大学との共同研究により発明が生じた場合、その特許の取扱いは共同研究契約により定められる。
実務上は、出願前に当事者間で協議し、あらかじめ契約形態を選択しておくことが一般的である。
そうしておかないと、いざ出願後に整理しようとすると利害対立が顕在化し、調整が困難になるためである。
大学によってひな型は異なるが、多くの大学との共同研究契約では、以下の3つを選択肢として設けることが多い。
- 大学持分の譲渡
- 独占実施(不実施補償あり)
- 非独占実施(不実施補償なし)
大学持分の譲渡
大学が自己の持分を企業に有償で譲渡する方式である。
企業が単独権利者となるため、権利行使やライセンス方針を自由に決定できる点が最大の特徴である。
一方、大学は対価(譲渡金)を一括で取得することができる。
譲渡金は結構どんぶり勘定となることも多く、1件あたり100万円程度となることもあれば、もっと吹っ掛けられることも。
大学側としては多くの譲渡金を引っ張りたいという意図があるのは理解できるが、やり過ぎると企業側との関係性にも影響しかねず、最悪研究を途中で打ち切られてしまうリスクもある。
独占実施(不実施補償あり)
大学と企業の共同出願としつつ、企業のみが独占的に実施する方式である。
大学は自ら実施しない代わりに、企業から**不実施補償(実施しないことに対する対価)**を受け取る。
例えば、持分割合が均等の場合は、一般に第三者にライセンスする場合に採用される実施料に不実施者の持分割合の1/2 を乗じた金額を不実施補償料とすることが考えられる。
出願~登録までの費用は企業が全額負担とすることが多い。
また、企業が正当な理由なく実施しない場合、大学が第三者に対し非独占的実施権を許諾可能とする条項を設けることもある。
このように、企業に一定の独占性を与えつつ、大学側にも「活用されない場合の逃げ道」を残す構造である。
共同研究の成果を確実に事業化してもらいたい大学側の意向を反映した形といえる。
非独占実施(不実施補償なし)
企業は非独占的実施権のみを有し、不実施補償は支払わない方式である。
その代わり、大学は第三者に非独占実施権を許諾可能(実施料は大学に帰属)とし、自己の持分を第三者に譲渡することも可能とする。
一方、出願~登録までの費用は、持分割合に応じて負担とする。
特許法73条との関係
特許法73条では、共有特許について第三者への持分譲渡やライセンスには他の共有者の同意が必要とされている。
もっとも、同条は任意規定であるため、共同研究契約で相手方の同意が不要である旨を別途定めれば問題ない。
注意点
大学と共同研究を行った企業は、第三者が実施する場合であっても、共同出願費用や維持費を分担することになる。
企業としては必ずしも実施するとは限らない発明もあるわけで、その場合は「実施しないのに費用だけ負担する」という払い損の構造になりやすく、企業側の納得感が問題になりやすい。
その他
実務上は、一定期間の独占実施を設けるという折衷案も用いられる。
一定期間は共同研究相手の企業が独占的に実施でき、その期間経過後は、大学が第三者へのライセンス活動を行うことを可能とするものである。
この形により、企業は他社に先駆けて製品化でき、大学は将来的な社会実装の機会を確保できる。
また、非独占実施でも不実施補償を求めるケースが見られることがあるが、この点は企業側から見ればかなり不利であり、実務上トラブルになりやすい。
不実施補償をめぐる実務上の難しさ
企業側の立場で言えば、不実施補償の支払いを避けるのであれば、非独占実施とするのが合理的であるが、その場合は大学から競合メーカーにライセンスされる可能性が生じる。
競合へのライセンスを禁止する条項を設ける例も存在するが、実務上は、「譲渡」「独占実施」のいずれかとすることでリスクを根本的に排除するケースが大半である。
また大学側としては出願費用の負担は避けたいという思いから、持分譲渡や独占実施で契約したいという意向が強いようで、経験上は非独占実施とするケースは多くない。
その他、基礎発明と改良発明を分けて考える視点もあり得る。
共同研究の成果については、基礎的な内容として論文・学会発表等で公知化しつつ、そこで得られた知見をもとに社内で製品化をする上で生まれた改良発明は企業側で単独出願するというというものである。
ただその場合は、基本特許の独占は諦める必要が生じるのが悩ましいところである。
企業側の立場としては、共同研究の開始前に自社で生み出した基礎的な発明があれば予め単独出願するのが望ましいことは間違いないので、開発部にはその旨確認して進めたいところである。