知的財産に関する紛争の解決手段として、交渉の次の段階として思いつくのは「訴訟(裁判)」であろう。
訴訟は、交渉に非協力的な相手方に対し応訴を強制し、強制執行が可能という利点はあるが、とにかく解決までに時間と費用がかかる。
また原則公開であり、技術情報や紛争内容が開示される点もデメリットとなる。
ここで、訴訟に代わる選択肢としてADR(Alternative Dispute Resolution:裁判外紛争解決手続) が挙げられる。
日本では、日本知的財産仲裁センターなどがADRを実施しており、知財分野に特化した紛争解決の場として利用されている。
ADRとは?
ADRとは、訴訟によらず、中立な第三者が関与して民事上の紛争を解決する手続である。
代表的なものとして「調停」と「仲裁」がある。
調停とは何か
調停とは、第三者が当事者間に入り、解決案を提示することで紛争解決を図る手続である。
当事者は、その案に同意すれば解決となり、気に入らなければ拒否することもできる。
従来、調停調書には強制執行力が無かったのだが、令和6年4月1日のADR法改正により、調停での和解に「民事執行をすることができる旨の合意」を含めた場合には、強制執行が可能となった。
この改正により、調停は「柔軟だが実効性に乏しい手続」から、「実効性を備えた紛争解決手段」へと大きく前進したといえる。
調停のメリット
知財調停では、迅速な解決を目指し原則3回の調停期日で紛争解決を図る。
このため、簡易かつ迅速に解決できる可能性がある。
また、請求内容や争点の範囲を当事者が調整でき、途中で調停を取り下げて交渉へ回帰するといった柔軟な対応も可能である。
更に、裁判官、弁護士、弁理士からなる調停委員会で処理されることから、専門性も期待できる。
知財調停に適した事案、適さない事案
知財調停は、以下のような比較的論点が明確となっている事案に適している。
- 交渉中に生じた紛争
- 過度に複雑でない紛争
- 争点が特定されており、双方が話し合いによる解決を希望している場合
具体例としては、次のようなものが挙げられる。
- 特許権侵害の有無
- 特許権の帰属
- 商標の類否
- 著作権侵害の有無
- ライセンス料の額の争い
- 侵害による損害額の争い
一方、特許権の無効主張があり、審理・判断に時間を要するなど、争点が多くて事案が複雑な場合には適さない。
また、激しい交渉等を経て既に当事者間の信頼関係が失われている場合も、調停による解決は難しいと思われる。
これらの場合には、残念ながら訴訟や仮処分といった強制力のある手段を検討する可能性が出てくる。
仲裁とは何か
仲裁とは、当事者間の合意に基づき、第三者(仲裁人)が紛争について判断を下し、その判断に当事者が従うことで解決する手続である。
仲裁判断には、裁判の判決と同様の強制力が認められ、仲裁合意が成立すると、その紛争について裁判を受けることはできなくなる。
また上訴に相当する制度がなく、仲裁判断に不服申立てはできない。
このように、仲裁は最終的・確定的な解決をもたらす一方で、判断を覆す手段が存在しないという一発勝負のような側面がある。
そのため、実務上は仲裁よりも調停の利用が圧倒的に多い。
非公開性という共通のメリット
調停・仲裁は、いずれも非公開で行われる。
技術情報、契約条件、ライセンス料など、外部に知られたくない情報を扱う知財紛争において、非公開性は極めて重要なメリットである。
例えば訴訟まで行くと、相手方のHPには掲載されるわ、裁判例として掲載されるわ、ネット記事に掲載されるわで、裁判に負けようものならレピュテーションリスクが非常に大きい。
珍しい判例となれば、ひょっとしたら書籍に掲載されたり、弁理士研修で講師が題材に取り上げたりするかもしれない(それは気にしすぎかもしれないが)。
おわりに
知的財産紛争の解決において、「訴訟かADRか」は二者択一ではない。
紛争の性質、スピード感、相手方との関係性、求める解決内容に応じて、適切な手段を選択することが重要である。
特に知財調停は、専門性・非公開性・柔軟性を兼ね備えた有力な選択肢となり得る。
もっとも、相手方がある程度協力的な場合に限られるかもしれないが…