契約を行う上で、民法には「任意規定」と「強行規定」という規定が存在することを留意しておく必要がある。
「任意規定」とは、当事者の合意で排除できる規定であり、契約で別の内容を定めれば、その合意が優先される一方、もし契約で何も決めていなければ、適用される規定である。
民法でも、次のように規定されている。
(任意規定と異なる意思表示)
第九十一条 法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関しない規定と異なる意思を表示したときは、その意思に従う。
一方、「強行規定」とは、当事者の合意で排除できない規定を指し、公序良俗や弱者保護など、社会的に重要な価値を守るために必ず適用される。
したがって、契約において、当事者間で強行規定に反する内容に合意したとしてもその部分は無効となる。
例えば、民法では第5条(未成年者の法律行為)等が強行規定である。
では、契約時の知財の取扱いに関して、強行規定となる条文は存在するのだろうか?
民法における「知財」に関する規定
結論からいうと、民法には知的財産権の帰属や利用許諾に関する直接の規定は存在しない。
民法は物権・債権の一般原則を定めるもので、知財の詳細は 特別法(著作権法、特許法、商標法、不正競争防止法など) に委ねられている。
ただし、直接ではないものの、次のような一般規定が知財契約にも作用する。
契約自由の原則(民法521条)
当事者は契約内容を自由に決められる。
知財の帰属・利用許諾についても、特別法の強行規定に反しない限り、自由に定められる。
請負契約(民法632条以下)・委任契約(民法643条以下)
開発委託契約は請負や準委任の性質を持つ。
ただし、請負の目的は「成果物の完成」であって「知財の帰属」まで規定していない。
不法行為・契約責任(民法709条、415条)
知財を契約外で利用した場合、不法行為責任・債務不履行責任が問われる。
これも一般原則であり、知財特有の規律ではない。
強行規定があるのは「特別法」
知財分野で強行規定といえそうなものは特別法に存在するが、その数は少ない。
例えば、以下のものは民法の契約自由の原則に対する「特別法による制約」といえる。
- 著作権法59条(著作者人格権は譲渡できない」):強行規定
- 特許法35条(職務発明に関する取扱い): 強行規定と考える判例が多い
しかし、特許法35条等、強行規定/任意規定のいずれと考えるべきか、未だ論争のあるものが多いのが実情である。
まとめ
知財に関する任意/強行規定は、概ね以下の通りとなる。
- 民法には知財の帰属や許諾についての直接規定はなく、契約自由の原則に基づき「任意規定」として処理される。
- 著作権法・特許法など特別法の一部には強行規定がある(著作者人格権は譲渡不可、など)。
- 実務上は、民法の任意規定に頼らず、契約で明示的に知財の帰属・許諾範囲等を定める必要がある。
知財で取り分けポイントとなる権利帰属、許諾範囲(期間、地域、対象など)、ライセンス費、サブライセンス権の有無などは、当事者同士の合意のもと契約で定めておけば強行規定によって無効化されること無さそうである。
しかし、あまりに一方に有利な契約内容となっている場合は、不公正な取引方法に該当するとして、独占禁止法違反となる可能性がある点は要注意である。
独占禁止法から見たライセンス契約上の留意点については、また別の記事で整理してみたい。