特許侵害が疑われる場面では、いきなり訴訟という選択肢だけが存在するわけではない。
(ごく稀にいきなり訴訟する相手もいるらしいが、幸い筆者はまだそんな相手と遭遇したことは無い)
侵害された事案の性質はもちろんのこと、相手方の規模や態度などを踏まえ、どのルートで解決を図るかを戦略的に選択する必要がある。
本記事では、特許侵害紛争の主な解決ルートを整理したうえで、実務上では比較的活用の場面があるであろう警告書の送付について情報をまとめる。
特許侵害紛争の主な解決ルート
特許侵害紛争の解決方法としては、以下の選択肢が挙げられる。
- 交渉による解決
- 裁判外紛争解決手続(ADR)
- 知財調停
- 民事裁判による解決
- 本訴(差止請求、損害賠償請求等)
- 仮処分(差止仮処分など)
- 刑事告訴(故意による侵害行為であることが必要)
中でも当事者間の交渉による解決は、(相手方が誠実に対応することが前提であるものの)早期解決の可能性があり、最も柔軟でコストを抑えやすい手段でもある。
また、紛争の存在や内容が外部に知られにくい点もメリットである。
したがって、まずは交渉可能性を探るべく、被疑侵害者に警告書を送って様子を見るところから始めることが殆どではないだろうか。
警告書送付にあたっての基本的な考え方
以下、警告書の送付に関する留意点をまとめる。
どこまで争うかを事前に決めておく
警告書は、単なる「注意喚起」ではなく、権利行使の第一歩となる。
警告書を送付する前には、交渉決裂後にどこまで進めるのか(訴訟まで行くのか)までの道筋を事前に想定しておきたい。
もしまだそこまで考えていなければ、いったん警告書の送付はストップである。
特許侵害で注意すべき点の1つとして、権利行使を契機に相手方から無効審判を請求され、特許権自体が失われるというリスクがある。
「とりあえず送って、相手の出方を見てからゼロベースで考える」という姿勢は、結果として想定以上の費用負担を招くことがあるので避けておきたい。
警告書の送付方法と名義
警告書は、証拠を残す観点から内容証明郵便による送付が一般的である。
また、特許権者本人名、弁理士名、弁護士名のうち、誰の名義で送付するかも検討事項となる。
名義によって、相手方が受ける心理的インパクトや、その後の対応が変わることも少なくないからである。
やはり弁護士から送られると無視するのは抵抗があるだろうし、特許権者本人からであれば「交渉の余地あり」「まだ穏便にすませられそう」という意識が働くであろう。
警告書送付後の対応方針
警告書送付後の相手方の反応に応じて、次の対応を判断する。
何らかの譲歩や交渉意思が示された場合であれば交渉による解決を検討するだろうし、返信なし、またはゼロ回答の場合であれば、事前に決めた方針に従い、次の法的手段を含め、相応の判断を行うこととなる。
なお、1往復目は内容証明郵便とするのが通常だが、その後も必ず内容証明にするかどうかは事案によって異なる。
ただ、電子メールは原則として不適切と考えられる。
警告書に記載すべき主な内容
警告書には、主に以下のような内容を記載することが多い。
なお、警告書というタイトルは高圧的にも聞こえるため、「情報提供」「検討依頼」「通告書」といった表現とすることもあり得る。
- 当事者
- 行使する権利(例:特許登録○○○○○○号)
- 被疑侵害製品等
- 侵害の指摘
- 被疑侵害者の行為が、どのように特許権を侵害しているのかを指摘する。訴状ほどの厳密な構成は不要だが、ある程度具体的な対比を記載すべき場合もある。
- 被疑侵害者に対する要求事項
- 使用の中止を求めるか、それともライセンス料の支払いを求めるのか
- 損害賠償を求めるのか(その場合はいくら求めるのか)
- 仕入れ先、販売数量、販売価格、販売先のリストの送付
- 解決に向けた提案があれば行うことを求める記載
- 回答期限
- 被疑侵害者の検討時間を考慮し、2週間程度設けることが多い。3日など、あまりに短い期間の指定は却って不適切。
- 被疑侵害者の対応・回答を促すため、回答や誠意ある対応が無い場合には法的措置をとる旨を記載することが多い。
- 自社の連絡先
取引先への警告に関する注意点
被疑侵害者本人ではなく、その取引先に警告書を送付する行為は、不正競争防止法上の問題を生じるリスクがある。
慎重な検討なしに行うべきではない。
おわりに
警告書は、特許侵害紛争における重要な分岐点となる。
送付そのものが目的ではなく、最終的にどのような解決を目指すのかを明確にしたうえで、戦略的に位置付けることが重要である。
権利の強さ、相手方の態度、コストとリスクを冷静に見極めた対応が求められる。