特許侵害を理由とする警告書は、ある日突然届く。
「当社の特許権を侵害している」「直ちに使用を停止しろ」「損害賠償を請求する」「誠意ある対応が無い場合には法的措置をとる」といった内容に面食らうかと思う。
しかも、相手方は知財部長の連絡先を知らないことが多いためか、その通知を最初に受けるのは社長だったりするわけで、偉い人から「何か侵害の通知が来たけど、うちは大丈夫なんだろうな?」と言われることを想像すると、肝が冷える思いである。
そんな形で届いた警告書に対しては「対応しない」ことも含めて対応方法は自由ではあるが、場合によっては裁判となり、多くの時間、費用を要する上、最悪製品を販売できなくなる可能性もある。
和解金を払うのも嫌だが、販売中止だけは何としても避けたいと思うのではないだろうか。
こういった事態を避けるため、弁理士・弁護士(顧問契約をしている弁理士等のほか、例えば日本弁理士会への無料相談も可)に相談の上、警告書の内容を見定めつつ、誠意ある対応を行うことが求められる。
ちなみに、特許権を侵害された場合に関しては、別の記事で述べているので適宜参考にしてみてほしい。
特許侵害が疑われる場面では、いきなり訴訟という選択肢だけが存在するわけではない。 (ごく稀にいきなり訴訟する相手もいるらしいが、幸い筆者は...
警告書は誰から来たか
警告書の差出人は、主に次の三者に分かれる。
- 特許権者本人
- 弁理士
- 弁護士
一般に、弁護士名義の警告書は本気度が高いと受け止められることが多い。
弁護士からわざわざ差し出してくるということは、訴訟対応を前提とした体制が既に整っている可能性があるわけで、無視や安易な対応はリスクが大きい。
回答しないという選択のリスク
警告書に対して回答しない場合だが、言うまでもなく民事裁判を起こされる可能性が高まる。
特に、
- 回答期限が明記されている
- 弁護士名義である
- 侵害態様が具体的に記載されている
といったケースでは、無回答=交渉拒否と受け取られやすい。
警告書によっては交渉の提案を促す内容が記載されていることもあるが、その場合はライセンス契約や和解による早期解決を希望している可能性が高い。
その場合も、まずは何らかの回答をすることが無難である。
レアケースではあるかもしれないが、警告書の内容が情報提供としての側面が強く、相手側から特に回答を求められていないのであれば、必ずしも反応する必要は無い場合もある。
警告書の内容検討
知財権の侵害の警告は、権利者の主観的判断に基づくことも多く、誤用や濫用の可能性もある。
そのため、警告を受けた場合は、直ちに以下の内容を検討・調査し、冷静に対応することが重要である。
- 知財権が有効に存在するか、正当な権利者からの警告かの確認
- 自社の行為が、相手方の知的財産権の効力範囲に含まれるかを検討
- 自社製品が特許発明の技術的範囲に属するか(禁反言の存否も)
- 使用している標章が、登録商標と同一又は類似であり、かつ、指定商品・指定役務と同一又は類似か、など
- 必要に応じて、特許庁の判定制度や弁理士による鑑定を活用
- その他、先使用等による実施権があるか、特許権・商標権の効力の及ばない範囲の実施(特許法第69条、商標法第26条)に相当するか、などの検討
- 相手方の知的財産権の効力範囲に含まれると判断した場合は、実施行為を中止して故意責任を問われないようにする
- 回答に向けた準備
- 訴訟への備え
- 鑑定書などの証拠の準備
- 自社の知財権に関する準備(クロスライセンス用特許の有無確認、商標登録出願など)
- 不使用取消審判の請求(商標の場合)
- 判定請求、侵害不存在確認訴訟の提起
誰が回答するか
回答書の名義も重要な判断ポイントになる。
相手が弁護士であれば、こちらも弁護士名義で対応することで、交渉の土俵を揃える意味がある。
一方、技術的な争点が中心であれば、(自社がバックアップするのは当然として)弁理士が前面に立つケースも少なくない。
回答内容の考え方
「ゼロ回答(実質的な無回答)」は、無回答と同じ覚悟が必要になる。
一方、何らかの譲歩や交渉意思を示すだけで、交渉による解決の可能性は大きく残るのではないだろうか。
主に以下のような要素が回答書に盛り込まれることが多いかと思う。
- 認否・回答・求釈明
- 警告内容をどこまで認めるか
- 警告書の意味や根拠について釈明を求めるか
- 否認・抗弁
- 特許等の無効理由の主張
- 無効審判請求の示唆または実施
- 民事裁判において、無効理由の存在による権利行使制限を主張(特許法第104条の3、商標法第39条など)
- 交渉による解決の余地
- 交渉に応じる意思があるか
- 紛争の早期解決を目指す姿勢を示すか
- 譲歩・交渉内容の検討
- 製造・販売の中止
- 設計変更を行う
- 完全に中止する
- 在庫品の扱い(即時廃棄、一定期間後の廃棄など)
- 過去の販売分に関する損害賠償の扱い
- ライセンスの希望
- 一方向ライセンス
- クロスライセンス
- 相手方への提案
- 条件付きでの権利不行使の合意
- 損害賠償の免除
- 在庫の売り切りの承諾
- 段階的な使用変更の承諾
- 製造・販売の中止
なお、確認書の確認・検討には時間を要するところ、相手方が設定した回答期限(例えば、2週間以内程度)に間に合いそうになければ回答期限を延ばしてもらうよう依頼することは十分考えられる。
とにかく、期限までに「回答期限の延長希望」含めた何らかのリアクションをすることが大事となる。
交渉解決と合意書
交渉によって解決する場合、一部の例外(完全中止+廃棄証明書提出+損害賠償請求なし)を除き、合意書を取り交わすのが通常となる。
名称は、「合意書」「確認書」「和解書」「覚書」など様々だが、法的な意味合いはほぼ同じである。
合意書に盛り込むべき内容
最低限、次の事項は明確にしておきたい。
- 当事者の特定
- 対象となる権利および被疑侵害製品等
- 合意内容(各義務には期限を設けること)
- 製造・販売等の中止
- 損害賠償金の支払
- 設計変更の実施
- 各義務の期限
各義務に期限を明記しなければ、実効性のない合意になりかねない。
せっかく合意してもそれを守らない場合は相手方からの最終手段として訴訟提起の可能性があるため、こちらが遵守すべき事項には細心の注意を払っておくべきである。