近年は電子署名(電子契約)が普及しており、収入印紙が原則不要となることが多いものの、紙での締結を行う場合は収入税の要否をしっかり判断しておく必要がある。
知財部員であっても、技術開発契約や知財関連契約を扱う場面では同様である。
印紙税は、印紙税法で定められた「課税文書」に該当するかどうかによって課税関係が決まるため、契約の名称ではなく、その内容が重要となる。
以下では、技術・知財分野で問題となりやすい課税文書の類型と実務上の留意点を整理する。
印紙税の課税対象となる契約書
課税対象となる契約書は、以下のリストの通りである。
| 文書の種類 | 文書の内容 |
|---|---|
| 第1号文書 | 不動産売買契約書、金銭消費貸借契約書、無体財産権の譲渡に関する契約書など |
| 第2号文書 | 請負契約書 |
| 第5号文書 | 合併契約書、吸収分割契約書、新設分割契約書など |
| 第7号文書 | 取引基本契約書、業務委託契約書など(契約期間が3か月以内で、かつ更新に関する定めがないものは除外) |
| 第12号文書 | 信託契約書 |
| 第13号文書 | 保証契約書 |
| 第14号文書 | 金銭又は有価証券の寄託契約書 |
| 第15号文書 | 債権譲渡契約書又は債務引受契約書 |
技術開発や知財関連の契約では、特に以下の文書が課税対象となる可能性が高い。
- 第1号文書:特許権譲渡契約書、著作権譲渡契約書など
- 第2号文書:技術開発を内容とする請負契約書
- 第7号文書:請負に関する取引基本契約書、包括的な業務委託契約書
なお、発明に関する「特許を受ける権利(出願権)」の譲渡に関する契約書の場合は、特許権そのものの譲渡を約するものではないので印紙税は不要である。
更に、ライセンス契約書も特許権や商標権などの「無体財産権の譲渡」ではないため、こちらも印紙税は不要である。
ちなみに、請負契約であっても、単発の契約として締結される場合は第2号文書となる一方、継続的な取引を予定する基本契約の形をとる場合には、第7号文書に該当することがある。
また、契約書の中に特許権等の譲渡に関する規定が含まれている場合、契約全体として第1号文書に該当するかどうかを慎重に検討する必要がある。
契約書の保管と印紙の負担
契約書を複数通作成する場合、各通がそれぞれ課税文書となる。
通常、お互いが保管する契約書に貼付する印紙は、それぞれが手配することとなる。
一方、単なる写しには印紙税は不要である。
電子契約を締結した場合に、その内容をプリントアウトしたものについても、印紙税は課されない。
変更契約書と印紙税
既存の契約について修正覚書を作成する場合、元の契約書で印紙税を貼っていればOK、というわけではなく、変更内容に「重要な事項」が含まれていれば、新たに印紙税が課される。
請負契約書における重要な事項としては、印紙税法基本通達別表2において、概ね次の事項が挙げられている。
これらの内容が含まれる場合は、修正覚書にも収入印紙を貼り付ける必要がある点には注意したい。
- 運送又は請負の内容(方法を含む)
- 運送又は請負の期日又は期限
- 契約金額
- 取扱数量
- 単価
- 契約金額の支払方法又は支払期日
- 割戻金等の計算方法又は支払方法
- 契約期間
- 契約に付される停止条件又は解除条件
- 債務不履行の場合の損害賠償の方法
技術開発契約では、開発内容や対価、契約期間の変更が頻繁に行われることが多いため、修正覚書の印紙要否を都度確認することが重要となる。
おわりに
技術関連契約や知財契約では、契約類型が複合的になりやすく、印紙税の判断が難しい場面が少なくない。
契約の実質的内容を踏まえ、どの号の課税文書に該当するのかを整理することが、実務上のリスク低減につながる。
特に、普段電子署名がメインの場合だと、たまに開発部から「この紙の契約書、印紙必要ですか?」と聞かれたときに回答に窮することもある。
経理にでも聞けば確実ではあると思うのだが、ここで「この場合は必要ですね」とさらっと答えられると、開発部からの信頼度も多少は向上するのではないだろうか。