で戦略変更することを否定するわけではないが、市場導入済のネーミングやロゴを変更するとなると時間もコストも大幅にかかる上、蓄積したブランドイメージがリセットされるデメリットもあるわけで、やはり初期に広報・知財・事業部が連携して後戻りなき戦略を立案することが望ましいと思う。
実際問題、そこまで社内連携を密にする余裕が無い場合もあるのだが…